これでいいのだ!赤塚不二夫に学ぶあけっぴろげたマネジメント術
変わり種マネジメント その9
今から10年前の2008年8月2日、一人の漫画家がこの世を去った。赤塚不二夫である。
告別式は、中野の宝仙寺で執り行われ2日間で約1200人の関係者やファンが訪れた。あの森田一義(タモリ)が読み上げた弔辞は、実は何も書かれていない白紙だったことでも有名だ。
赤塚不二夫の有名な作品と言えば、『おそ松くん』『天才バカボン』『もーれつア太郎』『レッツラゴン』などがあげられる。過去の作品が今までどれくらい売れたのかという具体的なデータはないが、文庫版の『天才バカボン 全21巻』(竹書房)は今までに100万部以上刷られているというから驚きだ。また2015年には、生誕80周年を記念して制作されたテレビアニメ『おそ松さん』(studioぴえろ)も女性を中心に大ヒット。社会現象を巻き起こした。そして今年の7月には『深夜!天才バカボン』(studioぴえろ+)の放送が始まる。
亡くなって10年経った今でも愛され続けている赤塚不二夫作品。これほどまでにファンに愛された赤塚不二夫とはどんな人物だったのだろう。生前、赤塚不二夫が行きつけだったという「白雪鮨」の店主・磯貝森一氏のコメントや関係者の著書から、マネジメントのヒントを探る。
ホームレスの人が赤塚家の風呂に入っていた。誰にでも誰がいてもボーダーレスな赤塚不二夫
赤塚不二夫の行きつけであり、今は娘のりえ子さんが通っているという「白雪鮨」の三代目磯貝氏は赤塚不二雄についてこう語る。
「破天荒でお酒が好きな方でしたね。私が小学生のころぐらいからお店に来られるようになったと思うんですが、帰って来ると奥の座敷でいつも酔っ払って喋っていました」
「寂しがり屋でもありました。誰かれ構わず家に招待していたそうですよ。私なんかもよく『いいビデオがあるから見においでよ』と誘われていました。ある日、奥さんが家に帰るとホームレスの人がお風呂に入っていて、毎日知らない人がいても平気だった奥さんもさすがにこれにはびっくりしたらしく、以降はお断りしたそうです」
――いいビデオですか?
「いいビデオです(笑)。あの人あけっぴろげにものを言うんですよ。周りに人がいようがいまいがお構いなし。参っちゃいますよね(笑)」
あけっぴろげな赤塚不二夫は、あの手塚治虫の娘である手塚るみ子さんにも容赦はしなかった。ある日、NHKの人と一緒にフジオ・プロの取材をしていたところ、赤塚不二夫にこんなことを言われたという。
“じゃあるみちゃん、これからホテルに行こうか(『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』、文春文庫)”
るみ子さんは笑って受け流したそうだが、娘のりえ子さんは、そんな赤塚不二夫について『バカボンのパパよりバカなパパ』(幻冬舎文庫)でこのように記している。
“パパにすれば、「女性は誘わないと失礼だ」という、とんでもなく都合のいいマナーがあるらしく、それほど重く考えていない(『バカボンのパパよりバカなパパ』、幻冬舎文庫)”
“パパは人を分け隔てしない。社会的地位とか収入とか職業とか学歴とか、そういうもので人を見ない。楽しい人はいつでもウェルカム。だから、いつでもどこでも誰とでも仲良くなる。相手が有名人であったとしても一般人であったとしても、パパは同じように振る舞い、付き合う。ヒエラルキーやプライドは、きっと人間同士の純粋な楽しさや面白さを邪魔するのだ(同前)”
「ください、おでーかん様!」面倒見のよかった赤塚不二夫
現在、講談社の専務取締役である五十嵐隆夫氏が赤塚不二夫の担当編集だったころの話。週刊少年マガジンで連載中だった『天才バカボン』の原稿をタクシーの中に忘れてきてしまった。顔面蒼白になった五十嵐は、手土産に「サントリーオールド」を持って赤塚に頭を下げにいったそうだ。そのとき赤塚は怒ることなくこう言ったという。
