・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
「各員行動開始!」
「「魔導王陛下万歳!!」」
軍士の号令と共に、20名の比較的若い男女兵が、少数のポーション・清潔な包帯・異物や穢れた衣類を剥ぎ取るための刃物・解毒剤の入った箱を片手に走り出す。
その先には倒れ伏している、又は苦悶にうめいている300名の人間たちがいた。300名は全員創傷・裂傷・火傷・糜爛といった様々な傷を模したメイクがなされており、佩用している腕章にはこう書かれている。
【負傷者】【死亡者】――と
「おい助けてくれよ! 骨が見えているんだ! このままじゃ死んじまう!」
「いい、俺に構わず他の同志を!」
確かに骨が見えるほどの傷だが命に別条のない男が喚きながら救命にあたる兵士の邪魔をし、逆に腸が飛び出すほどの重傷者は自分に構うなとばかりに肩で呼吸している。
……もちろん全て演技なのだが、実戦を想定した演習でありメイクのリアルさもあって、はたから見れば本当の大惨事に思えるだろう。
20名の兵士は全員治癒魔法をある程度扱える者たちであるが、300名全員に施せるほどの魔力量を有していない。また、箱に入っているポーションも全員にいきわたる数ではない。
その場で治癒魔法が必要な者、迅速な応急処置が必要な者、消毒し清潔な包帯で止血しておけば後に命が助かる者、一時的な精神錯乱に陥って戦場の
「……同志軍士殿!第7看護兵団20名!300名同志の救急救命を終了いたしました!軽症者107名、中傷者148名、重傷者21名、重体者11名、死亡者13名です。即座に戦線復帰できる同志は129名、即座に後方へ移し早急な治療が必要な同志は34名、残りは要療養であると具申いたします!」
「ご苦労!こちらの予定では重体者9名の計算であった。数が限られるポーションや治癒魔法を施す者への識別がまだまだ課題だな。だが、行動は迅速であり、非魔法依存の応急処置技術も向上している。今後も魔導王陛下への挺身を忘れぬよう精進するように!」
「「魔導王陛下万歳!!」」
非魔法依存の応急処置……かつて、かの【口だけの賢者】が提唱した〝手術〟を想起させる蛮用とも言える救命手法である。
だが、絶対指導者ネイア・バラハが彼の偉大にして慈悲深き魔導王陛下より下賜された【
従軍司祭や専従の治癒魔法を施せる専門職を軍隊に据えられるなど、それこそバハルス帝国の正規騎士団くらい。
それに戦場においては、短期決戦ならばまだしも、ローブル聖王国にとっての悪夢、ヤルダバオト襲来時がそうであったように長期戦となれば、敵からの攻撃よりも味方である負傷者・死亡者より蔓延する疫病や伝染する恐怖・絶望から命を落とす者の方が多い。
それに【
主戦力や王侯貴族に治癒魔導者を付けることはあった。
しかし、清潔さを徹底し、貴賤なく後方まで命を繋ぎとめる事を優先させ、一人でも多くの同志が命を落とさぬよう〝激戦地の真っただ中で大多数を占める一兵卒を相手に治療を行う兵団〟という概念はいままでない。
改めて魔導王陛下の慈悲深さに感銘を受けた軍士たちは新たな部隊を結成した。
その名を親衛隊では【看護兵団】と呼ぶ。
●
「あの……。シズ先輩?その恰好は?」
「…………以前ネイアから看護兵について相談された。だからこの格好で来た。」
シズがまとっているのは、いつもの迷彩柄のメイド服ではなく、ボタンのついた純白の上着とスカート。頭部にはカチューシャではなく、髪を覆うような上質な布で作られた純白の中に赤い十字が刻まれた帽子。
……シズ先輩曰く〝なーす服〟なる衣装をまとっており、いつも携えている銃器の代わりに、先端に大きな針のついた、よくわからない液体で満たされている身の丈ほどの円筒形の筒を持っている。
「…………博士の部屋にあった。アインズ様は〝いべんとの
どこか誇らしげに胸を張るシズだが、ネイアは相変わらず未知のワードばかりが飛び出し、頭が疑問符で埋め尽くされる。しかし問うた所でシズ先輩が無言になるタイプの話であることを経験上察し、話題を変える。
「ありがとうございます、先輩!!看護兵団の設立をしたのですが、課題は山積していく一方で……。しかしながら、有用性は抜群です!先日暴風雨によって土砂災害に見舞われた村があったのですが、親衛隊からなる看護兵団を当会が派遣することで、死者が0という喜ばしい数字を聞くことが出来ました!これもアインズ様のおかげです!」
「…………うん。ミリタリーを人助けに転用できるのはいいこと。偉い。」
「いえいえ、わたしはアインズ様より賜りました御慈悲を代用したに過ぎません。」
「…………流石ネイア。じゃあ、看護兵の実践勉強を始める。」
●
「あの……シズ先輩?わたしなんでベッドに寝かされているのでしょう?それに寝巻?」
「…………ネイア………さん。体調はどう?…………ですか?」
「いや!なんで敬語なんですか!?」
「それじゃあ。お熱…………を計る。………ますね。」
「しかも全然使えてないですよね!?何が始まるんですか!?……って!」
ネイアの顔に、シズのやや幼くも美しい顔が近づいてくる。鼻と鼻が、唇と唇がぶつかりそうなほど接近し、おもわずネイアは目をつむり……
コツンとネイアの額にシズの額があたり、温もりが伝わる。同時にシズ先輩のしなやかな手が、ネイアの手首を掴み動脈を探知し二本の指を立てており、一瞬みれば色々と誤解されそうな絵面だ。
「…………
「ちちちちちち、違います!」
「…………異常値がある。胸の音を聞く。…………ますね。」
「ちょ!シズ先輩!!」
そう言ってシズ先輩は奇妙な素材でできたチューブの先に徽章がついている様な、奇妙なものを取り出し、ネイアの寝巻を問答無用ではだけさせ、自分の両耳にチューブをあてて、ネイアの胸に徽章をあてた。
「…………心拍数増大。なおも増大傾向。」
「いきなり服を脱がされれば心臓も跳ね上がりますよ!!」
ネイアはやや涙目になりながらも、シズの聴診を受ける。胸から段々とお腹、背中と徽章の位置が移っていく。
「…………胸がバクバクしている事以外異常なし。」
「いや、これなんだったんですか!?」
「…………じゃあ次は触診。胸のあたりに異常があったから。」
「もう勘弁してください!!」
その後も感謝を送る会の私室で、ネイアの悲鳴だけが木霊した。
・お医者さんごっこさせたかった。今は反省している。