オンライン上に「場」を再現することがリモートワークの成功の秘訣
「働く」を考える。
ウェブアプリケーションの受託開発やオリジナルのソフトウェアの開発・提供、コンサルティングを行い、創業以来、増収増益を続けている株式会社ソニックガーデン。社員のほとんどがプログラマの同社では、出勤なし、売上目標なし、管理職体制なし、評価制度なし、各種申請なしの「管理ゼロ」のマネジメントを実践。さらには、フルリモートワークを導入しているため、社員は海外や日本各地での自由な暮らしを実現しています。どのように管理ゼロやリモートワークを上手く機能させているのか、代表取締役社長の倉貫義人さんに伺いました。
海外や日本各地で全社員がリモートワークをするには、「場」づくりが重要
――新型コロナウイルスの影響で多くの企業が急遽リモートワークに切り替えたことにより、様々な課題が見えてきました。一方、ソニックガーデンでは創業当時の2011年からリモートワークを導入され、今は全社員が実施していると聞きました。企業がリモートワークをうまくとり入れるにはどうしたらいいでしょうか?
リモートワークを導入する際に真っ先に課題に上がるのが、社員間のコミュニケーションですよね。これまでオフィスでとっていたコミュニケーションが、リモート化することでなくなったり、見えていた互いの動きが見えなくなってしまったりして、業務の効率が落ちてしまうのがよく聞く失敗事例です。
人間同士のコミュニケーションが生まれるためには、オフィスのような「場」がどうしても必要です。では「場」とは何でしょうか。僕は「時間」と「空間」を共有できるところだと考えているんです。同じ時間に出勤して、同じ空間で働く。オフィスで働いている人たちはこの条件下ではうまくいっていますよね。
それならその条件をリモートでも再現すればいい。そこで弊社ではRemotty(リモティ)という対面で仕事ができる仮想オフィスツールを開発して導入しました。リモートワークで失われがちな人の存在感や雑談、声かけといったコミュニケーションを、オンライン上でそのまま実現できるツールです。
――対面ということは、仕事中はWebカメラを通してオンラインで顔を合わせるということですか?
はい。結局のところ、対面のコミュニケーションは絶対に必要なんですよ。表情や感情的な部分を含んだリアルタイムな応答はテキスト以上に効率的ですし。
弊社は通勤なしでコアタイムなしのフレックス制ですが、「いつどこにいたとしても出社はしよう」と決めているので、仕事を始めるときはこの仮想オフィスにログイン出社します。社員全員が仮想オフィスに出社することで、ソニックガーデンの17都道府県にいる全社員が実際のオフィスに出勤しているのと同じようにコミュニケーションがとれています。
この仮想オフィス導入以降、仕事をしながら旅に出るメンバーが増えました。シベリア鉄道で長期旅行をしながら出勤したり、東南アジア各国をバックパッカーとして周遊しながら出勤したり。オーストラリアを一周しながら出勤、という例も過去にありますが、いずれも問題なく仕事は回っています。
リモートワークの個別の課題にも会社で対応
――自由度が上がったわけですね。お客さんから、「会って打ち合わせがしたい」と言われてしまうことは?
リモートを導入した当初は言われることもありましたが、今はないです。弊社のHPや書籍、こうしたインタビューで全社員がフルリモートであることを発信しているので。
――では、ソニックガーデンでは現在、リモートワークによる課題はないですか?
特にないですね。全面的にリモートのほうが通勤時間がなくなったり、集中力が上がったりと生産性が高いと感じています。
導入当初は「飲み会ができなくなっちゃったね」という意見がありましたが、これもリモート飲み会をすることで解決しました。「今日は20:30からリモ飲みやります」と参加者を募ってその日に飲みたい人が集まって雑談しながら飲む、というカジュアルな会です。
――リモ飲み、いいですね。他社では「自宅に作業環境がない」「子供がいるので集中できない」という課題を聞いたことがあります。この点はどう思われますか?
作業用の設備については、会社が用意するしかないと思います。弊社では机や椅子は必要に応じて支給しています。また、自宅に作業ができる部屋がない社員には、会社名義で社員の自宅の近所にワンルームマンションを借りて、そこを作業場にしてもらっているんです。
――会社の経費でですか?
はい、経費でです。パフォーマンスが上がるのであれば、そうした出費は大きな問題ではないと思っています。
社員にとっての幸せな働き方を仮説検証して発信していきたい
――リモートワークを上手く導入するには、会社が環境を整えることが大切なんですね。リモートワークや管理ゼロなど、先進的な取り組みをされていますが、倉貫さんは問題解決に取り組むときの思考のフレームワークのようなものは持っていますか?
「そもそも」という言葉をよく使います。僕たちの仕事であるプログラミングは、本質を捉えて目的達成をする、その繰り返しです。目的達成までの道のりをショートカットするために、「そもそも何のためにするんだっけ?」「そもそもこれって必要なのかな?」という考え方を発想の基本として常に持っています。
僕に限らず、プログラミングを職にしている人は多かれ少なかれこの素質を持っていると思いますよ。僕はこの考え方を、経営にも応用しているんです。
――倉貫さんは社長業を務めるかたわら、ブログやnoteで日々情報発信しつつ、書籍の執筆までこなされていますが、発信のモチベーションの源泉は何でしょうか?
これは2つあって、まず1つは単純に書くのが好きなんですよ。もともと考えることが好きな性分で、せっかく考えたならアウトプットして形にしたいという思いがあります。それが書くという行為につながっています。
もう1つは個人的な使命感です。今日の話で言うと、多くの会社ではリモートワークがうまくいっていないとか、マネジメントは難しいという社会的な課題に対して、「僕たちはこうしたらうまくいったよ」と証明したい気持ちが強いのだと思います。
自分の仮説を実行することで証明して、世の中の人に「自分たちにもできるじゃん」と思ってもらえて、少しでも世の中が良くなればうれしいですね。
――倉貫さんの個人的な人生のテーマとして「すべてのプログラマを幸せにしたい」という思いがあると聞きました。そもそも、プログラマにとって幸せなこと、不幸せなことは何でしょうか?
理解のあるクライアントや社内の仲間と、対等なパートナーシップのもとで課題を解決しながら共同作業ができることが幸せだと思います。
プログラマの仕事は、一見すると単なるものづくりの仕事に見えてしまいがちですが、実際は再現性の低いクリエイティブな仕事です。これを勘違いされて、言われたものだけつくる人だと思われるのは不幸だと感じます。
――最後にソニックガーデンの代表としての倉貫さんに質問です。社長業はプレッシャーの日々だと思いますが、精神を安定させるために取り入れている習慣や仕組みは何かありますか?
共同経営者がいることが非常に助かっています。よく「社長は孤独だ」と言われますが、僕は今まで会社を経営していて孤独を感じたことがないんですよ。弊社は社長の僕と副社長の2人を代表取締役に置いていて、同じ立場で同じ目線を持った人間がもう1人いるんです。その存在が大きいですね。
もともとは、僕以外に書類にハンコを押せる人がいたらラクができるかな、という打算的な理由で共同代表という仕組みを置いたのですが、それ以上の効果がありました(笑)。
人間は言葉を使ってコミュニケーションをとる動物。誰かと喋っているだけで癒されるようにできています。なので、僕と副社長に限らず社員同士でも、リモートワークの中でときに雑談しながら仕事をすることを大切にしているんです。
倉貫義人さんの著書
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著者:倉貫義人
出版社:技術評論社
発売日:2019/1/24