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レジスタンストレーニングとタンパク質摂取のタイミング |
講習会や講演で,「トレーニング直後にプロテインを飲んだ方がよいのか?」という質問をよく受けます。この質問に正確に答えるのはむずかしく,動物実験などのデータから類推して,ややあいまいな答えをしていたように思います。しかし最近,デンマークの Esmarck ら(2001)が,トレーニング直後のタンパク質摂取が筋肥大に著しい効果を示すことを,ヒトを対象にした実験で示しました。そこで今回は,トレーニング効果を高めるためのタンパク質摂取のタイミングについて考えてみましょう。 【トレーニング直後のプロテイン摂取が筋肥大を助長した】 Esmarckらは,高齢男性(平均年齢74歳)にレッグプレス,ラットプルダウン,レッグエクステンションをそれぞれ3~4セット(強度は20~8RM,頻度は3回/週)行わせ,大腿四頭筋の筋断面積,膝伸展筋力などの変化を調べました。トレーニング時間は朝8時から10時の間の約30分間で,トレーニング直後にプロテインサプリメント(タンパク質10g,炭水化物7g)を摂取するグループと,トレーニング2時間後に同じサプリメントを摂取するグループに分けました。その結果,トレーニング直後に摂取したグループでは,筋断面積で平均7%,等速性筋力で平均15%の増大が見られたのに対し,2時間後に摂取したグループでは,これらに有意な増大は見られませんでした。同様の効果を示す研究は,動物実験ではすでに行われています。鈴木ら(1999)は,ラットに10週間のトレーニングを行わせ,トレーニング直後に餌を与えると,4時間後に餌を与えた場合に比べて,筋肥大の程度が大きいことを示しました。Esmarckらの研究は,2時間後にプロテインを摂取したグループに全くトレーニング効果が現れなかったことに問題を残しますが,タンパク質摂取のタイミングの重要性をヒトで示した最初の研究といえるでしょう。 【トレーニング後のタンパクの合成と分解】 筋の内部では,筋タンパク質の合成と分解の両方が起こっています。合成量から分解量を差し引いたもの(これを「正味のタンパク合成」と呼びます)がプラスであれば筋は肥大する方向へ,逆にこれがマイナスであれば筋は萎縮する方向へ向かいます。いくつかの研究によれば,トレーニング後に筋のタンパク合成は増大し,3時間後にピークとなり,その後48時間後にわたってゆっくりと低下していきます。一方,タンパク分解を経時的に調べることはきわめて困難です。しかし,持続的な筋収縮や,筋線維膜の微小な損傷により,カルパインというタンパク分解酵素が活性化されることから,トレーニング刺激がタンパク分解も同時に高めることが類推されます。実際,Phillips ら(1997)は,通常はトレーニング後に正味のタンパク合成量がプラスになるのに対し,空腹状態でトレーニングを行い,その後も栄養補給を行わないと,正味のタンパク合成がマイナスになってしまうと報告しています。 【アミノ酸摂取の効果】 最近,Rasmussenら(2000)は,トレーニング1時間後に必須アミノ酸6g と炭水化物35g を摂取すると,筋のタンパク合成が摂取前に比べて約3.5倍に増大することを示しました。このことは,アミノ酸がタンパク合成を刺激する調節因子としてはたらくことを示唆しますが,その機構の詳細は不明です。上記の Esmarck らの実験でも,与えたタンパク質はほんの10g ですので,これに含まれる必須アミノ酸のいずれかがタンパク合成を高めたものと想像されます。一方,分岐鎖アミノ酸(必須アミノ酸に含まれる)やグルタミンは,筋タンパク分解反応の主要な生成物となりますので,これらを予め摂取することで,トレーニング中やトレーニング後のタンパク分解を低減できる可能性もあります。 【他の反応との関連性】 私たちのいくつかの研究からも,トレーニング後に経時的にさまざまな反応が起こることがわかってきました。まず,トレーニング後15分をピークとして成長ホルモンの分泌が起こります。続いて,トレーニング後1時間をピークとして,「早期転写因子」の遺伝子発現が起こります。これは,さまざまな遺伝子にはたらいて,タンパク合成を「オン」にするスイッチのようなものです。おそらくこうした過程を経て,トレーニング後3時間に筋タンパク合成がピークを迎えるのでしょう。アミノ酸の中で,アルギニンとオルニチンは成長ホルモンの分泌を促すはたらきをもつことが知られています。したがって,これらを含む食品を早期に摂取することで,トレーニング後の成長ホルモンの分泌が高まったり,持続したりするかもしれません。 【トレーニング前後の食事管理が重要】 ここに述べたいつかのトレーニングは,あくまでも実験上のプログラムに基づいています。高齢者の場合を除き,実際のトレーニングでは,量も大きく持続時間も長くなるでしょう。そのような場合には,タンパク分解の増大やホルモン分泌はトレーニング中にすでに始まっていると思われます。したがって,トレーニグ前とトレーニング後のなるべく早い時間帯に,タンパク質と炭水化物を含む食品を摂取するのがよいでしょう。 |