・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
【魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)】総本部、大道場。
老若男女が、緊張・光栄・羨望の眼差しで、
「…………人型相手ならば基本体勢は半身。その手首。斬られる。」
美少女に襲い掛かった男の手首に強烈な木刀の一撃が加えられる。まるで顔前の羽虫を払うような軽い一撃であったが、攻撃を受けた者は、手関節があり得ない方向へ曲がり、のたうち回っている。
「…………武器に頼りすぎ。体術の基礎がなっていない。」
放たれた矢の如く背後から短刀の一閃を打ち込んだ男は、鳩尾に肘鉄を食らい、流れるように掌底で股間を強打された。床に吐瀉物をまき散らしながら悶絶すら許されず失神する。
「…………握りが甘い。そんな持ち方だと……」
男の握る木刀の柄に向かって蹴りが入り、木刀は手から離れ放物線を描き床に落ちた。そして男の喉笛に短刀の切っ先を突き付け、気道を抉る。声にならない悲鳴をあげ、そのまま最後の一人は意識を手放した。
「…………こうなる。」
数十人の屈強な男たちが全員、悶絶又は失神し、立っている者が
「同志一同!シズ先輩へ礼!!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
「…………ん。ネイアの大事なシモベ……誰も死ななくてよかった。手加減。難しいけれどがんばった。」
シズは誰にも聞こえないような声と同時に、安堵の息を吐いて胸を張った。
倒された者たちの元へは医療支援部隊や看護兵たちが駆けつけて治癒を施している。シズへ挑んだのは全員〝感謝を送る会〟黎明期から所属する古参の武装親衛隊員たちであり、元軍士・指導教官という立場の者だが、会の一同は改めて【メイド悪魔】のデタラメさを実感する。
最初は時折ふらりと本部に現れる、偉大なる魔導王陛下の従者にして、救国の女神【メイド悪魔シズ】が、徒手格闘や武器術の鍛錬に使われる道場を教祖ネイア・バラハと共に視察し、〝わたしもやってみたい〟と言ったのが始まりだった。
皆大いに歓声をあげて志願したが、ネイア・バラハが未熟な者は挑まない事を強い口調で話し、そして件のメイド悪魔シズの放った一言が、是非技術指南を受けたい人々の炎を鎮火させた。
〝…………死んでも文句言わない人だけ集まって。〟
この言葉に、教祖ネイア・バラハは洒落や冗談ではない口調で「死んででもシズ先輩の実力を実感したい同志だけ集まってください。」と固唾を呑むように話していたことも印象的である。
治癒が終わった勇敢なる男たち数十名は改めてシズへ尊敬のまなざしを向け、床に跪くよう一礼をした。
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「は~~~~。ドキドキしました。同志は未熟で……いえ、わたしよりも徒手格闘や武器術では上なのですが、やはり母国の元聖騎士団長レメディオスやリ・エスティーゼ王国の故ガゼフ・ストロノーフ氏のような突出した個はおりませんので、本当に死んだら先輩にもアインズ様へも申し訳なく思いまして。」
ネイアはシズ先輩が自分の同志に指南をしたいと申し出たとき、正直に言えば断りたい気持ちが半分以上を占めていた。シズ先輩の強さはヤルダバオト襲来時、そして聖地アインズ・ウール・ゴウン魔導国への聖地巡礼で嫌というほど知っている。
同志たちには申し訳ないが、逆立ちしたって……なんならネイアの会に所属する20万人総出で掛かっても勝てるわけがない。さりとてシズ先輩直々の申し出。無下にも出来ない。ネイアは同志を失う覚悟で送り出した。同志が亡くなれば慈悲深きアインズ様はお嘆きになるであろうし、シズ先輩も悲しむだろう。
それは自分たちがまだまだ弱いからであるという証左であり、情けなく思ってしまう。
「…………そんなことはない。誰も死ななかった。これは結構凄いこと。」
ネイアはシズの無表情から、本気で褒めている事を感じ取った。確かに〝【難度150のメイド悪魔】と戦闘して生き延びられた〟というのは――模擬試合であり明らかに手加減していたとはいえ――自慢になる事だろうが、ネイアの目指す高みはもっと上にある。
