TOTO × マガジンハウス GREEN STORY

Vol.18 業界初のエコリモコン完成の陰にリケジョ(理系女子)の配慮と奮闘秘話が。

前回(Vol.17)画期的なパブリックコンパクト便器をご紹介しましたが、実はセットで発売されたウォシュレットもすごい。その最大の特徴はエコリモコン。なんとボタンを押すたびに発電し、その都度必要な電力を賄っているのです。だから面倒な壁裏の電源工事や電池の取り換えは必要なし。しかも魅力的な形の「ピアノキースイッチ」は、押し心地も抜群。ただし、発電力と快適な操作性を両立させるのは至難の技でした。それを研究段階から商品完成までこぎつけたのは1人の女性開発者。単に発電するだけではなく、誰でも使いやすい操作性とは? エコリモコン誕生までの開発ストーリーをお届けします。

森岡 聡子(もりおか・さとこ)

エレクトロニクス技術本部
電子機器開発部
電子機器研究開発グループ

2006年 TOTO株式会社入社
以来、レスト商品研究開発に従事。
2011年 発電通信デバイスの研究を始める。
2013年 小倉のエレクトロニクス技術本部へ異動


Chapter 1

アイデアは良くても「重い」でボツ?

アイデアは良くても「重い」でボツ?


原理モデルを発展させた試作品。まだ押すのに強い力が必要だった。

「押して発電」するエコリモコンのヒントは、小型の自己発電式スイッチ。電源がいらないecoな商品なので、気になっていました。でも相当強く押さないとダメ。発電量がやはり少ないんですね。私は入社以来研究所勤務でしたが、商品に落とし込める目途がたたないと動けない。ただ、2011年頃にリモコンの通信方式がどんどん改良されて、従来の消費電力の100分の1レベルまで下がった。そこで思いついたのが「発電×通信」のデバイス(装置)。計算してみると、電力の収支がちょうど合う。じゃ、ウチのリモコンにも使える? そうひらめいて、とりあえず原理モデルを造りました。いま思えば、スタート時点は明るかった(笑)。まさか、このデバイスで3年も苦労するとは想定外でしたね。


この小さな発電機を使ってリモコンの電力を賄うことに。

まずは、出来たての原理モデルを持って事業部を回りました。でも、どこの事業部でも一緒。「コンセプトはいいね」と言われるけれど、採用はしてもらえない。原理モデルはあくまでもアイデアを形にしただけ。分厚い上にボタンも押しづらい。だから、実際に触ってもらうと「重いな」で終わり。やはり操作性が最大の問題点でした。それもそのはず、TOTOのリモコンボタンは、ストロークがわずか1mm。ほとんど力は要りません。それでいてタクトスイッチといって押すと金属ドームがペコンとへこんで、クリック感もしっかりある。よく出来ているなと感心しました(笑)。でも、リモコンもこれからはecoであるべき。特にパブリックトイレでは大きな課題だったんです。利用する人にとっては、パッと目に付く壁にリモコンがある方が絶対使いやすい。でも電池交換の手間や、電源工事の煩雑さを理由に採用をあきらめるケースも多い。電源不要のリモコンはそんな場合にぴったり。ならば、発電効率を上げて押す力を少しでも減らそう。それを目標に研究を続けることに。それからは毎日が電磁界解析と実験の繰り返し。ただ本当に大変なのは、ここからでした。

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Chapter 2

快適な「押し心地」の実現が難しかった。

快適な「押し心地」の実現が難しかった。


さまざまなタイプの試作品を造って押し心地を検証した。

当時、研究所の人間は原理モデルを造れば終わり。その先は開発担当者の仕事です。でも今回はどうしても商品化までこぎつけたかった。そこで、発電効率を改良した原理モデルを持って、茅ヶ崎の研究所から小倉の開発部署に異動しました。もちろん研究結果を、実際の商品に落とし込むのは初めて。その最初の壁が25mmという薄さ。当時はどんなに頑張っても35mmが限界。しかもボタンは最大4つのつもりが、最終的には9つに! それを1つの発電機で賄う。そんな自己発電式スイッチなんて世の中にありません(笑)。でも商品として考えると、分厚いと体重をかけられてしまう危険性がある。見た目や壁での「おさまり」も悪い。商品化の難しさを思い知らされました。結局、何度もサンプルを造って構造を徹底的に検証し直し、発電用の回転軸を横回転に変更することで薄さはクリア。でもまだ、最初からの大きな課題、操作性の改良が残っています。「押し心地」がどの程度なら許されるのか。「迷いなく押してもらえる」にはどう工夫すればいいのか。悩みました。


