世田谷一家殺人事件、私は「真犯人」を知っている〜警察の致命的失敗とマスコミの怠慢

だから事件は迷宮入りとなった
一橋 文哉

いち早く詳細な捜査情報を入手し、特ダネとして報じることがこれまで事件記者の使命だと思ってきたが、1984~85年のグリコ・森永事件で、捜査当局やマスコミが「かい人21面相」にいいように振り回された経験から、捜査情報だけを頼りにしてはいけないと思うようになった。

今は、捜査情報は端緒の一つに過ぎず、自ら現場や関係者を取材し、独自の情報を発信しようと考えている。

事件発生から数年が経つと「事件から○年」の記念日報道が多くなり、発表された捜査情報に基づき報道各社が同じニュースを報じる傾向がある。

世田谷事件も全く同じで、2013年頃から新しいネタがなくなり、犯人の身長を5センチ縮めて170センチに修正したとか、犯人が朝まで操作したとされたパソコンに誤作動の疑いがあり、夜間に逃走した可能性が出てきたなど、15年も経ってからわざわざ公表する話か、と首を傾げるニュースが流れた。

パソコン誤作動説は発生当初はむしろ有力視され、深夜の聞き込み捜査しかしていなかったほど。最近よく囁かれる発生時刻頃、宮澤家方向から飛び出してきた右手にけがをした不審な男の情報などは当時、散々調べて結果を出せなかった情報であり、15年も経ってから新たな目撃情報が出てくる可能性は極めて低い。

それを新事実かのように報じる民放テレビの特別番組も情けないが、NHKが2回続けて流した未解決事件の特番は、視聴者に情報提供を呼びかけるだけで新しい情報は何一つなく、マスコミ関係者が「警視庁の広報でも、あんな番組は作らない」と酷評する酷い代物だった。

新聞・雑誌の紙媒体も同じで、中には警察幹部に言われるまま私の説を批判する記事しか書かない週刊誌の女性記者が現れるなど、目も当てられない惨状だった。いくらでも批判は受け付けるが、そんなヒマと執筆するスペースがあるなら、自分の足で取材した独自ネタを書いて、事件の真相に迫って欲しいものである。

防犯カメラの映像ばかり追いかけ、指紋やDNAなど科学捜査に頼り切った昨今の捜査能力の低下と、捜査情報を垂れ流すだけで権力批判やチェックの役目を忘れてしまった報道のあり方が、未解決事件の急増を招いていると言ったら、言い過ぎであろうか。

→第2回「実行犯は今どこで何をしているか」

一橋文哉(いちはし ふみや)
東京都生まれ。全国紙・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。本名など身元に関する個人情報はすべて非公開。95年「ドキュメント『かい人21面相』の正体」(雑誌ジャーナリズム賞受賞)でデビュー。グリコ・森永事件、三億円強奪事件、宮﨑勤事件、オウム真理教事件など殺人・未解決事件や、闇社会がからんだ経済犯罪をテーマにしたノンフィクション作品を次々と発表している。

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