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ムーディーズ宛返信大要

[ 英文 ]
 

1.

 貴社の説明は依然定性的であり、デフォルト・リスクや国際比較についての具体的・定量的説明が不十分。格付けがデフォルト・リスクを差別化して分類している以上、単に、一国の経済・財政状況や政策の方向性の記述ではなく、格付けの差の客観的理由を説明すべき。説明の欠如は、ソブリン債の短い歴史や統計的正当性の不足ともあいまって、ソブリン債の格付けの信頼性自体への疑問を増大させよう。貴社のソブリン債のデフォルト・リスクの計測に際しては、財政指標以外の経済のファンダメンタルズ等の要素はどの程度考慮されているのか。

   

2.

 貴社は日本国債のデフォルト・リスクとして、「将来の政府は国債に対する利子課税や資本課徴金、または債務リスケジュール(返済繰り延べ)を行う可能性がある」と説明している。しかし、このような想定は、日本のマクロバランスや国債の保有状況等を考慮に入れた場合非現実的であり、タイムスパンを明記しつつ、具体的にどのような事態が生じうるのか敷衍が必要。
  
 次のような要素は貴社の分析でどう考慮されているのか。

(1)

 日本国債は現在95%が国内でかつ低金利で消化されている。また、2001年は、一般政府部門の赤字32兆円に対し、民間の貯蓄超過は42兆円である。更に、経常収支の黒字はしばらく継続し、資本逃避のリスクも小さい。従って、資金フロー上の制約はない。 

(2)

 近年自国通貨建て国債がデフォルトした新興市場国とは異なり、日本は変動相場制の下で、強固な対外バランスもあって国内金融政策の自由度ははるかに大きい。更に、ハイパー・インフレの懸念はゼロに等しい。

(3)

 貴社が示唆する債券保有者への負担の強制は、居住者が国債の95%を保有していることを考えれば、自国民への実質的課税に他ならない。通常の財政健全化策を疑問視する一方、金融市場を大混乱に陥れるような手段が採られると想定するのは非現実的。

 

3.

 国債は最終的には将来の税収で償還されるので、各国経済のファンダメンタルズの評価は極めて重要。各国のデフォルト・リスクの相対比較でこの点がどのように考慮されているかについて、貴社の説明はなお不十分。
 

(1)

 貴社の「定量的比較」はほとんど財政赤字の大きさに関連したものばかりである。貴社は、マクロバランス、強固な対外ポジション等は考慮しているとしながら、それぞれの要素がどのように、どの程度考慮されているかは引き続き不明確。

(2)

 マクロバランスとの関係で、財政の持続可能性がどのように比較されているかも不明確。例えば、貴社は「日本の大きな国内貯蓄は実質金利を通じて間接的に考慮されている」としている。ならば、日本では十分な民間貯蓄が財政赤字を補って余りある結果、日本の実質金利は相対的に低いということになる。すなわち、貴社の見方によっても、日本の財政赤字は十分にファイナンスできている。

(3)

 貴社は、「政府の規模が大きいほどより容易に債務を負担できる」としているが、財政の持続可能性は、経済の潜在力や将来の担税力を考慮し、動学的な分析が必要。貴社の見解は、大きな政府がしばしば民間部門の発展を阻害するといった、財政と実体経済の連関を無視した非現実的なもの。

(4)

 貴社は、「対外部門は政府の外貨建て債の格付けとより関連している」としている。 ならば、日本の経常黒字、対外純資産、外貨準備は何れも世界最大であり、外貨建て債格付けはAAAでなければならない。結局は政府の支払能力が問われているのであるから、対外部門の強さは経済のファンダメンタルズの重要な要因として、自国通貨建て債にも反映されるべきである。

(5)

 他国の格付けとの整合性の説明も、当方が質した全ての例を財政赤字の相対的な大きさのみで正当化しようとしているために説得的でない。例えば、ポンド危機後の英国や80年代の「双子の赤字」に悩んだ米国の対外不均衡をどのように評価していたのか。また、貴社は日本の改革の必要性をしばしば指摘しているが、70年代の英国の改革をどう評価していたのか。ちなみに、貴社が英国の外債をAAAとした78年当時は、英国では30年近くにわたる経済の低迷が続いていた。その一方、サッチャー氏が首相となったのは79年であり、改革が軌道に乗ったのは80年代に入ってからである。この間の貴社の格付け基準は一貫していないように思われる。

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