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「5.4.3.2.1…加速!」最大推力試験当日に奇跡は起きた - 国産戦闘機用エンジン「XF9-1」開発者インタビュー【後編】

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エンジンは小さいほうが実は難しい

——“生で15t”が与えた衝撃はいかがでしたか?

防衛省の中でも、日本でこういうエンジンができると思っている人が少なかったみたいで、議員の先生含めて見学者が殺到しました。

皆さんエンジンは難しいということはなんとなくご存知で、先代のXF5-1が5tでしたからその3倍の15tを出すだなんて無理だろうと思っていたようなんです。しかし、エンジンに詳しい人は小さいエンジンのほうが実は難しいことを知っているんですけどね。

——小さいほうが難しいんですか?

部品も精密に作らないといけないし、同じ1mmのエラーが発生したとして、1mmのインパクトは小さいほうが大きいですよね。

また、空気の流れにしてもエンジン内部では“境界層”という流れの良くない空気の層が発生するんですが、小さいほうが割合としては分厚くなります。小さなエンジンではそういった問題を解決しないといけないわけです。

だから小さいエンジンで大きな推力をちゃんと出せる技術があれば、大きいエンジンで同じことをするのは意外にできるぞ、ということになるんです。

——なるほど。確かにそうですね。

我々は今までXF3(推力1.7t)、XF3-400(同3.4t)、XF5-1(同5t)、XF-7(同6t)と、ほとんど間断なくジェットエンジンの開発を続けてきました。これら小さいエンジンで技術を継続して蓄積してきたというのは非常に重要でして、そのノウハウや教訓の継承がうまくいったのかなと思います。

昔は、先ほど申し上げたような理由で、XF3を作っても最大推力を達成するまでにすごく時間がかかったんですけど、次のXF3-400はその70%の期間と手間で達成しました、その次のXF5-1は30%で達成しました……という感じで徐々に成長していき、今回はXF-3の頃に比べると1/10くらいの時間で達成しています。でも推力は10倍です。

防衛装備庁における、これまでのエンジン開発年表。継続的に開発をしてきたことがわかる。研究期間(オレンジ)と試験期間(ピンク)がだんだん重なり、開発スピードが上がっている点に注目。

——開発完了はいつ頃を予定していますか?

XF9-1は飛行機に搭載して飛ばすところまでは想定していないので、来年の3月までで一旦終了です。

しかし引き続きやっていくことはいろいろあります。将来の戦闘機はこのエンジンを使うということが決まれば、そちらの作業に注力するんですが、もしそれがまだ決まらないのであれば、このエンジンを使ってもっと効率を上げられないかとか、さらなる研究をすることになります。

——今XF9-1が抱えている課題はあるのでしょうか?

現在のところ、XF9-1の試験を進めていく上で大きな課題は出てきていません。ただ、もし将来的に飛行機に積む際には、鳥や氷を吸い込んだときにどうなるのかといった点や、あえて厳しい使い方をして摩耗の仕方を見るなどの課題が出てきます。

しかしXF9-1は今のところ技術的な実証レベルですので、そこまでは想定していません。この先、もちろんトラブルがゼロということはないと思うんですが、ただ今までの経験上、ここまでできていれば何か起こっても必ず解決できる範囲だろうという感じです。

最大推力15tを選択した理由

——今の飛行機はソフトウェアによる制御で飛ばしていますが、エンジンを制御するソフトウェアと、機体を制御するソフトウェアは完全に別物なのでしょうか?

ちょっと前までの飛行機はエンジンと機体のソフトウェアが完全に別でして、足でエンジン出力を調節して、手でハンドル操作をするというような、いわば車みたいなそれぞれで制御する方式だったんですが、今はどちらもリンクしています。お互い連携しながらということになります。

またこれには“推力偏向”なども関係してきます。飛びたい方向によってエンジンの噴射の向きを変える技術です。来年度末にXF9-1の開発が終わったところで、それに取り付ける推力偏向ノズルの開発に入る予定です。そちらもIHIさんが製造を担当します。

XF9-1の先代に当たるXF5-1のノズル部分(実物)。ここに3枚のパドルを取り付けて先進技術実証機X-2に搭載し、3次元的にジェット噴射の向きを操る実機試験がすでに行われ終了している。

——今回の開発で一番大変だったことはなんでしょうか?

