性別による「らしさ」の決めつけが性差別の温床になっていないか─。妻の出産を控えた記者が「男女別の子育て術」に抱いた違和感を出発点に、神奈川新聞社は2月、子育てとジェンダーについてアンケートを実施した。「子育ての仕方、男女で分けるべき?」と意見を募集。130件を超す実体験から浮かび上がったのは、「ジェンダー後進国」の底流にある無意識のバイアス(偏見)だった。
価値観の刷り込み
「性別による『らしさ』は子育てに必要か」。インターネットでこう問うと、「男子はブルー、女子はピンクと決めて育てられた」「今思えば押し付けられた」「性差で区別せず個性を伸ばすべきだ」といった多数の意見が寄せられた。
「らしさ」を強いられ生きづらさや抑圧を感じたことは─。これらの質問の答えからは、幼少期は自覚できない偏った女性像の刷り込みが、後々まで重圧として残ることが鮮明になった。
横浜市の40代女性は「親に教わった処世術は、理屈っぽいと嫁に行けない。女は愛嬌(あいきょう)。女は気を使え」。秋田市の30代中川祥子さんは「漫画やドラマは女性の幸せは恋愛を成就させ、家庭や子どもを持つことだという価値観を刷り込ませている」と指摘した。
求められる「妻・母らしさ」
藤沢市の50代ましろさん(女性)は、小学4年の時の体験が胸に刻まれている。自宅に来た叔父に「女の子なんだから」とお酌を強要され、「子ども心にも屈辱感でいっぱいになった」。固定観念への息苦しさは大人になってより膨らんだ。「必要以上の笑顔や気遣い」「出産で仕事を退職」「再就職先はやりたい仕事を選べない」。社会から求められるのは「自分らしさではなく妻・母らしさ」だと受け止めている。
「息子の学校に張り出されていた『父母への感謝の言葉』に驚いた」と語るのは、京都市の40代NYさん(女性)。並んだ言葉の多くは「お母さん、毎日ご飯を作ってくれてありがとう」「お父さん、働いてくれてありがとう」。しかし、母が仕事に就くわが子の言葉は真逆だった。周囲から「母親らしくない、と思われはしないか」と不安を抱いたという。
あふれる情報と親の不安
一方、「性別で育て方を変える必要がある」と回答したのは横須賀市の30代枝葉さん(女性)。「不平等な土壌の上に平等に機会を与えれば、かえって女性の不利な状況が表面上の平等で覆い隠されかねない」とし、「女の子には自分に自信が持てるような教育、男の子には女性差別的な価値観を刷り込まない教育を」と提案した。
「図書館や書店に『男の子の育て方』や『女の子の折り紙』と決めつける本がたくさんあって残念」との声を寄せたのは、県西部の30代みつおさん(女性)。実際、男女別の子育て術をうたう情報は書籍だけでなくネット上にもあふれており、記者が目にしたのもその一部だった。
会員制交流サイト(SNS)で約5万人がフォローする人気アカウントには、「子どもとどう向き合うべきか正解を知れた」といった賛同の声が並ぶ。横浜市の30代女性もフォロワーの一人で、「子育てを相談できる相手がおらず、子育てに正解を見いだしたくなり、SNSの投稿に頼っている」と明かした。
支持が集まる要因について、日本女子大非常勤講師の藤木直実氏は「子育てに励む保護者への公的支援の機会が少なく、何を頼りにすべきかわからない親が多い」と分析。育児雑誌で男女別の特徴を特集した大手出版社も、企画意図は親の不安を拭うよりどころだと指摘する。(清水 嘉寛)
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