新型コロナウイルス変異種と製薬会社との攻防戦。「手も足も出ない、なんてことはない」

新型コロナウイルス変異種と製薬会社との攻防戦。「手も足も出ない、なんてことはない」
Image: Getty Images via Gizmodo US

光は、射している。

昨年以来、新型コロナウイルスと人類との熾烈な戦いが続いています。今週、アメリカの製薬会社モデルナ(Moderna)は、南アフリカ共和国で発見された変異種に対応するワクチン臨床試験段階に入ったことを発表しました。ワクチンを共同開発するファイザー(Pfizer)とビオンテック(BioNTech)もまた、変異種に対応する独自の緊急対計画の治験を実施予定だといいます。

免疫が効かない? 南ア変異種への対応策が急務に

昨年の冬に南アフリカ共和国で発見された変異種(南ア変異種、B.1.351)は、コロナ禍における最大の懸念要素のひとつとして浮上しています。B.1.351はイギリスで発見されたB.1.1.7など他の変異種同様、従来のウイルスより感染力が強いのが特徴です

しかしB.1.351が厄介なのは、感染や予防接種によって構築された免疫に耐性を持つ可能性があることです。実際、B.1.351に対するワクチン効果が低いというデータが出されて以降、南ア共和国ではオックスフォード/アストラゼネカ製ワクチンの接種を一時中止しています。

モデルナとファイザー/ビオンテックのワクチンについては、これまでの研究でB.1.351にも効果があることが示されています。ただ、効果が弱まる可能性も否定できません。

製薬会社各社が独自のプランで対応策を打ち出している。

モデルナは先月、あくまで「念には念を」としたうえで、B.1.351への効果を重視した新ワクチンを開発すると公表しました。そして24日、同社は治験のため新たなワクチンを米国国立衛生研究所に出荷したと発表しています。

モデルナはB.1.351に効果を発揮する可能性があるとして、3つのワクチン接種案を打ち出しています。現在、「従来型ワクチンを2回接種した人に、同じワクチンを追加接種することで変異種への抗体ができるか」という研究がすでに進行中です。さらに「従来型ワクチンと改良型ワクチンの混合を追加接種」する第2案、そして「改良型のみ追加接種」という第3案も検討されています。同社では今後、未接種の人に改良型ワクチンおよび混合ワクチンを使用して予防効果が発揮されるのか、テストしたいと考えています。

ファイザー/ビオンテックも25日、従来型ワクチンを使った三回目の接種(追加接種)について、独自の臨床試験を開始すると発表しました。また、すでに承認済みの改良型ワクチンの臨床試験に向けて連邦規制当局と協議しているとのことです。

最初のワクチンよりはスピーディに展開できそう

当初、mRNA型ワクチンを緊急使用するにあたり、大規模かつ長期的な治験が展開されてきました。今後、改良型ワクチンの一般利用を前に再び治験が実施されることになりますが、前回と比べると規模も期間も縮小されることでしょう。従来型ワクチンで実施された大規模な治験により、すでに典型的な免疫反応に関するデータが豊富に存在しているため、改良型ワクチンの安全性と有効性を確認する手間が軽減されるためです。さらに、ワクチン接種後の治験者から同意を得たうえで血液を収集しており、その抗体がB.1.351に効力があるかどうか、研究所内でテストすることになっています。

こうした変異種が出現する以前にも、科学者らはウイルスが進化する可能性について言及しており、それに応じてワクチンの定期的な調整が必要だと警告してきました。変異型ウイルスの典型といえばインフルエンザウイルスであり、毎年ワクチンが更新されています。今のところ、新型コロナウイルスにインフルエンザほどの変異スピードは見られません

人類はウイルスに手も足も出ない、わけじゃない

当面の間、新型コロナのパンデミックから可能な限り自分の身の安全を守ることは必要です。でも、新型コロナウイルスの変異種が人間にとって手も足も出ない脅威、というわけではないのです。

ワクチン接種が多くの人や地域に広がり、日々の新規感染者数が右肩下がりになれば、改良型ワクチンに頼らずに済むかもしれません。ぜひそうなってほしい、と心から願うばかりです。

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