ゼロワン×ニジガク 仮面ライダーゼロワン Rainbow×Rize Part3

「何……?」

侑にとって、“それ”が何だかわからないのも無理はない話だ。目の前で少女を抱きかかえて立つのは、紛れもない異形。バッタ男としか形容のしようのないそれが、彼女らの目の前に落ちてきたのだ。

「……ッ!」

バッタ男は首を動かし、何か言いたげだ。侑は何が起こるのかと、びくっと身構える。

「あ“ぁ~~……!! 痛ってぇ

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!宮下愛エロすぎ!!!!!!!!イクぜ!!!!!」

「……は?」

抱きかかえた少女をゆっくりと降ろしてあげながら悶絶するバッタ男の隣では宮下愛に欲情する男が叫んでいた。

 

 

「いった…あ、あの…貴方は一体…?」

 

「俺は!!!!!宮下愛エロすぎドラゴン!!!!なぁ、宮下愛って…エロいよな!?」

 

「…は?」

 

ゼロワンは予想外の返答に思わず困惑してしまう。

 

「エロいよな!!!じゃあ、俺は行くぜ!!!!!ウッ!!!!」

エロすぎドラゴンはどっかへ走り出した。

 

「と、兎も角…ご無事で何よりです」

困惑するゼロワンの傍らで、イズは姿勢を正しいつもの秘書ヒューマギアとしての佇まいを見せている。

「いやいやそれより! 何で変身できたの!? だってゼアは……」

「ゼアなら、こちらに」

イズはプログライズキーの入ったアタッシュケースから、あるプログライズキーを取り出した。それは、

「ゼロツーキー……! ああ~~! そうか! そうだよ!」

ゼロツープログライズキーとは、かつて仮面ライダーアークゼロと対峙した或人達が産み出した秘密兵器であり、ゼアのバックアップはイズの中に入っている。

つまり、衛星ゼアの無いこの“異世界”でも、代替として人工知能ゼアがサポートしてくれるというわけだ。

「と、とりあえず、よろしくな~~!」

少し戸惑いがあるもののリアクションがいちいち大げさだな、というのが第一印象だった。

 

「あの……」

最後尾の璃奈が何かを言いかけた時、

「生きてんじゃん……」

その後ろから、聞き慣れぬ声が響いた。えっ、と彼方が振り返ったそこには、三人の男女がいた。

「排除」

淡々と声を上げる主は少女。年の頃は璃奈よりも下に見える。

「やっぱ高度一万メートルは盛り過ぎでしょ。まぁボクなら50メートルぐらいにして変身する余裕なんか与えないのだが?? 」

もう一人は、対照的によく喋る少年。こっちはぷらこと同じぐらいに見える。

「あんまり低いと一般人に見られるだろう? 目立つ真似はフツ様も望まない……」

最後は、どこか疲れた印象の拭えないくたびれた男だ。年若い他の二人に比べると、40は越えていそうに見える。

そしてこの三人は白装束のようなものを着ている…

「何…あの人達…」

「コスプレ大会?」

丁度、侑達の元に合流したエマ達。

エマはあの三人組を奇怪な物を見るような目で見つめ、ぷらこは変なバッタ男と三人組を見ながら困惑する。

「ゼロワン! 来たようだね、この“世界”に!」

くたびれた男は彼女らを無視し、慣れない調子で声を張った。

「シンクネット……!!」

ゼロワンの様子が変わる。その調子は一瞬で、危機を察知した戦士のものとなっていた。同好会の面々はその会話の調子に気圧され、身動きがとれずにいる。ぷらことミズゴロー達は首を傾げる。

「君が、楽園を壊した」

くたびれた男はゼロワンをじっと見据えてそう言った。ゼロワンは、またそれかと頭を抱える。

「だから、楽園は……!」

「だからどういう状況だよ…」

ミズゴローは変な男が会話をすすめている光景を見ながら溜息を吐く。

「彼方ちゃんもよくわからないや…ヤバい状況ってことはわかるけどね…」

「そ、それは…ちょっとな…色々あって…後で説明する」

それはもっともな話ではあった。

そもそも……同好会の面々は飛電或人達の戦いには一切無関係の人々…ただ、ゼロワンの戦いに巻き込まれた被害者なのである。

「……とにかく、飛電或人、キミを排除する。この世界と元の世界を贄に、楽園を作る」

少女はぼそぼそと、しかし確かな憎しみを込めた声でそう言った。

「そんなことは、させない」

ゼロワンは静かに、しかし確かな決意を込めてそう返す。

「するんだよ。私達がね」

“レイドライザー!”

