親がその場にいなければ支払われなかった前借金

ペ・ジュンチョル:そういう話をどこで聞いたんですか。

──うわさで聞いたよ。いろんな話を聞いてね。あちこち歩き回ってから見つけたの。それで、私を買うかって聞いたら買うって。いくら欲しいかって聞かれて「うちの父と母が困るから、3年を期限にいくらくれる?」って聞いたら「2000ウォンあげよう」と言われた。だから、「2000ウォンじゃあ、1年で1000ウォンにもならないよ。1年に1000ウォン欲しい」と言ったら「いいだろう。3000ウォンにするから、家に帰って親の同意を得てきなさい」ってなって。

 前回の寄稿で述べたように、慰安婦として就職するためには戸主、つまり父親の承認が必要だった。ヒョン・ビョンスクの父親も最初は反対するが、娘に強くせがまれて、結局は承諾する。無論、父親も娘がどんな仕事をするのか承知していた。

ペ・ジュンチョル:「ハンコはもらえましたか」

──もちろんだよ。父か母を連れていったらお金をもらえたの。それに、祖父や祖母のハンコももらえって。当時は厳しかったんです。

ペ・ジュンチョル:「それは何歳でしたか」

──16歳になってたと思うよ。酒場にも2年くらいいたからね。祖父と祖母のハンコまでもらえなんて。ハンコを押してくれるか心配で。父なら私の話を信じてくれる。だから父の手を引っ張って川辺に連れてって話したの。「お父さん、女性を買いに来た人がいるんだけど、いくらいくらくれると言うから、遠い所へお金を稼ぎに行きたい」。父にいい暮らしをさせてあげたかったし、好きなものを食べさせてあげたくて。「お父さん、私を働かせて」。

 この場合、前借金はその場に親がいなければ支払われなかった。そして、両親と祖父母の同意と捺印が必要だった。父親だけでなく、母親と祖父母の同意と捺印まで必要な理由は分からないが、連帯保証人だったものと思われる。これが契約でなくて何であろうか。契約条件の一つとして、娘をほかの所に売り渡すなという要求を付ける。

──「それなら行かせてやろう」と父が言って、父と母の名前を書いてからハンコを押してくれた。「おじいさんとおばあさんのハンコも欲しいって。どうしよう、お父さん」と言うと「じゃあ父さんが書いてやる」。父が書いてから祖父と祖母のハンコを押して、それからみんなの同意をもらった。それを持って博川へ行ったの。父は「あなたに売るのだから娘をほかの所に売り渡さないように」。そんな約束をした。私が「父はこう要求してますけど」って言ったら、「それはあなたの好きにしていい」と言われて「分かりました。行きましょう」ってなったの。