汽車が料理を運ぶカレー屋さん「ナイアガラ」二代目店長(駅長)が教える、サラリーマンとの掛け持ちによる店舗経営術

「働く」を考える。 

2017/12/21

汽車が料理を運んできてくれるカレー屋さんをご存知でしょうか?しかも店内にはマニア垂涎の鉄道グッズが山のように飾られているのだとか。そう、そのお店こそが祐天寺にあるカレーステーション「ナイアガラ」です。今や鉄道ファンのみならず広く有名になった同店の店長(駅長)内藤章喜さんにお話を伺いました。2017年4月、創業者の内藤博敏さんが亡くなられるという悲しいニュースを乗り越え、不動産会社でサラリーマンとして働きながらナイアガラ二代目としてお店を切り盛りする内藤さん。副業での店舗経営、お店の立て直しのために行った、ロジカルなマネジメント術とは?

最初はインド風だった?「ナイアガラ」のこれまで

curry_0014_002

――最初にお店について教えていただけますか?
 
1963年に私の父である先代が、自宅をインド風の内装にしてお店としたのが始まりです。経営が軌道に乗った頃から、少年時代にハマった鉄道への思いが再燃したようで、即売会や全国の駅、工場、国鉄OBなどを訪ね鉄道グッズを収集し始め、いつしか店内は鉄道部品で埋め尽くされるようになりました。

curry_0013_003

電車の扉と見間違えそうなお店の入り口

curry_0012_004

こんな古い電話機も

curry_0011_005

天井に取り付けられた扇風機は営団時代の地下鉄日比谷線仲御徒町駅で使われていたもの

curry_0010_006

蒸気機関車に使われていたプレート。めちゃくちゃ高価なものらしい

――はじめはインド風のお店だったというのは意外ですね。

そうなんです。まだ戦前の頃、先代は小麦粉に少量のカレー粉を入れてジャガイモやニンジンを煮込んでいた、カレーのようなものが好きだったらしく、さらに疎開前夜に祖母に作ってもらったカレーの味が忘れられず、戦後にコックになってカレーを作り始めたと聞いております。

お店としては、その後、開店20年を契機に1983年祐天寺駅前ビルに移転。客車の座席をそのまま利用した内装に、SL模型でカレーを運ぶシステムを考案・導入し、今に通じる「食文化と鉄道文化の融合」の草分け的存在となりました。

curry_0009_007

食べ物や飲み物を運ぶSLの模型。オーダーメイドらしい

curry_0008_008

SLの模型のなかには運転手も。細かい

――その駅前から、またこの住宅街の中に戻ってきたわけですね。

はい。父の病気療養が始まり、2013年に私が経営を引き継ぎました。ちょうど開店50年というタイミングでもあったので、創業地である祐天寺の自宅に店を移転することにしたんです。住宅街での再出発で集客の不安もありましたが、駅前では盗難を恐れ陳列できなかった貴重なSL部品100点を展示するなどし、話題性を保つことで解決できました。経営を引き継いだ後も父は店に立っておりましたが、昨年夏に寝たきりとなり、本年4月、永眠しました。

curry_0007_009

先代の駅長、内藤博敏さん

お店の抱えていた問題を解決した、ロジカルなマネジメント

curry_0006_010

 ――内藤さんは不動産業のサラリーマンをしながらお店を引き継がれたとのことですが、不安はありませんでしたか?

もちろん不安はありました。でも小さな頃から生活の一部としてナイアガラを手伝わされていたので、自然と下ごしらえから、鍋磨き・調理・接客と身についていました。お店としては経営面などの問題も抱えていましたが、そこはサラリーマンをしていたことで得られたノウハウが役立ちました。むしろそのノウハウがあったから「引き継いでも大丈夫」と判断できた部分はありますね。

 ――お店の抱えていた問題とは?

先代は、健康問題に加え、家賃の支払いと材料費・人件費を払い続ける厳しさに悩んでいたんです。 そこで経営を引き継ぐにあたり私は次のことを意識しました。

1.父の生きがいである「のれん」を守る

2.お店と切り離せないアイテムとなった「鉄道コレクション」を守る

3.先祖伝来の自宅土地を守る

4.父の負債を肩代わりし、治療・介護の準備をする

これらの解決の糸口となったのはサラリーマンならではの「安定収入」と不動産管理業務の「ノウハウ」でした。 自分も若くはないし、家族の生活も守らなくてはいけない。子供の学費もかかると解決すべき問題は山積していましたが、すべて持っていたノウハウを利用して解決することができました。

 ――その解決方法とは?