男はプログライズキーを取り出し、レイドライザーを巻いた。

「私はジョン」

“RAMPAGE HUNT!”

血走った目で、男──ジョンはプログライズキーを起動させる。

「ボクはバリー」

“スラッシュアバドライザー!”

“HIT!”

少年──バリーはスラッシュライザーのモデルチェンジ型、スラッシュアバドライザーを起動させベルトを巻いた。

「……ミンツ」

“ショットアバドライザー!”

“HIT!”

少女──ミンツはバリーと同じプログライズキーを起動させ、ショットライザーのモデルチェンジ型のショットアバドライザーを巻く。

全員が据わった目でゼロワンを見据え、

「実装」

「変身」

自らを変えるための言葉を解き放った。

RAID-RISE! ランペイジガトリング!”

 

THINKNET-RISE! シェイディングホッパー!”

“────When You cloud,darkness blooms.”

ジョンはレイドライザーと“フェイクランペイジガトリング”キーを使い、ランペイジレイダーへと変貌していた。

フェイクランペイジガトリングとは以前、レイダーが使用した

ファイティングジャッカル

クラッシングバッファロー

スプラッシングホエール

ダイナマイティングライオン

ストーミングペンギン

スカウティングパンダ

ガトリングヘッジホッグ

スパーキングジラフ

エキサイティングスタッグ

インベイディングホースシュークラブ

 

十種の獣が混ざり合ったレイダーとかつてのシンクネット事件で先兵として動いていた仮面ライダーアバドン。

スクールアイドル同好会の面々は、息を呑んだ。

人間が異形へと変身するという違和感と共にもう一つある違和感が出来た。

何か、決定的なことを…

「まずさあ」

バリーのアバドン────スラッシュアバドンは、周りの少女達を一瞥する。

「お前ら、邪魔」

「せつ菜ちゃん!!」

えっ、とせつ菜が反応するタイミング。

ごみを払いのけるかのように、スラッシュアバドンがスラッシュアバドライザーを向けて飛びかかってくるタイミング。

二つのタイミングはほぼ同時だった。

 

せつ菜に向けた切っ先は、間に入ったゼロワンが腕で受けていた。

「あ……」

せつ菜は何か言いかけるが、

「逃げて!!」

ゼロワンは、ただそれだけ叫んだ。

「皆さん!」

イズは叫ぶと、周りにいた同好会と三人のオタクの面々に指示を出し、避難を誘導する。Sアバドンは歯噛みするが、ほか二人は周りにいる人間にそれほど関心が無いのか、それに手を出す様子はない。

「邪魔するんだぁ……?」

Sアバドンはゼロワンの腕からスラッシュアバドライザーを引き抜くと、苦々しげに呟く。

「手を出すなら俺一人にしろよ! シンクネットの相手は俺がする!」

「言ったね?」

三人のシンクネット信者の殺気が強まる。だが、ゼロワンは逃げない。恐れない。怯まない。

この場で今、立ち向かえるのは自分だけなのだ。

だから彼は、戦いの前にいつもこう宣言するのだ。

 

「お前らを止められるのはただ一人……俺だ!」

それが、戦闘開始のゴングだった。レイダーは右腕に巨大なガトリング砲を携えており、ゼロワンが言い終わるか終わらぬかのうちにそれを撃ち放つ。だが、その弾丸がゼロワンを捉えることはない。

ゼロワンはバッタの跳躍力で飛び跳ね、迫り来る弾丸を避け、蹴りを二人のアバドンへと浴びせた。

「うがっ……!」

二人のアバドンは悶絶している。

再びガトリングレイダーがガトリングを撃ち放つが、またも飛び上がってからの丁々発止丁発止。今度はガトリングレイダーの前に着地したゼロワンは、すかさずパンチを決めた。

「固ったぁ~~!」

想像以上の堅牢な装甲を誇るガトリングレイダーに、ゼロワンの拳の方がダメージを受けていた。瞬間、ゼロワンの背中に強烈な一撃が見舞われる。スラッシュアバドンとミンツのアバドン────ショットアバドンが、同時に攻撃を食らわせたのだ。

