エリートを襲ったコロナ後遺症 「要介護3」認定男性の苦悩

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 新型コロナワクチンの接種が始まり、新規感染者数も日々減少傾向にありますが、新型コロナに感染し重症化した私が、重症化するとどうなってしまうのかご理解頂きたくて、自身の経験をお伝えしたいと思います。少しでも多くの方が新型コロナ感染症に感染しないことを願うためです。(文・槌田直己=仮名)

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 現在57才で独身、一人暮らしです。慶応大学卒業後、メガバンクの前身銀行、外資系コンサルティング会社等を経て独立。発病前は私一人が活動する経営コンサルティング会社の代表を務めていて、一人で営業もコンサルティングもこなしていました。

 私は父が新型コロナ肺炎で亡くなった昨年の8月6日に緊急入院し、半年間治療を重ね、今年の2月9日に退院致しました。退院できたといっても以前の状態に戻ったわけではありません。後遺症に悩まされています。既に介護保険では「要介護3」に認定を受けておりますし、障害者手帳を申請中です。医師のコメントでは一番程度の重い「1級」の用件を満たしているとのことです。

 最近はマスコミを通じて後遺症のことも知られてきていますが、実際は結構大変です。私の後遺症で大変なのは2つあり、一つは肺の機能低下に関することで、もう一つは右足が自由に使えず満足に歩けなくなったことです。

肺機能低下で24時間酸素吸入

 まず肺の機能低下に関してお話ししましょう。肺の機能が低下すると、自分の肺で十分な酸素を体内に取り込むことができません。酸素ボンベ等を使ってチューブで鼻から酸素を体内に吸入します。一般に健康な方の場合、血液中の酸素濃度(SpO2)は96~100%位です。91~95%は酸素が少ないといわれる状態で、90%以下だと何らかの処置が必要な呼吸不全と診断される状態です。
 
 私の場合、酸素吸入しない状態では安静時でも90%以下となってしまい24時間酸素を吸入せざるを得ず、その時の状況に応じ吸入する酸素量を多くしたり少なくしたりします。酸素量を上げ下げする基準は血液内の酸素量を基準にして、安静時は1分間に1リットル(1L/H)とか、通常歩行時は3L/Hとか変えたりします。血中酸素濃度はかなり頻繁に変動するため速やかに対応せざるを得ず、血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターは必須です。私の住居は2階建て家屋ですが、1階から2階に階段で上ると、その間の10数秒くらいで1L/Hの酸素量だと80%以下まで落ちてしまいます。ですから家にいるときでも寝ている時以外は常に酸素濃度を気にして、頻繁に吸入酸素量を変えています。座っている時、台所等でちょっと歩く時、階段を上る時等、リモコンで酸素量を変えられる酸素吸入器で酸素量を頻繁に変えています。

■酸素吸入量を増やすと酸欠状態に

 そんなことしないでずっと高い酸素吸入量にすれば良いではないかと考える方もいらっしゃると思いますが、そうもいきません。酸素吸入量が多すぎると必要以上に酸素を体内に取り込んでしまい、結果として血液中の二酸化炭素濃度が高くなってしまうのです。人間の体は血液中の二酸化炭素濃度が増えてしまうと、もう酸素を取り込む必要がないと判断をしてしまうみたいで、酸素吸入量を増やすことでかえって酸欠状態になってしまう可能性があるのです。ですから必要量を超えない酸素量しか吸入してはいけないようなのです。だから頻繁な酸素吸入量の変更が必須です。

■酸素濃度60%=マラソンゴール直後の数値

 血中酸素濃度が低くなっても余り自覚症状がないのでかえってやっかいです。入院中は血中酸素濃度が下がるといけないので24時間酸素濃度を測定していました。治療を目的とする病院からリハビリを目的とする病院に転院した初日、顔を洗う時1分間くらい酸素チューブをはずしていたら酸素濃度が60%台に落ちてしまいました。そしたら医者や看護師がすっ飛んできました。私は苦しいわけでもなくキョトンとしています。聞けば60%台とはマラソン等でラストスパートをかけ倒れ込むようにゴールした直後位の数値だそうです。治療する病院では珍しくなかったかもしれませんが、リハビリ病院では異常な数値なのです。私の場合、血中酸素濃度が下がったから苦しいのではなく、平常時からそこそこに苦しいので、思いっきり下がっても気づかないようなのでした。今は酸素濃度が下がらないように気を遣っていますから60%台まで下がるとどうなるかわからないのですが……。

