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大曲貴夫(医師)

大曲貴夫(医師)

国立国際医療研究センター 国際感染症センター長

大曲貴夫(医師)

2020年3月

公衆衛生

医療従事

取材日:2020年3月31日

大流行への瀬戸際、いま都市封鎖は必要か


 

いま抑え込まないと、ニューヨークのような大流行に

 

――東京ではきょうも78人の感染が新たに確認されました。そのうち6割にあたる49人が、今のところ感染経路が分かっていないということです。医師で、都へ助言もされている大曲さん。こうした状況を、東京は「瀬戸際」「医療崩壊の危機」と指摘されていますけれども、これはどういうことでしょうか。ここまで来ているんでしょうか。

来ていると思います。この数週間ですけれども、患者さんの数すごい増えていますよね。ものすごい勢いです。この増え方というのは、ニューヨークのような大流行の起こっている大都市で一番最初に起こったことなんですね。この後2日、3日目には、2倍、2倍に患者さんが増えていくということで、一気に流行が広がっていったというのが、ほかの海外の、例えばニューヨークの流れです。それと全く同じようなところをたどってきているというのが今の東京の状況だと思います。

 

――これから先そうなるかどうか、という意味で、まさに瀬戸際ということ?

そうですね、瀬戸際です。

 

――大曲さんがセンター長を務めていらっしゃる国立国際医療研究センターでも、30人以上の陽性の患者さんを診ていらっしゃるということですけれども、今そうした患者さんのどんな点に注目されていますか。

1つは、先ほどもありましたけど、この数週間で重症の方が増えています。ものすごく増えています。重症のなり方としては、実は多くの方は最初は落ち着いているんです。1週間あるいは2週間弱ぐらい、かぜのような微熱が続くですとか、喉が痛いということが続きます。それで2週間ぐらいで治まる方がほとんどなんですけれども、そうではなくて、7日ぐらい過ぎたところで急にせきが始まって、熱も高くなって息がどんどん苦しくなって、あれよあれよという間に、それは1日とか2日ということもあれば、それこそ数時間ということもありますけども、悪くなって、もう呼吸がもたないので人工呼吸器をしなければならないという形で悪くなっていきます。

 

――そういった患者さんが今、増えていると?

増えています。

 

都の整備目標4000床は、最流行期を想定

 

――そういった意味でも、まさに危機的な状況になってきているということですね。医療崩壊への備えが一体どうなっているのかということですが、東京の感染症指定医療機関などの病床数はこのようになっています。当初、確保していたのは140床。これは、すでに入院患者さんがその数を超えています。きのうの会見で小池知事は、500床の受け入れ体制を確保したとしました。そして、今後、最終的には都内全体で4000床の確保を目指すとしました。4000床は果たして十分な数なんでしょうか。

この4000床という数なんですけれども、実は、最流行期ですね、一番流行がひどいときの患者数が2万人というところから来ています。そのうち、少なくとも20%は濃厚な医療が必要であると。入院してしっかりと治療をしなければいけないということになるんですね。その20%というのは、つまり4000床ということで、絶対に医療が必要な方を必ず入れるためのベッドが、この4000ということになります。 ただ、そうすると2万人と差があるじゃないかという話が出てきます。残りの、2万人から4000を引いた1万6000人の方々は比較的軽いんですね。ということで、そういう方々はおうちで様子を見ていただく。あるいは、宿泊所に行っていただくという形で対応をすることが必要になってきます。もちろん、そこはしっかりふだんの観察をしたりとか、チェックをしたりとかいうことが必要になりますので、それを行う体制づくりということが非常に重要になってきます。

 

流行の山は何度か来るが、適切な行動で抑え込める

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――日本はこれまで自粛要請などの対策をとっています。それによって患者数を抑えて、病院が受け入れられる上限を超えないことを目指してきたわけなんですが、では果たして、この先の見通しはどうなるのか。大曲さんがイメージしているのは、こういうグラフになります。いくつかの山が繰り返しやってくるということなんですが、これはどういうことでしょうか。

対策をすれば、やがて患者さんの数は減ってきます。これが最初の山です。ただ、この段階ではまだ住民の中に、あるいは、この国に住んでいる中で感染していない方がまだたくさん残っています。そこに例えば海外から患者さんが入ってくると、また流行が起こるということは起こりえます。そして、私たちはまた封じ込めをします。そして、また収まっていくと。それでもまだかかっていない方がたくさんいらっしゃれば、また、この感染症が入ってきたときには流行は起こりえるんですね。恐らく、これを繰り返すことによって多くの方が感染をして、やがて流行は収まっていくのではないかと私自身は考えています。

 

――そうしますと、今行っているようなこういった、自粛、そういった対策を繰り返し行っていく必要がある?

はい、そういうイメージを持っています。

 

――都市封鎖のように上から制限をかけられるのか、あるいは、私たちでこの状況をまだ何とかできる可能性があるのか、どういうふうにお考えになっていますか。

これは私たちの選択なのかなと思います。強烈な都市封鎖をすれば感染が収まるのは、確かに中国の事例でも分かっています。ただ、厳しいですよね。一方で、私たちが自分たちの行動を変える。例えば、狭いスペースを避けるといったことを意識的にやれば感染が減っていく、抑えられるということも分かっています。ということで、私たちがどちらをとるのかということが大事なのかと思います。何もしなければ厳しい状況になりますし。そういう意味で、私たちが適切な行動をとれば、私は、この感染の危機はこの国であれば乗り切れるんじゃないかと、まだ日本はやれるんじゃないかと思っています。

 

――適切な行動というのは、いわゆる3つの密を避ける。そして、手洗い、せきエチケット。そういった細かい一人一人の意識の積み重ねでどうでしょう、先生はまだ諦めていない?

私たちは全然諦めていないです。まだ日本はやれると思います。

 

関連番組

クローズアップ現代+「感染爆発の重大局面① “首都封鎖”は避けられるか」(2020年3月31日放送)

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