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星廻のアストラル ~異世界切符と廻り巡る星の使徒~ 作者:温玉辺境伯ライカ

【第1章】男がいない世界

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ACT7:VSキャタピラー 2

 お待たせしました。

ACT7:VSキャタピラー 2



 ぎちぎちと牙を鳴らすキャタピラーが体をたわめ、一気呵成に飛びかかってきた。


 アヤトは右に飛んで躱し、起き上がりつつ太刀を脇構えから表切上に振り上げた。流派にもよるが、袈裟が切り下しで逆袈裟が切り上げではなく、袈裟も逆袈裟も相手の左肩から切り下すか、右肩から切り下すかの違いを意味している、同じ振り下ろしだ。相手の太ももや脇腹から切り上げる運剣は表切上、裏切上というのである。


 キャタピラーの頭部が薄く切り裂かれ、悲鳴のような金切り声をあげて巨大な芋虫がのけぞる。


 緑色の血飛沫が上がり、隣の一体が口腔部をカッと開いて襲い掛かってきた。


 鬼征丸の鎬で牙を防ぎ、ギリギリと音を立てながら拮抗する。


「っ、ぐ……」


 凄まじい力。ダニが人間並みに巨大になると東京タワーを飛び越せるほどの筋力を手に入れるというが、それもあながちウソではないように思える。無論、ダニがそこまで巨大になれば皮膚呼吸もできないし、自重を支えきれずに潰れて死ぬだけだが。


 それを考えればこのキャタピラーだってそうだ。皮膚骨格、外骨格と呼べる生物がここまで巨大になれる道理はない。世界最大級のタカアシガニでさえ幼児がのしかかればいともたやすく潰れてしまうのだから。


 押しのけて、左からの突進を後ろに転がって回避。起き上がりざま刺突を放つ。が、


「!」


 切っ先は丸みを帯びたボディを掠め、そらされてしまった。


「そいつは昆虫の芋虫と違ってその状態で成虫なのよ。表皮は立派な外骨格で、案外頑丈。力任せに叩き斬りたいならもっと大きい剣を使った方がいい」


「先に言えよ!!」


 怒鳴りつつ、アヤトは魔力を練り上げる。


 昨日ウルカから借りた本を読み、魔術の基礎基本を頭に叩き込んだ。


 魔術とは大気中に遍在する魔素を取り込み、それをへそを起点に練り上げ、肉体に刻まれた術式に循環させて様々な効果を得る。


 取り込みと錬成、そして循環。そのサイクルによって魔術は形を手に入れる。


 左掌に火球が生成され、渦を巻く。拳大のそれを距離を取ったキャタピラーに叩き込んだ。


 ボウッ、と音を立てて火の玉が炸裂し、キャタピラーが悲鳴を上げてのたうち回った。


 みるみる焼かれていき、体がねじ折れて丸く固まっていく。


 続けてもう一体。同じく火球を生成。掌の火の玉の形が若干崩れているのも構わず、アヤトはそれを放った。


 キャタピラーはそれを回避しようとしたが体節の一部にぶち当たり、炎が見る間に広がっていって全身を焼いた。


「はぁ……ふぅ……」


 思った以上につかれる。


 魔術の取り込みと錬成と循環は肉体に負荷をかける。それに錬成する過程の起爆剤となるのは負の感情であるとされ、下手なことをするとトラウマがフラッシュバックとなって襲い掛かってきて魔術が失敗するのだ。


 残すは一体。


 アヤトは正眼に太刀を構え、大上段に振り上げて真上から真下へ切り下す。


 キャタピラーが身を捻って回避し、ぶおん、と肉体を振るう。アヤトはすぐに太刀の鎬でそれを防いだ。


「っと」


 びりびりと痺れるような痛みが掌から肘、肩へ抜ける。


 反撃の下段から擦り上げるような一撃で下腹部を切り裂き、返す振り下ろしで四節目の節目に太刀を切り込んで深く切り裂く。


 キャタピラーが悲鳴を上げ、動きが鈍った。


 アヤトは太刀を逆手に構え直し、


「おらぁッ!!」


 ドスッ、と切っ先を脳天に突き刺した。


 ぎちちち、とキャタピラーは苦し紛れに牙と爪を鳴らし、沈黙する。


 太刀を引き抜き、粘つく緑色の血を懐の布で拭い取ってから鞘に納める。


 戦いを見守っていたウルカは微笑みを浮かべたが、


「動きに無駄多いわね。それから一体多数の状況下で相手が格下くらいなら一発で仕留めるのがセオリーよ。これじゃあ及第点もあげられないわね」


 帰ってきたのは厳しい一言だった。


 アヤトはため息をついて、


「わかってる、そんなこと」


 と不貞腐れたように返すのが精いっぱいだった。

 序章:Prologueの扉絵を差し替えました。こんな感じです。

挿絵(By みてみん)

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