“明日の朝からやれば、昼までに上がる。それで間に合うんだろ? 三時間くらい飲めるよ。行こう(『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』、文春文庫)”
原稿は次の日の昼にしっかりでき上がった。ちなみに失くした原稿は、後日タクシーの運転手がフジオ・プロに届けてくれた。その原稿は、「もう二度と同じ失敗をしないように、お前が持ってろ」と、五十嵐に進呈したという。
また、こんなエピソードもある。『天才バカボン』のヒットの礼を兼ねた講談社と赤塚不二夫の飲みの席での話。メンバーは、副編集長の宮原、入社したばかりの担当編集の五十嵐、赤塚不二夫の3人だ。
その飲みの席で五十嵐は、「チービ!」と叫びながら、靴で副編集長の頭をいきなり叩く。もちろん赤塚不二夫に仕込まれてやったことだ。入ったばかりの社員に頭を叩かれ、副編集長は引きつった笑顔を見せるも赤塚不二夫は知らないふりをする。
しかし、このままで終わらない。赤塚不二夫はちゃんと五十嵐のフォローに入り、副編集長に土下座してこう言った。
“すみませんでした。ガラちゃんに、こんなことをさせたのは、僕です。どうか許してください、おでーかん様(同前)”
他にもエピソードはあるが、赤塚不二夫の周りに人が集まったのは、いっけん破天荒な行動だがちゃんと筋を通すところがあったからなのだろう。
「とにかく面倒見のいい人でした。例えば、人気が落ちてきたような芸人や俳優を呼んで、何とか売れるようにしていこうみたいなことで相談に乗ってあげていましたね。すごく親身になって相談に乗っているなと。あと、お店を通してファンにサインをしてあげたりとサービス精神が豊富な方でもありましたね」
あけっぴろげな人間は人から好かれるのだ! たぶんね
あけっぴろげとは、“心の中や物事を包み隠さず、すべてを明らかにすること。また、そのさま。あけっぱなし”と辞書に書いてある。
赤塚不二夫のとんでもない行動や言動は、あけっぴろげで、誰に対しても“赤塚不二夫”でいるからなのだろう。あけっぴろげだから、どんなにいたずらをしようが下品に受け取られない。要は、純粋な子供なのだ。
だから、サインを求めるファンの期待にも応えたいし、困っている人を何とかしてあげたい。誰に対しても純粋でいるから彼の周りには人が集まって来るのだろう。
リーダーとして赤塚不二夫から学ぶこととは
裏表のない人間は周りから信用されやすいのだと思う。赤塚不二夫の誰に対しても自分に正直な人柄を知ってそう感じた。だからたくさんの人に愛されたし、ギャグ漫画にひたすらのめり込めたのではないだろうか。
理想的な仕事の進め方は、目的に向かって一直線に、最短距離で進んでいくことだろう。だけど実際は、外的な要因だったり内的な要因だったり、最短距離でいけることはほぼない。
人はちょっとした疑念で足を止めてしまうことがある。ただ、赤塚不二夫のような裏表のない人間がリーダーだったらどうだろう。おそらく行動指針としてはわかりやすく、少なくともリーダーに対して疑念は持ちづらいはずだ。チームビルディングに悩むリーダーは、赤塚不二夫のようなあけっぴろげた行動をマネジメントの参考にするといい。
と思ったけど、あけっぴろげ過ぎるのは考えものかもしれない。なぜならあけっぴろげ過ぎた赤塚不二夫は、経理担当者に2億円ほど横領されているからだ。これが自分の会社で起こったらと考えると、気が気じゃない。何事もほどほどが一番!
ほどほどに、あけっぴろげるのだ!
参考文献
水木悦子・赤塚りえ子・手塚るみ子(著)
出版社:文春文庫
出版年:2012年
赤塚りえ子(著)
出版社:幻冬舎文庫
出版年:2015年
武居俊樹(著)
出版社:文春文庫
出版年:2007年
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