2006年に放送されたアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』も、深夜枠かつわずか11局での放映、全14話という短期間だったにもかかわらずヒットを収めている。アニメ放映時の様子を河嶌氏はこう語る。
「京アニは2005年に制作した『AIR』をきっかけに、当時からアニメファンの間ではブランド化していました。その京アニがラノベで人気があったハルヒをアニメ化するということで期待感はありましたね。実際の放送では原作の発行順や物語上の時系列と異なる順序で構成され、その変則性も話題になりました」
キャラを全面に出した
メディアミックス戦略
アニメ人気もさることながら、メディアミックスにおいてもハルヒシリーズは大きな影響を与えたといわれている。
「2000年代まではアニメ化されることは必ずしも、プラスの意味を持ちませんでした。ストーリーを下手に改変したり、アニメオリジナルキャラクターを登場させたりなど、原作の良さを表現できていないという評価も多かったのです。製作側でも、『原作通りにアニメを作ったら原作が売れなくなる』という見方もありました。一方、京アニは原作を改変しないことで知られ、ハルヒも構成こそ変えましたがアニメは原作に忠実でした。ハルヒのヒット以降、原作にあまり手を入れないことがアニメ化のメディアミックスのセオリーとなっており、それは『鬼滅の刃』まで続いています」
『鬼滅の刃』も原作ストーリーをほぼなぞっているが、アニメによって戦闘シーンが肉付けされ、「原作では描けなかった行間が埋められている」(河嶌氏)という。
「ハルヒは『原作以上のクオリティーの高いアニメ化』という京アニのブランドを決定付けたと言えるでしょう。当時京アニは人気絶頂でしたが、他のアニメ制作会社もこの路線に追随するようになり、マンガやラノベなどのアニメ化に対して純粋に期待できるようになります。原作が売れなくなるのではないかという見方も、アニメ化前に130万部だった発行部数が放送終了直後には280万部と倍以上になり、間違いだったと証明されたのです。その意味でも、ハルヒがメディアミックスという“原作を売るためのビジネス展開”における歴史的成功例であることは間違いありません」
メディアミックスという点において、ハルヒが残した功績はアニメだけではない。作品のストーリーや世界観ではなく、涼宮ハルヒというキャラクターを前面に押し出した戦略も、その後の作品に大きな影響を与えている。
「ハルヒ以降はタイトルに女性キャラクターの名前をつけるものも増えました。ハルヒ以前だと『カードキャプターさくら』などがありましたが、ハルヒとは違い、『カードキャプター』という世界観が入っていました。直近だと『宇崎ちゃんは遊びたい!』などのタイトルがハルヒの影響があると感じます。一応、主人公の男性目線で物語が進むものの、メインはキャラが強い女性という構造もヒットの要因でしょうね」
アニメ放送以降、企業とのコラボも相次ぎ、缶飲料「涼宮ハルヒの果汁」、作中の人気キャラの名前を冠した「長門有希(ながとゆき)の珈琲」が発売されている。ほかにもゲーム、コンビニ連動企画、献血キャンペーンなどコラボを挙げれば枚挙にいとまがなく、断続的にファンを獲得していったのだ。