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cutting edge
国連再考 第6部 (08) ‐ 途上国開発援助
2003年12月24日
 開発途上国の経済成長を草の根レベルから推進することを主張する国際NGO(非政府組織)の「フィフティ・イヤーズ・イズ・イナフ(五十年で十分)」は、ここ数年、活動上の攻撃の標的をIMF(国際通貨基金)に絞ってきた。

 この組織「五十年で十分」はその名の示すとおり、ブレトンウッズ体制としてIMFと世界銀行ができてもう五十年、その体制が目標とする途上国の開発も、半世紀にわたる従来の方法ではやはりうまくは実現できないことが立証された、と宣言することから出発している。

 同組織代表のケニア人女性ジョキ・ジェフ氏は語る。 ちなみにジェフ氏は日本政府のケニアへのODA(政府開発援助)のあり方にも率直な批判を浴びせてきた経歴がある。

 「IMFが第三世界に押しつける政策は途上国の債務の返済を円滑にし、第三世界の富が先進工業諸国の銀行へと間断なく流れるようにしている。 この富の移転は第三世界の多数派の貧困層に破壊的な結果をもたらした」

 だから「五十年で十分」はIMF総会のたびに他の多数のNGOとともに激しい抗議活動を展開する。 途上国の経済開発はワシントンのIMFという「上」からではなく、「下」からの発想で動かさなければ途上国の民衆の受益は少ない、というのだ。

 IMFがこのような国際NGOからも激しく糾弾されるようになったのは、とくに一九九七年のアジア金融危機以降である。 金融危機から経済全般の深刻な不況を起こした韓国、タイ、インドネシアといった諸国に対しIMFは「ベイルアウト(救済)」のための巨額の援助融資を提供した。 ただし融資に際して厳しい条件を付けた。

 その条件とは借り入れ国が経済システムを透明にし、自由にし、オープンにして、アジア的と評される縁故資本主義や汚職腐敗を排除することなどだった。 要するに市場経済のグローバル化に加わるということである。 そうした条件を援助相手国の経済運営に付けることは「構造調整政策」とも呼ばれた。 そしてその基盤には「ワシントン・コンセンサス」と称される政策思考があった。

 「ワシントン・コンセンサス」とは一九八〇年代から九〇年代にかけてワシントンに本拠を置くIMFや世銀が米国財務省のバックアップを得て発展させた途上国の経済の開発と安定へのアプローチだった。 それ以前のアプローチが「市場への政府の適切な介入」を不可欠要因としたケインズ主義的な手法だったのに対し、新しいワシントン・コンセンサスは完全な自由市場主義を打ち出していた。 具体的には緊縮財政、民営化、市場自由化が柱だった。

 この思考は批判する側からはネオリベラリズムとののしられた。 ネオリベラリズムなるものの内容は貿易障壁の除去と産業の民営化とを最大限に進めるという「小さな政府」の自由市場市場主義なのだが、その用語は「大きな政府」を信奉する本来のリベラリズムの堕落だとする非難をこめたレッテル用語だった。 この点は最近、流行したネオコンという用語にも似ている。

 自由で開放された市場経済の第三世界への拡大という構想はプラスの面も多かったが、未熟な産業や不均衡な社会を先進諸国との競争にさらすことのマイナス面もさらに多かった。 世銀の主任エコノミストだったジョセフ・スティグリッツ氏のIMF政策批判もまさにその点だった。

 だが「五十年で十分」のようなNGOからのIMF批判はさらに激しく、「在ワシントンの千人ほどの学者が十数億人の人間が住む広大な地域の経済の政策を一方的に決めて、押しつけてくる」といった反発がわき上がるのだ。 NGOの中には市場経済や資本主義そのものに反対する組織も珍しくない。 そんな反対の標的のシンボルがIMFなのだった。

 こう見てくると、IMFには実に敵が多いことがわかる。 保守主義の立場から、そもそも公的機関が多数の途上国の経済開発に介入することがおかしいとして、民間経済活動にすべてをゆだねるべきだとする非難があれば、リベラルの立場から自由市場主義をいさめて、ある程度の政府の介入や産業の規制や保護を唱えるという批判がある。 さらには旧左翼の立場からIMFが体現するグローバルな資本主義自体を搾取だとして全面否定する糾弾も聞こえてくるのである。


古森義久氏 産経新聞2003年12月24日付朝刊記事

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