行方と考察3
グレグルミー編、そろそろ終盤
油断も隙もない奴である、キシュタリアという男は。
端正な顔がちょっとふくれっ面になる。拗ねたように、唇を尖らせる。
こういったふと見せる仕草が母性本能をくすぐるのか、キシュタリアは年上女性の受けがいい。
特別童顔というわけではないのだが、無性に可愛がりたくなるそうなのだ。
いつだか誰か聞いたらしいジブリールが言っていた。しかし、ジブリールには理解できないらしい。
あの手厳しいジブリールのことだ。その時の機嫌によっては「ぶってんじゃねーですわよ」くらい言い放つだろう。
だが、少なくともアルベルティーナにはよく効きそうな仕草である。何せ、義弟を溺愛しているのだから。
互いにアルベルティーナの『可愛がられ枠』こと弟妹ポジションであるジブリールとキシュタリア。幼いころから互いをライバル視している。
あからさまに喧嘩をすると、アルベルティーナが心配するのでそのあたりは隠れてやっている。
今のところはであるが、一つだけとはいえ年下の女の子に本気ではやり合わないキシュタリアと、容赦ない赤い悪魔となるパワフル令嬢ジブリールでは結果が歴然である。
それでも衝突が細々起こるのは、アルベルティーナでは譲れないことが多いキシュタリアとじゃじゃ馬ジブリールがガンガン煽るからだ。
一見するだけだと実に麗しい笑顔で語り合っているため、頻繁に周囲を勘違いさせるが、大抵は優雅で苛烈な蹴落としあいである。
憎悪を飛ばし合っているわけではないのだが、小競り合いが絶えない。
そんなことを思い出していたミカエリスの視線に、何か含みを感じ取ったキシュタリア。
「いいよーだ。一足先に王都にアルベルのところに帰るし、先に甘えるから」
んべ、と舌を出して顔をくしゃりと歪ませる。
悪戯小僧としか言いようのない捨て台詞だが、キシュタリアはやると言ったらやる。
思い切りこちらを煽るように『義弟』という立場をフル活用していちゃつきにかかるのだろう。
昔から、アルベルティーナはキシュタリアに甘い。
彼が養子に来るまで一人っ子ということもあるだろう。同い年の義弟をことさら可愛がっているし、信頼している。
グレイルが非常に厳しい人だったしある意味バランスが取れているとはいえるが、飴と鞭が極端である。
(アルベルの前では魔公子っぷりは鳴りを潜めているからな)
魔性の公爵子息、悪魔公爵子息などと由来は色々ある。
アルベルティーナの前では子猫のような皮を被っているが、中身はデスライガルである。
非常に強力な肉食の魔獣であり、その鳴き声を遠くで聴こえただけで、ボアの群れが一帯から掻き消えるという。
さぞ恐ろしい姿かと思いきや、デスライガルは色鮮やかな毛並みを持つ、獅子と虎を混ぜ合わせたような魔物だ。齢を重ねるごとに大きくなり、その毛並みも豊かに鮮やかにと変化していく。百獣の王さえ色褪せる、勇壮な極彩色に魅了される人々は後を絶たない。その毛皮や剥製は高値で取引される。
また、蜂のように、女王を中心に群れを作る社会的な獣でもある。
女王は一際体が大きく、最も賢く強い個体である。強力なリーダーシップで、群れを纏める。小さい群れは数匹程度だが、巨大な群れだと数百にも及ぶ個体がひしめく。
成長すると一個体で十分脅威、その上に群れを成す習性のデスライガルはかなりの脅威。
人里近くに一匹でも、下位眷属でも見つかったら一斉捜索してその群れを潰そうとする。
(そういえばラティッチェ公爵が巣ごと女王と群れを焼き払ったことがあったな)
繁殖期になり、子でも一斉に生まれれば周囲の生き物は根こそぎの勢いで食料とみなされる。
しかもそのデスライガルの群れは近年類を見ない巨大さだった。
その巣が発見されたのはアルマンダイン領であったが、余りの数に討伐は難航していた。
遅々と進まない討伐。長引くにつれ人への被害がまばらに出始め、いつ村や街という人間集落が落とされるかという瀬戸際にグレイルがふらりと動いたのだ。
理由は「アルベルティーナの誕生日が近いから」である。
まだ一月半の猶予があったが、直近になって呼び出されたくなかった。ただ、それだけの理由である。
ちなみに帰りは、アルベルティーナが好きそうな土産を買い漁って戻っていったという。
人の流れが大分少なくなり、美しい細工箱や宝石類が多く余っていた。
ラティッチェ公爵は、その日の採掘場から出た裸石すらなくなる勢いで買い占めたという伝説が残っている。
凄まじいお金の落とし方をしたので、その辺一帯は一気に経済も回復した。アルマンダイン公爵家も、グレイルがさっさと帰り後始末が多少雑でも文句が言えなくなったのだ。
そのうち、キシュタリアも同じことをしそうである。
年々あの魔王公爵に似てきている気はしたが、ここ最近は特にそうだ。
ミカエリスのもの言いたげな視線を知っていながら無視して、キシュタリアは明るく問いかけた。
「そうだ。ミカエリス。ここってなんか面白そうなお土産とか、特産品ある?
ちょっと長く空けちゃったから、アルベルの気分転換になるような面白そうなの」
「私がそういうのが苦手だと知っているだろう……」
ニコニコとキシュタリアは難題を吹っ掛けてきた。
ミカエリスの嫌そうな顔を眺めたキシュタリアは「勿論知ってるよ」としれっと言うのだった。
読んでいただきありがとうございます!
