こうした出し直しは、『ハルヒ』に始まったことではない。
古くは2000年代初頭にスニーカー文庫のなかの「角川ミステリー倶楽部」でデビューした米澤穂信の「古典部」シリーズの初期作品2作が、スニーカー文庫から2006年には角川文庫に移っている。
桜庭一樹がラノベレーベル・ファミ通文庫書いていた『赤×ピンク』『推定少女』は2008年に、富士見ミステリー文庫から刊行されていた『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』『GOSICK』シリーズは2009年から角川文庫に移った。
河野裕が2009年からスニーカー文庫で書いていた『サクラダリセット』シリーズは16年からやはり角川文庫に移っている。
米澤、桜庭は2000年代前半にラノベから一般文芸への「越境」作家の代表として語られていた存在であり、河野は2010年代にジャンルとして定着した“ラノベと一般文芸の中間”的形態とされる「ライト文芸」の書き手として、その代表的なレーベル新潮文庫nexなどで執筆している作家だ。
ラノベレーベルから角川文庫へと移される作品は、そういうものである。
15年前は「越境」と言われた作品群が、15年経つとそれこそが「角川」のクラシックとして――ライトノベルのイラストは時代性が強く刻印されるため、それを外されて――ロングセラー作品となるべく収まりの良いかたちで再刊される。
つまり『ハルヒ』は一周してアニメ化以前までと似たような扱いに戻ってきたと言える。
2000年代後半からの数年間は「これこそがラノベの代表」として扱われた『ハルヒ』が、2000年代前半は「ライト文芸」という言葉もなく、ラノベの中では周縁的な存在だった米澤・桜庭のスニーカーや富士見の作品群と同じようなパッケージで刊行されているのは一見すると奇妙である。しかし『ハルヒ』はもともとSFやミステリーファンからの読みに耐えうる作品だったのだ。