扇町ミュージアムスクエアのクロージングイベントで、僕は執筆依頼を受けて「父になる。」というコントの脚本を書き下ろしました。
劇場が無くなるからこそ、何かが誕生する物語を書きたいと強く思って、産婦人科で出産の時を待つ兄弟の話を書きました。
今から13年前のことです。
何本ものコントを書いてきましたが、複雑な気持ちで書いたことを覚えています。
クロージングイベントでコントを書かせていただく誇らしさ。
このコントを書き上げて、稽古をして、お客さんが笑ったら、劇場が無くなってしまう哀しさ。
僕は扇町ミュージアムスクエアがあったから、劇作家になり、小説家になれました。
扇町ミュージアムスクエアに育ててもらい、今は演劇の講師などもしています。才能を育てるお仕事です。
教えてもらったこと、学んだことを、少しでも多くの方々にお伝えしようと思っています。
今日は、扇町ミュージアムスクエアの同窓会でした。世代を越えて、あの場所を大切に思っている人たちの会でした。
がんばって花を散らさないでいてくれた扇町公園の桜の木を眺めながら、思い出が花びらのようにあふれました。
本番当日の朝早くからこの公園で稽古をしたこと。かつてあった扇町ミュージアムスクエアのこと。屋上の稽古場、暑かったこと、寒かったこと、風が強かったこと。劇場の柱。映画館の「コロキューム」。雑貨ショップの「スーベニール」。カフェレストランの「スタッフ」。スタッフステーションのねこバス。平台。箱馬。搬入口。緊急出動する車のサイレン。裏手の楽屋。稽古場で七輪を焚いてお餅を振る舞ってくれた先輩。いつ見ても階段の踊り場で得体の知れないワクワクするものを作っていた先輩。笑い声で揺れる客席。
僕はあの場所で、何本もコントをし、本公演を打ちました。思い出が尽きません。
今はもうない、この大切な場所は、ウクレレになっていました。
伊達伸明さんが扇町ミュージアムスクエアの廃材を再利用してウクレレを作られ、そのウクレレが扇町ミュージアムスクエアの跡地のビルの中に飾られています。
今はもうないけど、今もまだある。
目を閉じれば、屋上の恐竜が見下ろしている。
扇町ミュージアムスクエアは、みんなの心の中にある大切な場所です。
余命半年の劇場のお話。
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