翌日、私が警察署を訪ねると、2人の刑事さんが丁重に出迎えてくれた。女性が一人で迎えに来たので少々驚いたようであった。
刑事さんが言うには「彼はすでに前科7犯で、いずれも覚醒剤がらみ。過去の経緯から回復施設に行くことが一番良いと思った。本人が組の人間に会ってしまう可能性のある東京近郊に居ることを恐れており、関西の回復施設に依頼することにした。本人は組から破門されたので現在は暴力団との関係はない。生活保護を申請して回復施設で薬物を断ち切ってほしい」とのことであった。
回復施設の方でも、ご本人の住所地で生活保護を申請してきてほしいという要望があったので、私は引き取り後市役所に向かう予定にしていた。
この簡単な打ち合わせのあと、ご本人のKさんが釈放された。顔に痛々しい傷がいくつか残っているほかは、思ったより元気であった。挨拶をする私に少し恥ずかしそうにしながら、目をあわせずに頭をぺこりと下げた。聞けば、財布から携帯その他所持品を全て組の方で捨てられてしまったとのことで、文字通り身一つで引き渡された。
この警察署がかなり辺鄙な場所にあったため、私は自分の車で迎えに行っていた。車中では2人きりになるので自然と色々な話をすることとなった。
Kさんが多少緊張していたようなので私は気楽に「出身はどこなんですか?」「いくつなんですか?」といった世間話をした。すると驚いたことにKさんと私は同年代で、地元もすぐ隣の区であったことが判明した。しかもKさんが最初に所属した組というのも、私の実家のすぐそばにあったため、実家周辺の地理に詳しかった。
この偶然に驚き、2人で不良が流行っていた中学時代の話や、共通の知り合いの話、さらには通い詰めたDiscoの話や、近所の美味しいラーメン屋さんの話まで大いに盛り上がった。
そこから私たちは少しずつ打ち解け、今後の話をしていった。Kさんは今回の壮絶なリンチで人生最大の恐怖を味わい、もう2度と組関係には戻りたくないこと、薬物を何度もやめようとしたけれど止められなかったこと、そのために失敗してきたことを語った。私は、あまり深く突っ込まず、Kさんが今の想い、語りたいことを語ってもらうにとどめた。