「やばっ……」

動きの止まった一瞬の隙を突き、

「楽園に捧ぐ、贄となれ。君は……子羊だ」

ガトリングレイダーが全力でガトリングを浴びせた。弾丸の雨が、ゼロワンを貫く。

「ああっ……!!」

茂みの中で、侑は声を上げそうになった。その口元を、イズが優しくしっ、と抑える。

もっと安全な場所に逃がしてあげたいが、一連の流れを見てしまった同好会の面々をこのまま帰すわけにもいかず、イズは13人をめいめい近くの茂みや物陰に隠れさせ、自身は侑、歩夢と茂みの中にいた。

「あの人……あのままじゃ……」

「大丈夫です」

目の前で繰り広げられる、残酷な戦い。さしもの侑も同様を隠せなかったが、イズは冷静さを崩さない。

「…このままじゃマズイわ」

いきなり、果林は何かを思い出したかのように声を震わせる。

「そうでした…!今日はこのままじゃあの人がやられてしまいます!」

「まずいですよ、せつ菜先輩!あの戦いを止めないと!」

「どういうことですか?」

何かに怯えているような素振りを見せ、戦いを止めようと言うせつ菜とかすみにイズは問いかける。

「今すぐにゼロワンって言う人に戦いを止めて逃げるように言わなくちゃいけないんです!!」

「ですが、或人社長は…」

「いいですから!!」

「俺達が行く」

「待ってぷらこくん!」

「ミズゴローくん!」

男三人が戦場に突っ込んでいく。後を追うかのようにエマと彼方も走っていく。

 

「おい、バッタ男!!今すぐベルト外せ!!!」

そう言いながらぷらこ達はゼロワンのベルトに掴みかかり外そうとする。

「ちょっと…何するんですか、やめてください!!!」

ベルトが取られまいと或人も必死に抵抗する。

「ハハハ、助けようとした人間達に襲われるって悲しいね…」

三人の男がゼロワンのベルトに掴みかかる光景を見ながらアバドン達は笑い、それぞれの武器の先端を向ける。

「ああっ…」

ゼロワンの抵抗も虚しく、ベルトが外され変身が解除されてしまう。

「キミが助けようとした人達と共に、仲良く死ぬが良い…」

ガトリング砲、銃口、剣先が襲いかかる瞬間、

ファンファンファンファンファンファンファンファンファンファンファンファンファンファンファンファンファン!!!!!!!

🚓🚓🚓🚓🚓🚓🚓🚓🚓🚓🚓🚓

周囲に爆音のサイレンを響かせると共にパトカーがたくさん現れた。

「け、警察?」

或人は大量のパトカーを見て何がなんだか分からず首を傾げる。

もしかして、異様な事態を見た誰かが警察に電話したのか?

それともたまたま警察が見ていたのか?

考えられる可能性を或人は脳をフルで使いながら考えた。

「警察だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!関係のない場所でライダーベルト装着行為の現行犯で抹殺する!!」

AK-47やショットガンを構えた警察がパトカーの中からたくさん現れ、アバドン達の周囲を取り囲む。

「とりあえず今のうちに逃げるぞ!」

「そうだね…」

「ちょ、ちょっと…」

ミズゴローと彼方達は或人を連れて逃げる。

或人は何がなんだがわからぬままついていく。

「驚くも無理はないですよね…」

「あ、あれは…」

「実は…」

「キミ達、なんの真似だ…」

Sアバドンは警察達にスラッシュアバドライザーの刃を見せながら、余興を壊された怒りを込めて聞く。

 

異世界の連中は知らないだろうが、今日は『ライダーオタクはちゃんと身の程を弁えよう!期間』の最終日!公共の場や関係のないイベントでライダーベルトを巻くのは死刑なのだ!」

 

「そんなの私達には関係のないこと…まずは貴様達を倒す…」

レイダーはガトリング砲を警察達に浴びせる。幾ら、警察だろうと所詮は人間…普通に考えればレイダーやアバドンにやられるのが予想出来る。

しかし、警察は高級な防弾チョッキを着ていた為、弾丸が弾き返されてしまう。

「今度はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!こっちの番だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

警察の正確なフルオート射撃がレイダーを襲う!!!

レイダーは4259258160655109570925193384の弾丸をその身に受ける!!

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

ガトリングレイダー…ジョンの人生には廃校という名の死が宣告された!!!

 

「ジョ、ジョン!」

 

「次は貴様らだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「ちょ、ちょっとまって…」

問答無用に銃弾が二人のアバドンに襲いかかる!

「ぎゃあああああああああ!!!!」

アバドン二人の生命活動はシンクネットを通じて停止…死んだのだ!!!

