俳優の新田真剣佑(21)が出演する映画「OVER DRIVE」(羽住英一郎監督)が6月1日に公開される。公道を全開走行で駆け抜ける自動車競技「ラリー」。最速を目指す兄弟の熱い思いが描かれる。新田は天才ドライバー・檜山直純を熱演。人一倍勝負にこだわり、周囲との衝突もいとわない激しい性格だ。「120%を出して挑んだ作品。やり切った」と振り返る。
突き抜けるような青空の下、猛スピードで街中を走るマシン―。檜山兄弟の所属するチーム「スピカレーシングファクトリー」は世界最高峰のWRC(世界ラリー選手権)の登竜門となるSCRS(セイコーカップラリーシリーズ)の優勝を目指してしのぎを削る。
「本格的なレースの映画は日本になかなかないと思ってワクワクした。最初に車が走る映像も見せてもらって、こんなきれいな絵が撮れるんだ。この作品に参加できて幸せと思った」と少年のように目を輝かせる。
176センチの長身にクールなマスク。派手な外見とは裏腹に、インタビューではじっくりと誠実に言葉を選ぶ。演じたのは檜山兄弟の弟・直純。天才的なテクニックに「攻めなきゃ、勝てねーから!」と言い放つ勝ち気な性格の持ち主だ。取材現場で記者に食いかかり、パーティーでは酔って暴れるトラブルメーカー。自身と全く異なるタイプにも苦もなく入り込んだ。
「毎回、役と自分を比べることはしないです。役は自分自身。なりきろうとしました。直純はパッと見は気難しいけど、内に抱えていることがあって人間味がある。演じがいがあった」
写真撮影のポーズで腕組みをお願いすると、少し考え「うーん。直純はこのポーズはしないな。こっちでいいですか」と提案。すっかり直純が“同居”している。
撮影に使われた車「ヤリス」はただのトヨタ車ではない。実際に南アフリカ国内選手権を2年連続で優勝したマシンだ。メカニックも各自動車メーカーの協力のもと、実際のWRCに近い現場を実現した。
「『これが本物のラリーカーだ』と思った次の瞬間、もう乗っていた。見るのと体感するのとは全然違う。コーナーをカットする瞬間や音も光景も…。想像をはるかに超えていた」
走行の衝撃や重いハンドル、アクセルなど肉体に負荷がかかるドライバー。役作りではロケ先でもジムにこもり、徹底的に体も鍛え上げた。作品でも何度か肉体美を披露している。
「役作りの一環です。役作りのためなら何でもする。レーサーは首が太い。上半身を中心に少し鍛えた。直純はこうだろうなと思って」
Tシャツからも腕、胸板など筋肉の隆起が分かる。だが「特別なことはしていません」と照れくさそうに笑う。言葉ではなくパフォーマンスで語るタイプだ。
マシンを整備するのは東出昌大(30)演じる兄・篤洋。情熱的な弟に対し冷静沈着なタイプだ。現場では本当の兄弟のように過ごした。1か月にわたる北九州ロケでも終始一緒。撮影が終わった時は抱き合った。
「一緒にジムに行ったり、食事もした。兄貴(東出)が兄貴でよかった。映画が見終わったら兄弟が欲しくなると思います」
作中では本気でぶつかり合う場面もある。そのシーンの撮影では現場でもお互い言葉を交わすことなく、関係者によると「ピリピリムード」。だが当事者たちは違った。
「仲がいいからこそ信頼してぶつかり合えるというシーンが撮れると思う。言葉の要らないところでコミュニケーションを取る感覚。相手の心境を想像してこっちも動く。違う意味で“ラリー”ですね(笑い)」
実際には、新田は弟を持つ兄で、東出は兄を持つ弟。生まれ育った環境は作中とは逆だ。
「そうなんですよ。面白いところですよね。演じる時は関係ないですけど」
2014年から日本で活動。16年、映画「ちはやふる」シリーズでは競技かるたに情熱を注ぐ高校生を演じるなど、さまざまな役に挑んだ。だが今後やりたい役を考えることはしない。
「役というのは出会いだと思っています。やりたいというよりは、どういう役に巡り合うかが楽しみ。とにかく目の前の役に全力で向き合っていきます」
今後の目標も「夢を与えられる役者になりたい」とデビュー当時から変わらない。「海外の映画はどうか」と聞くと「もちろん視野には入っています。言葉の壁がないので」とサラリと返す。その目の中には直純顔負けの闘志がたぎっていた。
◆新田 真剣佑(あらた・まっけんゆう)1996年11月16日、米ロサンゼルス生まれ。21歳。2014年春から日本で芸能活動を開始。15年ドラマ「保育探偵25時~花咲慎一郎は眠れない!~」で俳優として本格始動。16年1月「花より男子」で初舞台。同年、映画「ちはやふる―上の句―/―下の句―」で日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。特技は英語、水泳、空手、レスリング、乗馬、ピアノ、フルート。父親は千葉真一。身長176センチ。血液型B。
◆「OVER DRIVE」あらすじ
天才ドライバー・檜山直純(新田真剣佑)とメカニック担当の兄・篤洋(東出昌大)が所属する「スピカレーシングファクトリー」がレースを繰り広げる。ライバルチーム「シグマ・レーシング」のドライバー・新海彰を北村匠海、ヒロイン役のスポーツマネジメント会社の女性社員・遠藤ひかるを森川葵が演じる。ライバルとの戦いの中に兄弟愛、チーム愛などが描かれている。
羽住英一郎監督の一言
「ラリードライバーの皆さんはドライビングスーツを脱ぐと、インナーは体にぴったりと張り付いているんです。撮影開始の2か月前に、写真でWRCのドライバーの体を見せて「(筋肉のついた)こういう体にしてほしい」と言いました。ただ、ドライバー用の衣装を作るのは時間がかかるので、鍛える前の体にタオルを巻いて採寸しました。鍛え上げる予定の体の寸法通りの体に仕上げてくれましたので、衣装はぴったりでした!」