現在のところ、XF9-1は順調に進捗していますが、これも、これまで研究開発してきたエンジンの技術的な積み重ねの成果であったと思うんですよね。今までのエンジンに比べればずっと安産でした。……お金を取ってくるのが一番大変でしたね(笑)。

ただ、XF9-1は従来のエンジンと比べるとサイズが大きいので、今まで使っていた試験設備に入らないなど、テストをすること自体が大変と言えば大変ですね。下の写真でゴチャゴチャしてるのは全部、温度や圧力を測る計測器なんですよ。

1000カ所以上に付けて計測して、それが終わったらチェックするためにバラしています。そしてまた全部付け直して計測するの繰り返しです。それが大変って言ってるようじゃ研究開発できないですけど(笑)。

計測技術の進展もXF9-1開発にとって重要なファクターであり、特に回転中のエンジン内部の様子がわかるようになったのが大きいという。これまでは一旦エンジンを止めて中を開けて、回転中の様子を推測していくしかなかったが、今ではレーダーのように電波で温度や圧力などの計測データを飛ばして、多数の計測点でエンジン内部の状態をキャッチすることで、回転中でもリアルタイムに計測できるようになったそうだ。

——今後XF9-1はパワーアップをしていくのでしょうか?

今後もっと大きな推力が必要になるかもしれないし、あるいはもっと小さくてもいいかもしれない。そういうときに、推力の大きいものを小さくすることは比較的容易にできるけど、推力の小さいものを大きくする場合は、形状を単純にスケールアップするだけでは、機械製造上の制約や重量が大きくなってしまうので、「ここなら両方取れるね」というのがXF9-1の最大推力15tという数字なんです。

ですので、このままXF9-1をパワーアップさせるかどうかは、将来の戦闘機をどうするか次第です。エンジンをひとつだけ搭載した戦闘機になるかもしれないし、ふたつになるかもしれない。また、航続距離を優先するかもしれないし、機動性を優先するかもしれない。でも、どの場合でもこのエンジンを中心に据えておけばいけますよ、というのがXF9-1なんです。

コア部分を流用して発展させた例。XF7-10(右)はXF5-1(左)のコアを元に開発された。XF7-10の量産型エンジンF7は、韓国海軍によるレーダー照射事件で話題となった海上自衛隊の哨戒機P-1に4台搭載されている。

——エンジンのステルス性能も試験しているのでしょうか?

ステルスというのは、レーダーから電波を飛ばしてそれがどう跳ね返ってくるかを見るものなので、エンジンの内側にはあまり関係がないんですよ。基本的には機体側の問題になります。

とはいえ、エンジンの入口と出口は関係してきますので、XF9-1自体が電波をどのように反射するかとか、赤外線をどのように放射しているかについてはこれから当然調べますし、どうやったら目立たなくできるかも検討しています。

自分たちで開発できることの意味

——戦闘機エンジンを国産で作る意義について、髙原さんはどのようにお考えですか?

将来的に日本で戦闘機を作るとして、そのときに国産エンジンを積むかどうかはもっと大きな判断になってきます。しかし我々としては、エンジンは機械技術の究極だと思っているので、そこをしっかり国内でやれるというのは意義があると思っています。

世界で15tクラスのエンジンを作って運用できているのはアメリカとロシアだけですし、いざとなったときにアメリカと伍せるだけの力があるというのは重要です。

また、海外からエンジンを買って戦闘機を作るという選択をしたとしても、自分たちでエンジンを作る力さえあれば、それは大きな交渉カードになりえます。「その値段だったら自分でやるからいいよ」と言えるのは大きいです。技術がなければそのまま買うしかなくなりますし、やろうと思えばできるというのが重要なんです。

——中国のジェットエンジン開発についてはどう見られていますか?

なかなか正確なところはわからないのですが、本質的な部分は解決できていないと聞いています。

ただ、本当にそうなのかはわかりませんし、着実に戦闘機を作っては飛ばしています。毎年進歩発展しているのは間違いないです。だから頭からダメだろうと決めてかかるのは良くないでしょう。

——髙原さんにとって理想のエンジンとは、どのようなものでしょうか?

難しい質問ですね……。やっぱり運用者にしっかり信用してもらえるエンジンでしょうか。ピークの性能だけはいいけど、ちょっと変なことになるとすぐ性能が落ちてしまうとか、そういう使いにくいエンジンではダメだと思います。

正直言って、日本では実際に運用される戦闘機エンジンは作ったことがないので、私も含めて特に技術屋さんの自己満足みたいなものになってはいけないと思っています。

——髙原さんにとって「ジェットエンジン作り」とは?

やっぱりジェットエンジンって「工業技術力の結集」だと思うんですよね。そういった最先端の塊に触れられるというのは、エンジン作りの醍醐味です。

グラム当たりの単価で言うと、ジェットエンジンより高い工業製品って人工衛星くらいしかないらしいですよ。……いや、それで言ったら一番高いのはソフトウェアか。なんせ重さがゼロですから(笑)。

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