ホウレンソウ禁止!?伝説のホワイト企業「未来工業」のマネジメントが正論すぎて頭が上がらない

特集:「働く」を考える。

2017/03/09

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ホウレンソウ禁止はウソ?

――未来工業の特徴として「ホウレンソウ禁止」「残業禁止」などの禁止事項が挙げられます。それぞれ成り立ちについてご紹介いただけますか? 

山田雅裕さん(以下、山田) いえ、全部ウソです。報告連絡相談、全社員普通にしています。

――えっ!? 

山田 ただ「ホウレンソウ」というキャンペーンを禁止しているだけです。あれって「ホウレンソウを通して、我々の会社を風通しの良い会社にしましょう」という会社からの押しつけじゃないですか。それをしないだけです。命令されてやる気になる社員なんていませんから。自発的に仕事の意味を理解してくれる、そういうパワーが会社に欲しいのです。だんだんモチベーションが下がっていく環境にしたくないんですよ。

創業者の山田昭男がマスメディア受けを狙っているのかそういう説明をしない人だったんです。ですから報告連絡相談というコミュニケーションそのものを嫌っているわけではありません。

――残業禁止というのも……? 

山田 ウソです。「残業禁止」とか「残業ゼロ」って体言止めですよね。体言止めというのは肯定文の省略です。でも創業者は否定文でも平気で使うわけですよ。ですからもし生きていたらこう言うと思います。「たしかに俺は『残業禁止』『残業ゼロ』と言った。でも残業を禁止しろともゼロにしろとも言った覚えはない」と。そういう人なんで。私はそれを現社長として講演などで言い訳して周っているわけです。つらいところですけどね(笑)。ですから、お客様からの注文は断りません。お客様からの注文がオーバーしたときは当然残業します。

――他に禁止していることは? 

山田 禁止することを禁止しています。自由にやらせたいので。だから基本的に部下に対して「それはダメだ」と言うのは慎重にやらせています。「ホウレンソウ禁止」という言葉がひとり歩きして、非常に規制が多い会社に思われている節があるけど、なるべく禁止したくないんです。

「これやると上司に怒られるかもしれない」じゃなく「これをやることによって、こういう良い面があるから上司や周りを説得しなきゃ!」という方向に持っていきたいんです。

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――そうした「枠を取り払いたい」という思いはどこから来るのでしょうか? 

山田 単純に「業績を伸ばしたい」だけです。社員が笑顔で働ける職場にしたいので。社員が暗い顔した職場で業績が伸びるとは思えないんです。社員の前向きな気持ちが、会社を前に転がしていく、と自分は想像しているので。

――社員の方々のモチベーションは? 

山田 「自分のやりたいことができる」ことですね。15年以上前、私が営業から製造の事務に異動になって、出張で熊本工場に行ったことがあったんですけど、当時40歳過ぎの人が私を捕まえて「俺さ、うちの会社大好きなんだよ。俺がやりたいとやったこと全部やらせてくれるし、失敗しても怒られないんだよ」って笑顔で話したんです。

転職組はみんなそうだと思うんですけど、前の会社で「あれダメこれダメ」ってのがあったわけですよね。でも、うちの会社では部下にそんなこと言う上司はダメだと言われる。失敗したら元に戻せばいいだけじゃないですか。未来工業が良い会社だと言われる根源はそこです。やりたいことが臆せずできる。

――そういう社風は創業時からなのでしょうか? 

山田 創業のときからです。もともと岐阜県大垣市で昭和30年代「劇団未来座」という趣味の劇団をやっていた2人が未来工業を作ったんです。女性の活用を積極的にしていたのもそこから。女優抜きで舞台はできないですからね。それに劇団の公演というのは受付の人が切符をもぎらないといけない、誰が欠けてもいけない。いらない人間はいない。すべての職に意味があるんです。そういう一体感的なものが特に初期は強かったのだと思いますね。

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――山田さんは4代目社長ですが、それは代々変わらず? 

山田 それぞれがそれぞれの考えを持っていますからね。自由な会社なんです。創業者2人の考えがベースにあって、あとは何を乗っけてもいい。いろんな社員のいろんな考え方が乗ってきている感じですね。

年功序列制度も、すべては「儲けるため」

――そして禁止事項の他に未来工業の特徴として「年功序列制度」があります。 

山田 100%ではないですが、基本的に年功序列制です。

――その理由は? 

山田 例えば、営業マンのAさんが去年本当にがんばって「自分は90点だ」と思ったとします。周りが「Aさんは去年がんばったよね。彼は80点だね」と言ったら、Aさんとしては「冗談じゃない!」となり、不平不満が生まれますよね。そうなると今後100%の力を発揮しなくなって、それが周りの雰囲気も悪くしていきかねない。そうしたリスクをいちばん下げられるのが年功序列なんです。

――なるほど。 

山田 そこに役職手当がプラスされます。でも、物を売らせたらすごいとか、物を作らせたらとんでもない技術があるって人でも、みんながみんな部下を使えるわけじゃない。そういう技術があるけど部下のマネジメントが苦手な人にはシニアエキスパートとかエキスパートっていう呼び名で能力を発揮していただいています。それも年功序列が成り立つ仕組みの工夫ですね。

