
元原発事故収束担当大臣
1971年生まれ。京都大学法学部卒。三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)研究員を経て2000年に衆院初当選。環境相、内閣府特命担当相(原発事故収束・再発防止)などを歴任。
第三に、原発事故後に広野町に設立されたふたば未来学園だ。学園が設立された6年前、果たして浜通りの新設校に生徒が集まるのかという疑問の声が上がったが、今や地域課題に取り組む「未来創造探究」が定着し、全国の教育関係者が視察に訪れる学園に成長している。卒業生の中から、間もなく福島の未来を担う傑出した人材が出てくるだろう。あの原発事故から10年、福島はよくここまで来たと思う。
他方、福島には残された重大な問題があるのもまた事実である。総理補佐官として東電本店で原発事故に対応し、閣僚となってからは多くの政策決定に関わった政治家として、過去の政策判断の検証から逃げることは許されない。過日、『東電福島原発事故 自己調査報告』(徳間書店)を出版したのは、残された課題の解決策を示すためだ。本稿では、拙著で対談した関係者の発言を引用しながら原発事故を検証し、残された課題を明らかにする。
原発事故に対応した専門家の中で
リーダーシップを発揮した2人の委員長
≪田中俊一初代原子力規制委員会委員長≫
厳しい言い方ですけど、やっぱり科学的な裏付けについては専門家がもっときちっとしたことを言わなきゃいけないと思うし、当時も私は、保健物理学会とか原子力学会が大事な時に何も言わない、役目を果たさないことに随分文句を言ったんです。やっぱり、いざという時に科学者が社会的責任を果たせないようじゃダメですよ。
≪近藤駿介原子力委員会元委員長≫
総理官邸に呼ばれて、菅総理から「最悪のシナリオ」を作成できないかと言われた(中略)。私は反射的に、「今起きていることが最悪ですよ」と申し上げたんですが、当時起きていたこと以外にも心配なことがなかったわけではないし、(中略)「一週間くださるならやってみましょう」と申し上げて退出したのです。
◇今なお残された課題
原発事故の対応にあたった専門家の中で、いち早く原発の専門家として国民に謝罪し自ら除染に取り組んだ田中俊一氏と、リスクを取って原発事故による「最悪のシナリオ」を作成した近藤駿介氏のリーダーシップは突出していた。危機管理において登用されるべき専門家には、虚栄心がなく重要な判断から逃げない胆力、そして行政組織を動かすマネージメント能力が欠かせない。わが国は新型コロナウイルスという新たな危機に直面している。危機管理に対応できる専門家の育成は、今なお残る国家的課題だ。