1.家賃解消、資金確保
まず、家賃問題を解消するため、ビルを解約し、店を自宅に移転することが先決でした。これによって敷金を取り戻し、父の入院費・葬儀費を充分賄うことができたんです。また固定費を削減することにも繋がりました。

2.自宅の店舗併用、二世帯バリアフリー化
原状回復・移転費用は「中小企業支援無利子融資制度」を活用し、店の売り上げから返済。店舗以外の改造費用は低利の住宅ローンを活用しサラリーマンの給料から返済しています。ここでもサラリーマンであることの利点が活きていますね。

3.新たな住宅ローンの組み直し
先代との同居前は横浜のマンションに自宅を構えていたのですが、場所が良かったため同業者に働き掛け、早期に売却しました。ここには不動産業であることが活きています。

4.移転工事、改造工事
仕事上長年の付き合いのある実績豊富かつ信頼のおける業社を使いました。安価にて工事請負をしていただき、2ヶ月という短い工期で移転開店できました。

5.移転先の立地問題
移転先は住宅街ですので、駅前に店を構えていた時代に匹敵する集客を掴むための工夫が必要でした。先ほども申し上げましたが、「駅前時代は陳列出来なかった博物館級の貴重なSL部品の展示」「従業員は懐かしの食堂車のウェイトレス姿で接客」「価格帯は全て千円以下」など、サービスと話題性・良質なコストパフォーマンスの実現で対応しました。

6.相続対策
社団法人を立ち上げることで鉄道コレクションを、父から法人の持ち物へ。土地についていた父の運転資金借り入れは、住宅ロ-ンとして借り換えをしました。

副業をするために心がけていることとは?

curry_0005_011

 ――ナイアガラを引き継ぐにあたり重要だったのが、サラリーマンとの兼業だったと思います。もともと副業OKの会社だったのでしょうか?

いえ、縁があった会社に家業の跡継ぎの事情を話したところ「それならうちに来てくれ」と言っていただいて、転職することになりました。それによって今の会社で働きながら仕事をすることができています。

 ――副業をする上で、不都合が起こらないように心がけていることはありますか?

私はわがままを言って勤務体系をフレックス制にしてもらっているので、昼休み無しの9時半出勤の16時退勤です。16時退勤だと17時過ぎからお店に来られるので、食材が急になくなったなどのトラブルにも対処できるんです。食事しながらでもできる仕事ですので、お昼休みが無くても特に困ることはないですね。

あとは基本的なことですが、余程のことがない限り、休まないようにしています。それだけ自由な時間をもらっているので、代わりに会社に義理を立てることは意識しています。例えば台風が来て賃借人のお客さんのところに漏水などのトラブルがあったら、夜中でもすっ飛んでいくようにしています。そこは家族にも理解をしてもらっていますね。

内藤さんのとある一日のスケジュール

curry_0004_012

平日は開店準備~出社、帰社後に閉店片づけを行い、土日のランチタイムは店に出て、先代と同じように店頭でお客様を迎え、夕方からは家族サービスの時間とするのが、内藤さんの1日の過ごし方。

「定休日は月曜と木曜で、週休二日の飲食店は珍しいと思いますが、帰社後カレーの下ごしらえをするための時間と、従業員のリフレッシュのために必要なのです。カレーは全て手作りですから少々大変です(笑)」

curry_0003_013

昔ながらのカツカレー

「カレーは昔のまま、製法を変えていません。とはいえレシピには残っていなかったので、急に先代が亡くなったことで完全再現のためには試行錯誤をしました。ずっと作ってきた成田や、小さな頃から食べてきた泉谷の協力を得て、今の味にたどり着きました」と内藤さん。

 ――最後に、ナイアガラを今後どのようなお店にしていきたいと思っていますか?

一言で言うと、ナイアガラの「のれん」と「コレクション」を次の世代に残すことです。父がナイアガラの「のれん」を作り、日本有数の「コレクション」を集めた。私は、それを残すために後を継いだんです。

ナイアガラという店はオンリーワンでいいのです。幸いにも従業員には本当に恵まれています。みんなここが好きだから働いているんです。ですから、ここの儲けで新しい部品を買うこともないですし、新しくお金がかかることもそうそうありませんので、ある程度キャッシュが溜まったら従業員に還元するようにしています。うちは従業員みんな仲が良くて、親戚みたいな感じなんですよ。

curry_0002_014

従業員慰労会のときの写真

 ――還元というと?

僕は普段は店に出れません。彼女らのおかげで店をやれていますので、誕生会をやったり、慰労会をしたりなど、従業員を家族のように大切にしています。

curry_0001_015

写真左/泉谷さん、写真右/成田さん

従業員の泉谷さん。なんと現役の高校生で、お母さんが小さな頃からナイアガラの常連だった縁で働いているそう。ちなみにこの制服は、戦前の食堂車のウェイトレスの制服を参考にしたというオリジナル。店内の照明はその食堂車で使われていた照明を流用している。

現在一番ベテランの従業員で「食堂長」の成田さんは、「ナイアガラはお客さんもリピーターの方が多く、アットホームで働きやすい環境だと思っています」とのこと。お店で一番好きな部分は2番テーブルの座席。

curry_0000_016


店舗情報

カレーステーション ナイアガラ
〒153-0052
東京都目黒区祐天寺1-21-2
11:00~20:00
※運休日:毎週月曜・木曜
(祝日は運転・翌日運休)

マネたまご マネたまをフォローすれば最新記事をお届けします!
運営会社 | Copyright © kaonavi, inc. All Rights Reserved.