2003年12月04日
国連のあり方についてこれまで五部五十回にわたって再考を試みてきた。 出発点としては日本での信仰や幻想に近い国連観をあえて踏み台としたため、国連の欠陥や短所など負の部分の報告が多くなった。 まず現実を直視することの必要性からだった。
国連にはもちろん効用も長所も多々ある。 実際に達成した業績も多い。 なんと言っても世界の平和と安全の維持を目指す唯一のグローバルな国際機関なのである。 発足以来五十八年の歴史もある。
だがそれでも国連には重大なひずみや、ゆがみがあることはあまりにも明白である。 一九四五年に結成された機関を二〇〇三年以降の現実に合わせて、変えていかねばならない諸点があることも、さらに明白のようだ。 国連が今のままであってはならないという点には国際的コンセンサスがあるといえよう。 コフィ・アナン国連事務総長自身が「国連は信頼と権威を復活させるためには劇的な改革が欠かせない」と述べているほどなのだ。
国連の将来のあり方についてはおおざっぱに言えば、今の国連の存続を大前提に改革を進めるのと、国連の基本的枠組みの代替を大前提に新機関の創設を求めるのと、二種のアプローチがある。
前者の国連改革論はついこの九月、アナン事務総長によっても強調された。同総長は国連総会での演説で国連がイラク問題で悲痛なほどの無力ぶりを見せたことを嘆き、国際平和と安全への脅威への対処では「国連の承認による合法性」はもう必ずしも保持できなくなったことを認めた。
アナン総長はその上で新設の特別パネルにテロや大量破壊兵器という新しい脅威に対応するための国連各機関の強化の方法を勧告することを求めたのだった。 同総長は同時に安保理の常任理事国の拡大をも訴えた。
米国のブッシュ政権で国連を担当するキム・ホルムズ国務次官補は十月に国連に対する米国の政策について一連の演説をした。 その中で米国が国連の原則と制度を支持するとしながらも、国連の欠陥の数々を指摘した。 「国連は発足時の最善の意図がもう時代遅れとなり、有用性を失った。」と根幹を批判し、「今の国連安保理は平和の維持はできても平和の創造や執行はできない」と安保理の強化を訴えた。
ホルムズ次官補はまた「日本は分担金を加盟四十数カ国に適用される最小率の分担金よりも二万倍も払っているのに安保理の席もない」と述べて、日本の常任理事国入りへの支援を表明する一方、「経済社会理事会は国連の通常経費全体の三分の二をも使いながら、浪費と非効率が多い」と開発途上国を批判した。
いずれも国連のいまの枠内での改革を求める声だといえよう。
米欧の集団的軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)を国連の機能に追加し、導入するという国連改革論も今年六月の「国連とグローバルな安全保障」と題する米欧専門家の研究会で提起された。 「NATOプラス」と略されたこの改革方式は国連のいまの枠組みをそのままとしながらも、国連が実行しにくい「積極果敢で強固な外交」や「平和執行などのための軍事活動」という領域にNATOが介入するという骨子である。
NATOに加わる欧米諸国のうち具体的な課題ごとに思考や価値観を共有する諸国が連合体をくんで、国連の弱体な部分を補強するという形で軍隊や外交官を注入していくという方式だとされた。 NATOが一部の活動を拡大し、国連のプラス部分にしていくという発想でもあった。
だが国連のこうした内からの改革は案としては効果が期待されても、決定的な弱点がある。 それは実行がまず難しいという点である。 いまの国連の構造そのものがこの種の根幹での改革を事実上、不可能にしているのだ。
いかなる基本的な改革案も国連総会での全加盟国の三分の二以上の賛同を必要とする。 しかもその上でそれぞれが拒否権を持つ安保理常任理事国五カ国すべての承認が欠かせないのだ。 このハードルを越えることは言うは易し、なのである。
日本が安保理の常任理事国になることも、いくら米国やイギリスが賛成だと言っても、中国がノーをほのめかせれば、もうどうにも動かない。 だから米国を含めて各国政府の中ではいまの構造での国連をなくしてしまうことを唱える政府もない一方、大幅な改革が実現することを近い将来の現実の展望として語る政府もないのである。
古森義久氏 産経新聞2003年12月4日付朝刊記事
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