もしかしたらシズ先輩は今回の〝技術指南〟で、〝目の前にある身の丈に合ったゴールを積み重ねろ〟と伝えたかったのかもしれない。ネイアはシズ先輩の行動を反芻し、思いあがった心を改める。
「そうですね!何よりも同志たちは〝シズ先輩に挑んだ〟のです。これは誇るべきことです!」
悪い面ばかりを見ても仕方がない、結果はどうあれネイアの同志たちは〝命を失う覚悟で難度150のメイド悪魔へ挑んだ〟のだ。こんな経験をすれば並の無理難題など鼻で嗤えるようになる。
「…………そういえば徒手格闘の訓練は見ていただけだった。」
「ああ!【ジェドー】ですね!アインズ様より賜りました
「…………そんなことはない。武器も武術も時代や地域で変化していく。それがミリタリーの醍醐味。」
シズ先輩はやや熱の籠った声で断言した。〝みりたりーのろまん〟を語るときは見た目通り子供のようだとネイアは内心微笑ましく思ってしまう。
そんなことを考えていると、シズ先輩は虚空からスライムを固めたような大きなマットレスを取り出し、道場の床や壁に並べ始め、一面がぷよぷよとした空間に変化する。
「…………これなら怪我しない。安心。先輩からの特別指導。」
そうしていつの間に準備して着替えたのやら。シズ先輩は【ジェドー】の鍛錬でも使われる、南方にあるという【キモノ】にも似た白い練習着をまとい、黒い帯を締めていた。
「きゃあ!」
ネイアはシズ先輩に背負うよう投げられ壁まで吹っ飛ばされた。
「ま、まだまだです!」
しかしネイアはすぐに立ち上がる。すでに100回以上投げられているが、シズ先輩の準備してくれた緩衝材のおかげで痛みやケガはほとんどない。勝てるはずがないとは思うが、せめて一矢報いたいとは思う。
「…………うん。その意気。」
再びネイアとシズが組み合う。力の差は絶望的、技量もまた同じく絶望的開きがある。ネイアは先ほどシズ先輩に食らわされた〝【ドーギ】で首を絞める〟技を駆使する。
しかし力が入りすぎ、重心が偏ったところを足払いされ、見事に転倒させられてしまう。そして逆にシズ先輩がネイアに覆いかぶさり同じ技を返されてしまった。
「ま、参りました。」
既に疲労困憊、立つのもやっとの状態だ。
「…………ネイアは弓手だから腰技や足技に合わない。手技や寝技のセンスがある。」
シズ先輩はそういって親指をビシっと立てた。自分の技など全く効いていなかったように思えるが、シズ先輩はそんな中でも真面目にアドバイスをしてくれていた。【ジェドー】そのものが今までの白兵戦を覆す技の数々だった。
その中でもやはり先輩は別格で、ネイアが100回投げられた内の一つ、手も足も触れていないのに誘導されるよう重心を崩され倒された、面妖怪奇な魔法のような技には驚いた。
「寝技ですかぁ……。なんだか華が無いで……」
ネイアはそこまで考え、散々シズ先輩に抑えこまれ絞められた記憶を想起させ、少し恥ずかしくなる。頭が戦闘モードになっていたので気にもしなかったが、その柔らかな身体の一部に埋まったことも、後ろから抱きしめられるように締め技をされたことも、今更ながら恥ずかしくなってきた。
……いや、武術の指南なのだから何を考えているのだという自分とのせめぎ合いが始まる。
「…………じゃあ。寝技を中心に特訓開始。」
「い、いや!シズ先輩!ちょっと休憩しましょ!?」
「甘やかすのは良くない。問答無用。」
ネイアはそのままあっという間に投げられる。
「ちょっとシズ先輩!」
「…………仰向けになった相手の頭側から自分の体を使って抑えこむ。わたしが知っている限り寝技には37つある。それを10セット。それまで休ませない。技を受けるだけだからネイアも疲れない。しっかり勉強する事。」
「ちょっと待ってーーーーー!!」
道場にネイアの悲鳴が木霊した。その悲鳴に耳を貸す者はもちろん誰も居なかった。
・シズが徒手格闘や武器術できるかは、職業レベルに【アサシン】があるからという独自解釈です。
・本当はシズ先輩とネイアちゃんで女子プロレスさせたかったのですが、中々いいアイデアが浮かばずこんな形になりました。ナース服に続きまたコスプレさせてしまいましたすみません。反省しています。