エログロの深夜アニメで町おこしをするべきではない

2021年03月10日 06:00

アニメで町おこしという話は最近よく見聞きするが、筆者は懐疑的である。費用対効果の点で見ても問題が大きいが、本題はそこではない。エログロを売り物にしたアニメが一部の町おこしに使われているのである。

「おちこぼれフルーツタルト」小金井市内限定ポスター(おちこぼれフルーツタルト公式サイトより)

例えば『おちこぼれフルーツタルト』というアニメがある。登場するキャラクターにわいせつな衣装を着せたり排泄シーンを描いたりしている。舞台は東京都小金井市だが、小金井市では同アニメを題材にした観光イベントなどが実施されており、一部の商店や市議会議員もそれを後援しているという。これに対し一部の市民からは非難の声があがっているが、アニメのプロモーターなどはそれを黙殺し、「エロ」アニメと小金井市を無理やり結び付けようとしている。

別の事例を挙げたい。『邪神ちゃんドロップキック』というアニメがある。このアニメは人間の住む世界から無理やり連れてこられた「邪神ちゃん」が、人間のキャラクターに拷問ともいうべき過酷な暴力を受けるグロテスクなアニメである。同アニメは北海道千歳市のふるさと納税で1億円以上を集め、実際に千歳市を舞台にしたアニメが作られた。しかし肝心の内容はというと千歳に行きたがらない「邪神ちゃん」を血祭りにあげたり、千歳市内の支笏湖で田楽刺しにしたりするなど、残酷な場面が多い。

このように、エログロを売り物にしたアニメが町おこしに使われることに、二つの点で問題があるといえる。

一つ目はエロアニメが視聴者に与える影響である。例えば『おちこぼれフルーツタルト』の場合、視聴者が「女性=性的欲求のはけ口」と誤認する可能性がある。このようなアニメで町おこしをすることは、例えば青少年の健全育成や治安維持の面から問題が大きいといえる。

二つ目はエログロという表現が他者を容易に傷つけるということである。卑近な話で恐縮だが、筆者が大学2年生だった2011年、深夜にザッピングしていたところ『BLOOD-C』というゴア描写ばかりのアニメを偶然目にしてしまい、恐怖で一睡もできなくなったことがある。同様の現象は昨今ブームの『鬼滅の刃』でも起こっているとの情報もある。少なくとも乳幼児や児童などの低年齢層において、グロ表現は視聴者を傷つける可能性をはらんでいるといえる。エロ表現に関しても同様で、特に性犯罪やセクハラなどの被害者を傷つけてしまいかねない。

このようなアニメで町おこしをすれば、確かに作品のファンは訪れて一時的な経済効果はもたらされるかもしれない。しかし、エログロ表現で傷つき続ける市民がいることは一顧だにされないか、されたとしても実態より過小評価されることが多い。

町おこしとして使われるアニメは3か月で終わるものが多いことや、アニメの制作・放映本数自体が非常に多いことから、ファンもすぐ飽きて興味の対象がほかのアニメに移ってしまうことが多い。経済効果はほぼ一時的なものであるといえる。

それに対し、エログロアニメによりできた心の傷は長期間残る可能性がある。刹那的な利益か中長期的な市民の保護か、どちらを選択すべきかは自明だろう。

以上のことを踏まえた場合、エログロを売り物にしたアニメを町おこしに使うべきではないと筆者は考える。これらのアニメは主に深夜帯に放送されている。もちろん深夜帯に放送されるアニメがすべてエログロというわけではない。しかし一般のアニメと比べると、エログロを含む可能性が高い。もちろん内容にも大きく左右されるが、基本深夜帯に放送されたアニメで町おこしを行わないほうが安全だと考える。

人口流出などに悩む自治体にとって、町おこしは焦眉の急である。しかし、町おこしに拘泥するあまり、様々な悪影響をもたらすかもしれないエログロを売り物にしたアニメに頼るのは、いかがなものか。町おこしをする側に自制を求めたい。

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