未来工業はいかに儲けるかにこだわっています。創業者の山田は町工場の跡取り息子でしたが、親と喧嘩別れして解雇になってしまったんです。解雇だから退職金もありません。相棒が付き合うよと言ってくれて会社を興すけど元手がない。結婚して子どももいるし、とにかく儲けなきゃどうしようもない状況。だからスタートから儲けることにこだわった会社なわけです。

繰り返しになるけど、なぜ年功序列かというと社員のやる気を削がないから。なぜ社員のやる気を大事にしているのかというと、稼げなくなるから。単純な話です。

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――創業者はインタビューで「お金でモチベーションを上げる」と話されていて、未来工業には、改善提案すると500円もらえる仕組みがあります。でもそうした制度を実施するためには儲けてないといけないわけですよね。儲けるためにしているのか、儲けたからできているのか、どちらなのでしょうか? 

山田 社内や工場には「常に考える」という社是がいくつも貼ってあるのですが、未来工業はそれ以外何も社員に要求しません。そして、出てきたアイデアを実施する手段として提案制度があるんです。その制度には、1級から5級まであり、その下に参加賞があります。とにかく、書けば不採用でも参加賞で500円もらえるという制度です。

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▲社内や工場のいたるところで目にする「常に考える!」。多すぎていくつあるか分からないそう

たしかにお金はかかりますが、出て来る提案はほとんどが工場の改善提案なんです。これを水平展開で各工場に実施すると、簡単に元を取れるんですよ。仮に一つの提案で30分の残業が無くなったら、30分の残業にかかる社員への残業代や暖房、照明、機械、パソコン等にかかる電気代、トイレ、コーヒーといった経費が無くなるわけです。そうなると利益になる。かんたんな話で残業しなければ儲かりますから。

――とあるベンチャー企業では、営業ノルマを達成するために営業ががんばり、それを回すためには残業もしくは外注をしないといけないという自転車操業的な走り方が多いのですが、それは予算設定を間違えているのでしょうか?

山田 未来工業もスタート時はそうでした。うちは創業から最初の10年は毎年200%アップ、次の10年は毎年120%アップです。だけど残業せずに収まるわけないんですよ。

――意外でした。いつから残業がなくなる方向に動いていったのでしょう? 

山田 会社設立当時から、残業のない会社にしたいという夢を持っていました。そもそも、劇団活動ができなくなったのは、劇団メンバー達の残業が増えて、だんだん集まれなくなったことが大きな原因でした。だから「いつか残業のない会社が作れたらいいね」と夢を語っていたんです。それを実践できたのが、バブル崩壊以降のことです。

バブルの崩壊以降は、残業しないことが当たり前になりました。時間内に収まるときはとにかく残業しない。なにかしらの突発的な需要などがあって30分の仕事が増えたら、いかにして効率よくすればその30分の残業がなくなるか考えて、そのうちそれができるようになっていく。うちの利益率が高いのにはそこが役立っています。重要なのは工夫です。

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▲徹底的に効率化した社内。蛍光灯にはすべてヒモがとりつけられ必要ないときは消灯している。右側は、ドアノブを回す手間を省くために、ラッチボルトを取り外した写真

「基本を徹底」が未来工業流

――できるだけ枠を取り払って社員を自由に働かせるのが未来工業の特徴ですが、そこで部下をマネジメントする中間管理職の特徴はどんなものがあるのでしょうか? 

山田 まず、「命令できない」があります。これはあきらかに禁止しているんです。だから部下を説得して仕事させることが求められます。これはめちゃくちゃ面倒なのですが、命令だとモチベーションが上がるわけないんですよね。

仕事の意味を理解してもらって力を発揮してもらいたいんです。それに命令って保育園の子どもでもできることじゃないですか。それを上司がするのは社長としてガッカリですよ。「ちゃんと係長手当や課長手当を出してるじゃん」と。人間楽な方に行ってしまうので、そういうことがあるのをたまに目にするのですが、もっと係長らしい、課長らしいアプローチで部下に接してほしいと思っています。

――甘えてしまうというお話がありましたが、積極的に提案する社員がいる一方で、ぶら下がりの社員もいると思います。そのマネジメントはいかがでしょうか? 

山田 そこはもうしょうがないので、基本は放ったらかしです。好きにやっていいよと。当然やるやつは一生懸命やりますから、自分自身のために。

――職場環境での工夫などはありますか? 

山田 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)をしっかりやっています。やはりゴミがない職場と散らばってる職場ではモチベーションが変わるんですよ。やったのが自分でなくても、きれいな職場では「よしやるぞ」となるんです。それが習慣化すると放っといても片付けるようになりますよ。そして整理整頓が出来ている職場では、事故が減る。整理整頓が出来ていない職場ほど事故が増える。初歩の初歩ですが、うちは基本を徹底してやっています。

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「ホウレンソウ禁止」「残業禁止」など創業者のトリックスター的な言動を「言い訳して回っている」とお話をされていた山田社長ですが、未来工業を特徴づけている多くの制度はどれも「利益の追求」のためという、企業として非常にシンプルで真っ当な理由によるものだというのが印象的でした。残業を減らすなど「ホワイト企業」と呼ばれる所以は、儲けるため。多くの企業がその根源に立ち返れば、ホワイト企業化するのかもしれません。

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