最終的に選んだのは美しいフォルムのピアノキースイッチ(中央)。

というのも、特にパブリックトイレは、病気で手の力が弱っているなど、いろんな方が使います。家庭用だとトイレもリモコンも選択の自由があるけれど、パブリックだと選べませんよね。そこでまずプッシュプルゲージ(操作力の計測器)と定規を持って、世の中にあるスイッチ類を片っ端から測りまくりました(笑)。エレベーターやインターホン、ガスコンロなど身近なものばかり。市場で認められている「操作性」が知りたかったんです。結果を分析すると、ある程度のストロークがあれば、多少の力が必要でも押しやすいと判明。特にお手本になったのが住宅用照明スイッチでした。ストロークが長いから押しやすく、しかもエネルギーが結構もらえる。だから発電を考慮すれば4mmで十分なストロークを7mmにして、テコの原理を応用したボタンに変更しました。その形自体も試行錯誤はあったけれど、参考にしたのはモニターの方々のコメント。発電のことは伏せていたのですが、最終段階では、押しやすい、わかりやすいと好評でホッとひと安心。モニターさんは、いちばん配慮が必要な全盲や高齢者、手の力が弱い方ばかりだったので、喜んでもらえたのは本当にうれしかったですね。

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Chapter 3

「ピアノキースイッチ」をこれからのスタンダードに。

「ピアノキースイッチ」をこれからのスタンダードに。

こうして完成したエコリモコンですが、発電の他にも工夫がいろいろ。特に女性に喜んでもらえそうなのが、新しく独立させた「ノズルきれい」ボタンです。ノズルの汚れを気にして、外出先でウォシュレットを使わなかった人でも安心。使用前に押せば「きれい除菌水」がノズルを洗浄・除菌してくれるんです。いままでは自動で機能していたのですが、女性って自分でやらないと納得しないでしょ。クリーナーで便座を拭いたり、シートペーパーを使ったり。これを新習慣だと思ってぜひ活用してほしいですね。ボタンを1つでも減らしたかった私が言うのはおかしいですが(笑)。そして通称「ピアノキースイッチ」は、思わず押したくなるように、表面の滑らかさや、美しいカーブ、材質にも徹底的にこだわりました。だからぜひ、たくさんの人にこの「押し心地」を体験してもらいたい。それで少しでもecoに貢献できれば。そして「TOTOはピアノタッチ」って感じで、このリモコンをTOTOのスタンダードにしていきたい。そんな“新しい夢”もできました。3年間の苦労もいい経験だったと、いましみじみ思います。


  • ピアノキースイッチは横から見ると美しいカーブがよくわかる。

  • ボタンの配列や大きさも誰もが使いやすいように考え抜いた。

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編集後記

編集後記


エコリモコンの「生みの親」森岡さん。リケジョのお手本のような楚々としたクールビューティでした。

グリーンストーリー初の単独女性開発者インタビューでした。柔らかな物腰と、しっかりした受け答え。なのに、商品化のために異動をすぱっと決断できる大胆さと柔軟さ。リケジョって素敵だなと感嘆。上司の山中章己さんによると、女性で研究部門から商品化のための異動は珍しく、森岡さんはその草分け的存在でもあるとか。開発の仲間からも信頼されている様子がうかがえて、同じ女性としてとてもうれしく感じました。その彼女が開発した「ピアノキースイッチ」は、軽いのにしっかりした押し心地。なるほど、これなら発電を抜きにしても、とても使いやすそう! 使いやすいのに実はecoという商品は理想的ですよね。250万回以上の使用を想定した過酷な耐久テストも、もちろんクリア。特に操作性の良さは大変好評だそうで、社内ではこの研究・開発で表彰を受けたという森岡さんですが、これからもぜひ有意義な仕事を続けてくださいね。「やはり自分の生み出したものなので、ちゃんと問題点を解決していかないと」。その言葉がとても印象的でした。

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その他のストーリー


Enquete

グリーンストーリーについてお聞きします。

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Q. 取りあげたテーマについて、どう思われましたか?

           

Q. どんなところが興味がもてましたか?具体的に教えてください。

Q. 「グリーンストーリー」を次号も読みたいと思いますか?

      

Q. ご意見がございましたらご自由に記入ください。

Q. お客様についてお教え下さい。

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