最初期の『ハルヒ』はこういう流れにある作品として認知されていた。
谷川流はデビュー以前から関西のミステリー書評サイト界隈では知られた存在だったが、『涼宮ハルヒの憂鬱』には、文中に「あなたの魂に安らぎあれ」という表現が登場する。
これは日本SFを代表する作家のひとり神林長平の同名長編のタイトルからの引用である。
角川スニーカー文庫編集部が刊行していた小説誌「ザ・スニーカー」2004年12月号の付録「長門有希の100冊」は、作中に登場する長門が好きな本という設定のリストとして谷川が作成したものだが、ここにはSF、ミステリーの名作などがずらずらと並んでいた(ポール・アンダーソンのSF『タウ・ゼロ』はこのリストがきっかけで東京創元社から復刊されている)。
『ハルヒ』はラノベとSF・ミステリーの架橋に可能性が感じられていた時代を象徴する作品のひとつだったのだ。
そういう受容のしかたを過去のものとしたのが2006年のTVアニメ化だった。
筆者は当時24歳だったが「学園ものギャルゲーをパロディにしてSFをやっている作品」だと思って読んでいた『ハルヒ』が、アニメ化を機にあちこちの中学・高校の文化祭でハルヒダンスが演目として採用され、学園ものラノベとしてベタに受容されるようになって驚愕した。当時の中高生にとってはSFだのミステリーだのといった文脈は関係なかったのである。
同年スタートしたニコニコ動画上には『ハルヒ』のアニメ本編の違法アップロード、アニメを素材として(勝手に)使ったMAD動画、ハルヒダンスの「踊ってみた」動画などがアップされたりして楽しまれてもいた(おそらくこの出来事がなければ角川グループがドワンゴを買収しようとは思わなかっただろう)。
また、2000年代中盤には複数の出版社がライトノベルの新レーベルを創刊したが、『ハルヒ』はアニメをきっかけにした爆発的なヒットも手伝って――出てきた当初のSF・ミステリーとラノベの架橋といった文化的な意味ではなく――ビジネス的な意味でのラノベブームの象徴としてみなされるようになっていく。