異性の子は可愛い・・
その例に漏れることなく姉もまた、
父親と名乗る男に比較的、可愛がられていた。
しかし同じく、不器用な母の
僅かながらの愛は全て僕に注がれていた。
そのため、姉は母の愛をあまり知らず
心に孤独を抱えながら生きてきた。
しかし決して腐ることはなく
僕の事はいつも見守ってくれた。
元々、口数の少ない姉と弟だったが、
例え、離れていても、孤児院に居たときから
二人の絆は親子よりも深かった。
そんな姉が父親を名乗る男からの
性的なものも含む、陰湿な虐待に
耐え切れずに家を飛び出したのは15歳の時だ。
姉は家を飛び出してからは
不良の道をまっしぐらに突き進んだ。
そして壮絶極まりない人生の中、
16歳の時に彼女は、当時隠れ住んでいた
アパートの自室で独り・・長男を出産した。
自分でへその緒を切り、そのまま病院へと歩いた。
彼女の人生もまた僕と同様に凄惨なものだ。
しかし僕が勝手に姉の人生を綴る事は
出来ないから、彼女の話はまたいずれ・・
機会があれば書きたいと思う。
姉が家出をしてから、父親と名乗る男の
ストレスの捌け口は完全に僕だけとなり、
僕は毎日、男の虐待に怯える日々が続く。
日々、エスカレートしていく陰湿な
虐待は留まる事を知らず、
僕の心も限界へと近づいていた。
僕が小学校6年生のとき・・
泥酔し、いつものように母親と僕を
何時間も木刀で殴り続け、殴り疲れて
自室でイビキをかいて寝ている男の
枕元に僕は静かに立った。
僕はそのままじっと
無表情のまま男を見つめ続ける。
その時間は気が遠くなるほど
長いものだったようにも思う。
殺したい・・
殺す・・
殺してやる・・
僕は男の枕の下にはいつも
本物の銃・・トカレフが
常備されてる事を知っていた。
枕元にはいつも銃を携帯していると
自慢げに構成員たちに話をしているのも
何度も耳にしていた。
僕は男の枕の下から覗く
トカレフのグリップを震える手で
そっと引き抜いた。
銃はとても小さく、
そのくせ、とても重かった。
僕は震える両手を必死に押さえ込むように
強くグリップを握り締め、銃口を寝ている
男の後頭部へと向けた。
まだ12歳の僕は、男を殺せば全ての苦痛から
開放されることを確信していた半面・・
この男を殺せば確実に一生刑務所で
過ごさなくてはならないと思っていた。
殺せば楽になるけど・・
母や姉と一生、会えなくなる。
一生、牢獄で過ごさなくてはならない。
僕はまだ何一つ・・
満足に生きてさえいないのに・・・・・
少年法など知る由も無い僕は
引き金に手をかけながら、
声を押し殺し、震えながら嗚咽を吐いた。
あの時のなんとも無機質な銃の重みと
こみ上げる恐怖心は一生忘れる事は出来ない。
つづく