■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はコロナ禍に見舞われた2020年、携帯電話会社の業績はどうだったのか? 2020年度第3四半期の各社決算について議論します。
房野氏:新料金プランの発表が続いた一方で、2月は携帯電話各社の決算発表会もありました。どう見ましたか?
石野氏:儲かっていますよね。各社、まだまだ値下げ余地があるんじゃないですか(笑)。といっても、通信の比率はどんどん下がってきている。ソフトバンクは、これみよがしに通信比率の低さをアピールしていて、そのあたりは総務省対策だなって感じがしました。総じて3社ともコロナ禍でも結構儲かったなって感じがしました。
石川氏:何度も言っているかもしれないけど、通信があるから仕事が回っている感じもするので、通信会社は手堅いなって感じです。ここ1、2年はモバイル通信料が下がるので、たぶん減収になるとは思いますが、2年もあれば復活してくるだろうなと感じます。
法林氏:ソフトバンクがなぜボーダフォンを買収して携帯電話事業に参入したかというと、あの当時言われていたのは、継続的にお金が入るから。お金がずっと入ってくるので、会社の成長にとっては安定収入になるからいいよねってことだった。それが、そうじゃないフェーズに入った感はある。各社とも、通信以外の収入が充実してきている。それを極端にやろうとしているのが楽天モバイル。通信は0円でいいから、とにかく楽天グループ内で 買い物してよ、証券やってよ、カード使ってよ、という方向に持っていこうとしている。象徴的なタイミングになってきたと思いました。
石野氏:あと、金融事業は儲かるんだなということが非常によくわかるというか。
法林氏:今だからね。
石野氏:ドコモもあれだけ料金値下げして、吉澤前社長の時は年間4000億円還元と言っていたのに、思ったより業績が落ち込んでいないというか、思ったよりもdカードとかでカバーできている感じです。auはもちろんですけど。通信並みにドーンと一気に稼ごうとすると、金融事業なんだなと。以前、ドコモの井伊社長にインタビューした時も「金融が一番儲けやすい」というようなことをおっしゃっていたので、そうなんだと。
法林氏:NTTグループにNTTファイナンスはあるけど、ドコモという事業としては、これから先、金融はがんばらなきゃいけない分野。NTTグループがこんなことやっていいのか、“NTT証券”ってありかよ、みたいな話に、たぶんなると思うんですよ。auはカブドットコム証券を買って「auカブコム証券」になったし、One Tap BUYが「PayPay証券」になって、その名前はいいのかっていうところはあるけれど、One Tap BUYは人気があったみたいだし、今はポイント運用も各社、すごく伸びているみたいだから、金融は次のテーマになると、僕はずっと思っていますね。
石川氏:いいタイミングにQRコード決済が広まってきている。みんながそれで払っている一方で、給料なんかも電子マネーで払われるようになってくると、銀行にあったお金がだんだん移って、キャリア系の銀行になっていくというのは十分あり得ると思います。そこでauが一歩先んじているのに、あまり評価されていない気がする。
法林氏:もうちょっと評価してほしいよね。
auの金融事業の評価がいまいちなのはなぜ?
