「店舗は、“データベース”です」
馬渕:ではヘルスケアのどこに将来性があるのでしょう。
江口:ヘルスケア分野には情報、国境、既得権の格差が長年存在しています。ここにビジネスチャンスがあります。わかりやすい例で言うと、アメリカはこの20年間、ガン患者が減り続けている一方、日本はガン患者が増加し続けている。この格差が生まれているのはなぜかわかりますか?
馬渕:治療法でしょうか。
江口:そう。アメリカのほうが、受けられる治療法が多岐にわたるのです。つまり、国によって医療のボーダーが存在しているのです。
馬渕:なるほど。が、そんな江口さんがヘルスケア業界に参入し、最初に着手されたのがリラクゼーションスタジオだったのはなぜでしょうか。
江口:Re.Ra.Ku の店舗を、“ホームページ”に例えてみましょう。店舗が増えれば増えるほど来店という名のページビューが伸びます。すると、よく店舗を訪れる常連さん、つまりユニークユーザー(UU)の傾向が分析できますよね。
馬渕:なるほど。
江口:店舗の来店者、すなわちPVが稼げればユーザーのデータベースが取れます。結果、そのユーザーに対してセグメントをかけられるようになる。それが保険業界に進出するためのステップとなるのです。
馬渕:近年、ページビュー(PV)のみを追うWEBメディアが苦戦を強いられる中、そのようなUUを増やし、データベースを蓄積する考え方は先進的ですね。“目先のPV”の先にしっかりバックエンドを設けられている、と。
江口:そうです。そのデータベース集めを見据えて、リラクゼーションスタジオから始めたんです。そのため我々は今後、多国間病院経営まで考えています。
馬渕:業界の地位向上のために、最初から上場を目指していたそうですね。
江口:Re.Ra.Ku の創業は2000年です。当時のリラクゼーション産業の地位はひどいものでした。グレーゾーンと言われており、職業分類すらもなかった。業界の社会的地位を向上させたいという思いもあり、上場を目指していました。
馬渕:そんなリラクですが、日本での上場を目指していたものの、上場はできなかったそうですね。なぜでしょうか。
江口:一口で言うと、業態がグレーゾーンと判断されたからです。2006年から2013年にかけて東京証券取引所引受部の方から問題点を教えてもらいました。昭和22年に施行された、「あはき法(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師などに関する法律)」という法律の第一条に「医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。」とあります。しかし、問題はその「マッサージとはなにか?」というのが定義されてないんですよ。
馬渕:マッサージの定義がわからない?
江口:そう。マッサージの定義がないので、リラクゼーションという業態自体グレーゾーン扱いされてしまったんです。
馬渕:しかし、リラクはそこでも諦めなかった。
江口:はい。たとえば、同様の扱いを受けた例として、消費者金融業です。当初グレーゾーンでしたが何社か上場しました。消費者金融業は全体業界団体が存在して、自主規制を進めたことから、上場できたと聞いています。
馬渕:なるほど。業界団体ですか。
江口:そこで我々が上場するには、まず自主規制団体を作り、業界の整理が必要だろうという話になりました。そこで、2007年から一般社団法人リラクゼーション業協会を立ち上げ、グレーゾーンからの脱却と、消費者が安全に受けられる施術とは何かを徹底的に体系化することにしました。
馬渕:こうして東証に再度掛け合って上場を果たし…
江口:いえ、それがダメだったんですよ。
馬渕:上場できなかった。何がダメだったんですか?
江口:今度は厚生労働省からの文書回答をもらってくださいとの返答でした。企業としても、個人としても、業界団体産業団体としても陳情はしましたけど、回答はなかったのです。内閣府、総務省も行きました。省庁間を3年間ぐらい回り続けました。