花粉症デビューして死にそうです。山が近いので、杉がそこら中にある地獄。
ななななんと!KADOKAWAブックスから書籍化決定です!! 一巻は令和元年九月十日に発売です。コミカライズも決定しました。これも応援してくださる皆様のおかげ//
異母妹への嫉妬に狂い罪を犯した令嬢ヴィオレットは、牢の中でその罪を心から悔いていた。しかし気が付くと、自らが狂った日──妹と出会ったその日へと時が巻き戻っていた//
【書籍版重版!! ありがとうございます!! 双葉社Mノベルスにて凪かすみ様のイラストで発売中】 【双葉社のサイト・がうがうモンスターにて、コミカライズも連載中で//
魔力の高さから王太子の婚約者となるも、聖女の出現によりその座を奪われることを恐れたラシェル。 聖女に対し悪逆非道な行いをしたとして、婚約破棄され修道院行きとなる//
【☆書籍化☆ 角川ビーンズ文庫より1〜3巻発売中です。コミカライズ春頃連載開始予定。ありがとうございます!】 お兄様、生まれる前から大好きでした! 社畜SE//
薬草を取りに出かけたら、後宮の女官狩りに遭いました。 花街で薬師をやっていた猫猫は、そんなわけで雅なる場所で下女などやっている。現状に不満を抱きつつも、奉公が//
【R3/2/12 アース・スターコミックスよりコミックス3巻発売。R2/12/16 アース・スターノベルよりノベル4巻発売。ありがとうございます&どうぞよろしく//
「すまない、ダリヤ。婚約を破棄させてほしい」 結婚前日、目の前の婚約者はそう言った。 前世は会社の激務を我慢し、うつむいたままの過労死。 今世はおとなしくうつむ//
◇◆◇ビーズログ文庫から1〜4巻大好評発売中です。 ◇◆◇コミカライズ1巻大好評発売中です!! ◇◆◇詳細へは下のリンクから飛べます。 私の前世の記憶が蘇っ//
※アリアンローズから書籍版 1~6巻、コミックス3巻が現在発売中。 ※オトモブックスで書籍付ドラマCDも発売中です! ユリア・フォン・ファンディッド。 ひっつ//
【R3/2/5 SQEXノベルよりノベル発売しました。ありがとうございます&どうぞよろしくお願いします】「ひゃああああ!」奇声と共に、私は突然思い出した。この世//
エレイン・ラナ・ノリス公爵令嬢は、防衛大臣を務める父を持ち、隣国アルフォードの姫を母に持つ、この国の貴族令嬢の中でも頂点に立つ令嬢である。 しかし、そんな両//
二十代のOL、小鳥遊 聖は【聖女召喚の儀】により異世界に召喚された。 だがしかし、彼女は【聖女】とは認識されなかった。 召喚された部屋に現れた第一王子は、聖と一//
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。 自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
※WEB版と書籍版では内容がかなり異なります(書籍版のほうは恋愛メインのお話になっています。登場人物の性格も変更しました) 過労死した社畜OLが転生した先は、国//
本が好きで、司書資格を取り、大学図書館への就職が決まっていたのに、大学卒業直後に死んでしまった麗乃。転生したのは、識字率が低くて本が少ない世界の兵士の娘。いく//
【本編完結済】 生死の境をさまよった3歳の時、コーデリアは自分が前世でプレイしたゲームに出てくる高飛車な令嬢に転生している事に気付いてしまう。王子に恋する令嬢に//
注意:web版と書籍版とコミック版とでは、設定やキャラクターの登場シーン、文言、口調、性格、展開など異なります。 書籍版は一巻と一章はそこまで差はないですが、書//
【KADOKAWA/エンターブレイン様から書籍版発売中】 【2019年9月からコミックウォーカー様にてコミカライズスタート&書籍発売中】 「気付いたら銀髪貴族//
❖オーバーラップノベルス様より書籍9巻まで発売中! 本編コミックは6巻まで、外伝コミック「スイの大冒険」は4巻まで発売中です!❖ 異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
頭を石にぶつけた拍子に前世の記憶を取り戻した。私、カタリナ・クラエス公爵令嬢八歳。 高熱にうなされ、王子様の婚約者に決まり、ここが前世でやっていた乙女ゲームの世//
前世の記憶を持ったまま生まれ変わった先は、乙女ゲームの世界の王女様。 え、ヒロインのライバル役?冗談じゃない。あんな残念過ぎる人達に恋するつもりは、毛頭無い!//
公爵令嬢に転生したものの、記憶を取り戻した時には既にエンディングを迎えてしまっていた…。私は婚約を破棄され、設定通りであれば教会に幽閉コース。私の明るい未来はど//
婚約破棄のショックで前世の記憶を思い出したアイリーン。 ここって前世の乙女ゲームの世界ですわよね? ならわたくしは、ヒロインと魔王の戦いに巻き込まれてナレ死予//
「リーシェ! 僕は貴様との婚約を破棄する!!!」 「はい、分かりました」 「えっ」 公爵令嬢リーシェは、夜会の場をさっさと後にした。 リーシェにとってこの婚//
貧乏貴族のヴィオラに突然名門貴族のフィサリス公爵家から縁談が舞い込んだ。平凡令嬢と美形公爵。何もかもが釣り合わないと首をかしげていたのだが、そこには公爵様自身の//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
8歳で前世の記憶を思い出して、乙女ゲームの世界だと気づくプライド第一王女。でも転生したプライドは、攻略対象者の悲劇の元凶で心に消えない傷をがっつり作る極悪非道最//