石野氏:auは、なんだろう、アピールが下手なんですかね。au PAYもauじぶん銀行も、すごくよくできていると思うので、以前、勝手に高評価する記事を書いたんですけど、世の中的に全然盛り上がらないというか。
法林氏:20%Pontaポイント還元の「たぬきの大恩返し」キャンペーンとか、すごいよね。僕はスーパーで買い物する時、自分の分と奥さんの分を分けているもん。それぞれau PAYで払って、両方でポイントをもらう。還元されれば、それはまた次を生み出すことになる。
石野氏:PayPayに比べると、なんかちょっと下手なんですよね。
法林氏:auはうまくやっているけど、PayPayのように他キャリアの人が使うような状況にはなっていない。そこをどうしていくかでしょうね。
石野氏:PayPayのうまさは何かな。実質的にソフトバンクのサービスなのに、みんな使っている。
石川氏:PayPayはソフトバンクをベースにしたら勝てない。だから外に目を向けざるを得なかった。ドコモやauは、キャリアのユーザーだけ使ってくれればそれでいいというか、今のユーザーが満足して使ってくれれば成功だったりするので、そこが違うんじゃないかなって気がする。
法林氏:ドコモとauは元のサイズが大きいからね。
石川氏:ソフトバンクユーザーは、料金プランの安さを求めて契約した人が多かった。その点、ドコモは典型的で、多少料金が高くても使うし、金払いがいい人が多い。ビジネスとしてはやりやすい感じがする。ドコモとKDDIにはそういったユーザー層があるので、今のユーザーが使ってくれればなんとかなるという発想だと思う。
石野氏:それもあってau PAYには思い切りが足りないのかな。これだけPayPayだらけになっていくことに、ちょっと危機感を覚えるんですよね。ADSLの時にルーターをばら撒いて、インフラを作られて、最終的にユーザーを取られていくという形になったけど、それと同じになりかねないなと。最近、PayPayしか使えないお店が結構多いんですよね。
法林氏:あるね。
石川氏:ただ、まぁ、以前に比べるとPayPayの還元もしょぼいなと。
石野氏:最初のイメージが強すぎたから。
石川氏:これだけ払ったのにこれしかもらえないのかって。
石野氏:au PAYも去年2月くらいはイメージが強かったんですけど、auユーザーにポイントを配って終わりになっちゃっていて勿体ない。もっと他からユーザーを集めないと。CMで「貯杉先生」はauユーザーじゃないという設定になっていますが、サービス名にauという名前を付けちゃったところがアレかなと。
法林氏:PayPayはソフトバンクの企業色がないからね。
石川氏:auはブレブレだったじゃないですか。じぶん銀行はマルチキャリア展開だって言っていたのにauって付けたし、カブコムにもauを付けたし。auって名前を付ける割にはオープンだと言っているところが矛盾している。
法林氏:「ソニーユーザーじゃない人もソニー銀行を使う」という言い方をしていて、確かにそうなんだけど、結果を出してから言おうって感じだよね。
石野氏:ソニーはソニーというサービスを提供していないですからね。
石川氏:そこが違う。
石野氏:KDDIはauというサービスを提供した上でのauじぶん銀行なので、そこはちょっと違う気がする。
法林氏:そう思います。
楽天モバイルの決算はどうだった?
房野氏:各社とも業績は良かったということでよろしいでしょうか。
法林氏:通信キャリアは総じて良かったと思いますよ。現に株価の状況を見ていても、そんなに悪い評価が出ているとは思わない。楽天ですら……なんだろう、あの決算、どう言えばいいのかな。先行投資してお金はかかっているけど、「ウチは儲かっていますよ」みたいな話が、投資家には「そうなんだ、儲かっているから良かった」と認識されて、株価もそんなに下がらずキープしている。すごいな、うまいなと思いましたよ。
石川氏:でも、あれ、「携帯電話事業を除いて好調」というのはないですよね。
法林氏:あれはひどいと思うよ。
石野氏:あれもひどいし、決算会見冒頭の、証券会社のアナリストによる三木谷社長のよいしょインタビューもひどいなと思った。楽天の会見って、質疑応答でも必ずよいしょする人がいますよね。
楽天株式会社 代表取締役会長兼社長最高執行役員 三木谷 浩史氏
石川氏:仕込まれているよね。
法林氏:たぶん、事前に料亭で7万円の接待を受けていると思う(笑)
石野氏:決算発表会の時の冒頭インタビューも仕込み感満載だった。
石川氏:あれは仕込んでいるよ。
石野氏:決算会見で証券会社の人が三木谷さんを持ち上げる映像を、誰が見たいんだろうと不思議に思いました。
法林氏:証券会社の人たちが楽天をどう見ているのか、僕はよくわからないんですよ。
石川氏:新聞とかでは、今回の新料金プラン(Rakuten UN-LIMIT Ⅵ)で顧客が増えて、これから伸びるっていうアナリストのコメントが出ていたりもしましたけど、いやぁ、そうじゃないでしょっていう感じがするんですよね。
石野氏:0円のユーザーを増やしてどうするんだってところですよね。
石川氏:みんなちゃんと見ていない感じがします。
法林氏:楽天の状態は、沼にはまってくるようなものじゃないですか。高いカメラを買ってレンズ沼にハマるじゃないけど、そういうニュアンスの話。だけど、証券会社の評価やレポートを見てみると、「出費はかさむ模様」「設備投資が増える模様」くらいは書いてあるけど、それ以上はないので、本当にアナリストたちはそう思っているのかなと、ちょっと意外でした。
石川氏:料金を安くすればユーザーが流れてくるという説に立っている。でも、日本ってそうじゃないじゃないですか。過去数十年見ていて思うけど、日本人の腰は相当重たい。ようやく解除料が安くなったりして乗り換えやすくはなっていますが、とはいえ、今回の料金競争を見ると、「ドコモだったらahamoでいいじゃん」って感じになっている。楽天モバイルに乗り換えるてくれるユーザーを集めるのは、結構大変なんじゃないかなって気はします。
石野氏:証券会社の人は、株を買ってもらわないと困りますからね。持ち上げるしかないっていうのはありますけど……
法林氏:手数料商売だからね(笑)
石野氏:そうですよ。それにしても、冒頭のインタビューの三木谷社長の回答の仕方がすごくイラッとしたんですよ。あれを報道陣に見せるネガティブ効果を一切考えていないということにイラッとしましたね(笑)
石川氏:孫さんの「金の卵」もどうかと思うけどね。
ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長 兼 社長 孫 正義氏
石野氏:ソフトバンクグループの事業は「金の卵の製造業」って例え……。
法林氏:ソフトバンクグループは投資会社だから。
石野氏:あそこまでギャグにしてくれると、どうでもよくなってくるんですけどね。
携帯電話会社の会社名、サービス名、ちゃんとわかりますか?
