近畿大学医学部法医学教室では現在、倫理委員会の承認を受け、個人識別におけるSNPs(一塩基多型;single nucleotide polymorphisms)の有用性を調べる研究を行っている。
1.研究概要法医学分野では様々な個人識別法が提案され、DNA鑑定の開発はその代表とも言える。
現在、DNA鑑定の主流となっているのは、STR(short tandem repeat)と呼ばれるDNA中の繰り返し配列を調べる方法である(図1)。STRとは2~4個のヌクレオチドが2~10回程度繰り返す並び方をしている部分で、個人によってその繰り返し回数が異なっている。
それに対して、当教室が注目しているのがSNPs(一塩基多型;single nucleotide polymorphisms)である。SNPsとはDNAの特定の場所で他人と1個のヌクレオチドが異なっている部分のことである(図2)。SNPsはSTRに比べ、劣化して短くなったDNAを用いて個人識別を行うのに有利であると言われている。
近畿大学医学部法医学教室では、SNPsを用いた個人識別が実務に応用できるかを調べている。
具体的に下記に示す3つの事項を調べている。
47座位のSNPsタイピングによる個人識別の有用性の調査並びに法医学分野への具体的応用の探索。
3.対 象当教室で行われた司法解剖体から採取した組織や血液等の試料300個を対象とする。また、当教室員関係者及び当大学医学部生ボランティア300人から提供してもらった血液、口腔内細胞、爪等のDNA抽出可能な試料。
4.方 法採取した試料からDNAを抽出し、47座位のSNPsと15座位のshort tandem repeat(STR)を調べる。研究は全て「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を遵守して行う。同一試料に対するSNPsとSTRの解析結果を比較し、SNPsタイピングの正確性を評価する。また、観測された遺伝子型頻度とハーディ・ワインベルグ平衡の成立を仮定した場合の遺伝子型頻度の期待値との相関性の有無を統計学的に評価する。
5.意義SNPsは突然変異が少なく、断片化の進んだDNAでもタイピングが可能であることから、特にSTR解析が不可能な試料に対してその効果を強く発揮すると言われている。当教室の研究によって、個人識別におけるSNPsの利点を示すことで、これまでSTR解析を断念していた劣化の進んだDNA試料に対して個人識別が可能となる。
6.個人情報の扱い司法解剖体に対しては、本ホームページ上で研究内容を告知することで、インフォームド・コンセントを省略して研究を行う。ボランティアからは文書によるインフォームド・コンセントを得る。試料は個人情報を削り、番号をつけて匿名化し、誰から得た試料なのかをわからないようにする。個人情報とこの番号を結び付ける対応表は作成しない。
3月下旬 | デモ開始 |
4月 | 本格稼動開始 |
弊教室 近畿大学医学部法医学教室はこのたび、超高性能ゲノム解析機を導入いたしました。
本機器は世界でもまだ100台足らずのもので、そのほとんどは癌の研究で使用されているものであり、法医学的意義を目的として研鑽する施設は日本では唯一、近畿大学の当教室だけである。
そのメリットは甚大で、
など、多岐多様に応用が期待される。
つまり、検査側の経験により判定が覆るような、結果ではなく、デジタル結果であるため、偽陽性が無く、証拠能力が高い。
また、未解決事件に寄与できるし、強姦事件の確たる証拠の提出も可能である。等々、社会的貢献は絶大である。
足利事件のようなことは二度と起こってはならないし、世田谷一家殺人事件の被疑者は非日本人といわれている。
強姦事件の泣き寝入りも多い。
そのような、事件解決の糸口になる資料作りに一石を投じたい。
平成22年3月28日
近畿大学医学部主任教授 法医学教室所属長 巽 信二