右足が不自由になったこととエクモの関係

 肺の機能の低下に加えて右足が自由に使えなくなったことで大変さが増してしまいました。エクモ(ECMO)という治療方法があるのですが、私はエクモの治療を受けました。右足が不自由となった正確な原因は不明なのですが、どうも原因はエクモが関係していたようなのです。

 医学的なことを正確に説明できませんが、エクモとは「人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療」で、人工呼吸器や昇圧薬など通常の治療では救命困難な重症呼吸不全や循環不全のうち、通常の治療では直ちに絶命してしまう、または臓器が回復不能な傷害を残すような超重症呼吸・循環不全患者に対し、治癒・回復するまでの間、呼吸と循環の機能を代替する治療器もしくは治療法とのことです。

【参照】藤田医科大学HPの説明を要約

 人間の体の心臓と肺の関係をいうと、まず心臓の右心房の血液は右心室から肺動脈を通って、肺で酸素を取り込んだ後、左右の肺から各2本ずつの肺静脈を経て心臓の左心房に入り、僧帽弁を通過して左心室に送られ、血液は左心室の強い収縮力を受けて大動脈から全身に送り出されます。

【参照】救心製薬(株)HPの説明を要約

 エクモは血液を心臓から肺、肺で酸素を混入し肺から心臓、心臓から全身へ送り出す機能を代替するものだと思っています。

 正確な治療内容を理解していないかもしれませんが、私がエクモを使用した時、右の首筋から血液を抜き出しエクモに送り、エクモで酸素を加えた後、強い力で右足の付け根の血管に血液を戻しました。このとき右足の付け根の辺に血液の塊(血栓)ができてしまい、この血栓が右足の太ももから膝、ふくらはぎへと続く神経に影響したようで、右膝を伸ばす神経が麻痺してしまったようなのです。

■右足でアクセルブレーキを操作できなくなった

 結果として右膝は自分の力で伸ばすことができず、今はわずか10センチの高さの階段を上ることができません。車に乗り降りする時も右足をあたかも荷物を搬入するかのように手で持ち上げないと乗り降りできません。車を運転するにも右足をアクセルからブレーキの場所に動かすことができないため、免許センターから左足だけでアクセルブレーキを操作するよう、改造した車の運転に限定するよう免許証に条件をつけられました。

 肺の機能低下と右足の不自由のせいで歩くのも大変です。まず外出時は必ず酸素ボンベを伴って歩きます。酸素吸入している人は誰でも長く歩くことができず、私も30メートル~200メートル位歩くと止まって血中酸素濃度があげるために休みます。上り坂は血中酸素濃度がすぐ下がるので頻繁に休みます。更に面倒なのは右足に力が入らないため倒れやすいことです。特に下り坂では膝が折れて倒れ易く、常に集中して歩かざるを得ません。歩くスピードは以前の三分の一位になりました。1キロ歩くのに10回くらい休憩して1時間くらいかけないと歩けないのです。

■1キロ歩くのに10回休んで1時間かかる

 これらに加えて一般的にコロナの後遺症といわれている息苦しさや強い咳にも悩まされています。私は肺の機能が下がってしまい、肺活量が普通の人の4割くらいの1660ccしかありません。息が苦しくなってもたくさんの空気を吸い込むことができないのです。「はい、深呼吸して」と言われても息を深く吸い込むことができません。だから吸入酸素量を増やすしか回復する方法がないのです。また息を深く吐くと咳き込みます。そのせいか少し話す程度で、すぐ咳き込んでしまいます。友人知人と話をしても、すぐ「無理して話そうとしなくていいから」と話したくても話をさせてもらえないことが多くあるのです。夜寝る時も咳き込むことが多いです。毎日睡眠薬を飲んでいますがしばらく眠れないことが多く、咳が出始めると頭がボーッとしていても数時間眠れないことがあります。

 報道等で後遺症があることはご存じの方も多いと思いますが、後遺症にも差が多く、私のように一生不自由を抱えて生きなければならない人がいることもご認識下さい。まず新型コロナに感染しないことが重要ですから、少しでも皆様の役に立てればと思い、引き続き私の状況を詳しくご説明して参ります。

(編集・構成=岩瀬耕太郎/日刊ゲンダイ)

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