房野氏:最近、新料金プランがたくさん発表されていて思ったのですが、au自体はKDDIのサービスですよね。Y!mobileはソフトバンクで、ドコモはNTTの中のNTTドコモです。でも、携帯電話業界にあまり興味がない人だと、ブランド名と会社名がごちゃごちゃになっていそうだなと思ったんです。この会社のこのサービスと、ちゃんと表記した方がいいかなって考えることが時々あります。
石野氏:厳密に書く時には「KDDIのUQ mobile」とか「KDDIのau」と書いていますけど、NTTドコモは会社として残っているので、「NTTドコモのドコモ」「ドコモのahamo」って感じですかね。
法林氏:会社名を付けると冗長になっちゃうんだよね。「KDDIのau」という言い方は、区別する場合はそうするけど、普段はauでいいと思う。あまりやり出すと「オプテージのmineo」ということになるし、J:COMはどこから言う? 東京? グループ? みたいな話になる。ソフトバンクは会社の構造が複雑で、ソフトバンクグループがあってソフトバンクがある形なので、「ソフトバンクグループのソフトバンクのY!mobileは」という感じになっちゃう(笑)
石野氏:文脈に応じて、ですね。
房野氏:髙橋社長がauの社長だと勘違いする人がいるかも、とか……。
石川氏:KDDIの社長ですよ。
房野氏:宮川さんは……
ソフトバンク株式会社 代表取締役 副社長執行役員 兼 CTO 宮川 潤一氏
石野氏:4月からソフトバンクの社長になる。
房野氏:ユーザーさんは、料金プランを見る時に、ちゃんと区別しているのかな、とか。
石野氏:サービスが主語になる時はauでいいですし、auとUQ mobileを並列して書かなきゃいけない時は、KDDIを主語で持ってくればいいし。あまり複雑に考えなくていいと思いますよ。それを厳密にやると「ソフトバンク傘下のAホールディングス傘下のZホールディングス傘下のLINE」とかになるので(笑)
房野氏:それを紐解くと、そういう事情でこうなっているんだなとわかることがありますね。ソフトバンクのPayPayだと思っている人はほとんどいないと思いますが。
石野氏:ソフトバンクはそこをうまくやっているというか、PayPayの時はPayPayを主語にするような打ち出し方をしている。
法林氏:いや、PayPayのサービスを提供しているのはPayPay株式会社だよ。
石野氏:そうやって、分けて独立色を出したのが上手かった。ソフトバンクはブランディングが上手いんですよ。auは、石川さんの言葉を使うと「ブレブレ」。
法林氏:auは、始めるのはいいんだけどねって話になる。
auという名前になった経緯、背景もある。元々、関東・中部にIDO、それ以外にDDIセルラーという携帯電話会社があった。それを、1つのブランドでやりましょう、でも会社は別です、とした時に、どうするかという話になって、最終的にauという名前にしましょうということになった。会社統合は2000年なんだけど、それも段階を踏んでKDDIのauになっています。
......続く!
次回は、大手4キャリアの新料金プランについて話し合いする予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子
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