しかし、11月25日発売の『涼宮ハルヒの直観』は角川スニーカー文庫から、いとうのいぢのイラスト付きで刊行される。最新刊は角川文庫から刊行、ではない(いずれ収録されるのだろうが)。
これはかつてのファンの「同じ装丁で揃えたい」「これを機に買い直そうかな」という需要に応えたものだろう。TVアニメが最初に放映された2006年に14歳だった中学生は2020年には30歳。17歳なら33歳だ。
小説投稿サイト「小説家になろう」連載作品を書籍化すると中心購買層は30〜40代と言われているが、『ハルヒ』世代もすでに30代であり、当時の読者が今はなろう系を読んでいることも少なくないだろう。
ウェブ小説ではない、スニーカー文庫などで書き下ろしで刊行されるライトノベルも、今では社会人の主人公やヒロインが少なくなく、20代、30代も読むようになっている。
とはいえ、たとえば小野不由美が1991年に少女小説のレーベルである講談社X文庫ホワイトハートで始めた『十二国記』は、2000年に一般向けの講談社文庫に移り(これが少女小説/ラノベシリーズから一般文庫への移籍として最初の事例とされている)、2012年からは新潮文庫で刊行し直されているが、シリーズ最新刊はそれぞれ新しく出し直したレーベルから出ている。ホワイトハートで新刊は出なかったのだ。
これを考えれば、角川文庫から『ハルヒ』の新刊が出てもおかしくなかった――が、読者も作家もスニーカーから出るほうを望んだ、ということなのだろう。
『ハルヒ』が角川文庫で出し直されるのと並行して、新刊はスニーカー文庫から刊行されるという奇妙な事象は、ラノベを30代が読むのも珍しくなくなった昨今を象徴している。
知名度のわりに原作の沈黙期間が長い作品ながら、各時代のラノベと一般文芸の関係を、それらの読者のありようを体言してしまうのが『ハルヒ』なのだ。