 

 

「…あそこにいたら…俺も…」

或人は凄惨な光景を見ながら絶句する。あの時、ベルトを着けていたら自分も蜂の巣にされていた…

そう思うと震えが止まらなくなる。

「まぁ、今日が最終日ですから〜…大丈夫ですよ〜…」

彼方は震える或人を落ち着かせようとする。

 

〜〜〜

「まさか本当に正義の変身するヒーローがいたとは…」

せつ菜は目をキラキラさせながら興奮する。

優木せつ菜は漫画やアニメといったものが好きな女の子である。だからこそ、漫画やアニメなどで見た展開が目の前で見れたことに興奮しているのである。

「まぁ…今日が今日だったから大変なことになっちゃったけどね…」

愛は苦笑いしながらさっきの状況を思い出す。

「…でも、一体誰が警察に通報したんだろう。」

「りなりー?」

「こんなに警察がすぐに来ることはありえないはず。きっと、あの状況誰かがすぐに通報したからだと思う。」

「確かに…でも、愛さんの携帯は部室だよ?」

警察が大量にすぐ来たあの状況。誰かが通報していなければあんな状況にはならなかった。しかし、通報した人物が思い当たらないのだ。

「私達はぷらこ達と連絡をとるためにスマートフォンを持っていたけど…でも、逃げるのに夢中で通報とかはしていないわ。」

果林達はスマートフォンを持っていたものの、警察に連絡するタイミングがなかった。

「考えられる可能性は…愛さんのことが好きだったあの男性の人でしょうか?ですが、彼は…」しずくは愛に欲情していた男…エロすぎドラゴンを思い出す。彼が通報していれば納得はいく。しかし、彼はすぐに帰っていったからあの状況には居合わせてはいない。

「うーん…」

 

「おーい、社長!」

そこへ、或人にとっては聞き覚えのある声…不破の声が聞こえた。

「不破さん!それにみんなも!」

不破、唯阿、天津垓、滅、刃の四人が或人の元へ歩み寄ってくる。

「何とかあの集団は撃退することが出来た…今は亡と雷があそこを見張っている。」

「この人達は知り合いですか?」

「俺と同じ仮面ライダーだ。」

歩夢の質問に或人は答える。

「とりあえずお台場で有名な場所…ビックサイトに来てみたが、学校になっているとは…」

「世界が違うからな。俺達が知る場所とは別物だと思っておくべきだな。」

唯阿と滅は学園を見ながら呟く。

「おおおっ!正義のヒーローが他にもたくさんいるとは…感激です!!とりあえず、聞きたいことも色々あるので私達の部室に行きましょう!」

 

「私達が案内するのでついてきてください。」

 

侑とせつ菜達同好会に連れられて或人達は部室へと案内される。

〜〜

部室の中で或人達と同好会のメンバー達はお互いの情報を交換した。

シンクネット、異変、別世界…

同好会の面々にとっては現実ではないように感じられたがすんなり受け入れることができた。

 

「とりあえず、或人さん達は或人さん達の世界と私達の世界を利用して何か悪いことをしようとしている人達を止めにきたってことでいいんですよね?」

 

「ああ、そういう感じだな。だが、あのシンクネットの連中は君達も狙っている感じがした。」

 

「私達が狙われている…」

 

「だから、君達は俺達仮面ライダーが絶対に守る。」

 

「頼もしいです…!私達にも何か出来ることがあったら教えてください!」

 

俺達仮面ライダーが守る。

その言葉に同好会の面々は少し安心感を覚えた。

 

「そういえば、私達自己紹介がまだでしたね!話も落ち着いたようだし、お互い自己紹介しませんか?」

 

「そうだな…お互いが何者なのか知った方が良いな。」

 

「じゃあまずは俺から、飛電或人です!」

「高咲侑です」

上原歩夢です」

「不破諫だ」

「かわいいかすみんです!」

「刃唯阿だ」

「桜坂しずくです」

「僕は迅」

「滅」

「朝香果林よ」

「エマ・ヴェルデです!」

「エマと果林の夫であるぷらこ」

「私は宮下愛!」

「天津垓だ」

「近江彼方だよ~~……」

「ミズゴローです」

ラクテ」

「社長秘書の、イズと申します」

「優木せつ菜です!! よろしくお願いします!!」

天王寺、璃奈」

互いに名乗り終わった時、

(あれ? 『あると』……? あると?)

(ゆうちゃん? あゆむ? ……『ゆーちゃん』?)

或人と侑は夢で聞いた名前を思い出しお互いを見つめ合っていた。