コロナ後遺症の「ブレインフォグ」、原因解明に手掛かり
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらすさまざまな症状の中には原因の解明が進んでいないものが数多くある。ブレインフォグもその一つだ。ブレインフォグとは、頭にモヤがかかったような、ぼんやりした状態になる症状のこと。重症患者に起こる可能性があり、COVID-19からの回復後も長期にわたって後遺症として残る場合がある。
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こうした中、米ジョンズ・ホプキンス大学のDavid Nauen氏らは、COVID-19死亡患者の脳内に極めて特殊な細胞の塊を発見し、これがブレインフォグを神経学的に説明するための手掛かりになる可能性のあることを、「JAMA Neurology」に2月12日報告した。
Nauen氏らは今回、COVID-19に罹患して死亡した15人の患者の剖検で得られた脳組織を分析した。また、新型コロナウイルスに感染していないが、脳に低酸素虚血性の変性が生じている2人の患者の脳組織についても調べた。
その結果、驚くべきことに、COVID-19罹患患者の脳には、炎症やリンパ球の浸潤といった脳のウイルス感染の典型的な兆候がいっさい認められなかった。ところが、約3分の1(33%)の患者の脳の毛細血管に、巨核球と呼ばれる細胞が存在することが明らかになった。これに対して、非感染患者の脳組織には、巨核球は確認されなかった。
Nauen氏は、「巨核球は通常、赤血球などの血球を作る骨髄に存在する。脳の毛細血管は脳全体に酸素を運ぶ微細な管のようなものなので、そこに巨核球を認めるというのは、通常ではあり得ない。たとえて言うなら、自宅の細い配管にフットボールが詰まっているのを見つけたようなものだ」と話す。
では、脳内の巨核球がCOVID-19患者にブレインフォグをもたらしているのだろうか? この点についてNauen氏は、「因果関係を証明するには至っていない」と強調している。その上で、「脳の毛細血管に巨核球を発見したのは第一歩だ。次は、なぜ脳に巨核球が存在しているのか、どのような伝達経路で巨核球が脳に送られたのかを明らかにする必要がある。また、巨核球の存在が脳卒中リスクを高めるのか否かなどの問題についても検討する必要がある」と話している。
なお、今回Nauen氏らが調べた患者の中に、脳卒中を発症した人はいなかった。しかし、「毛細血管の複雑なネットワークは綿密に調節されている。万一、遮断された場合、血圧が上昇して、脳卒中リスクを高める可能性はある」と同氏は指摘する。
一方、米ケンタッキー大学神経学部のLarry Goldstein氏は、「ブレインフォグは確立された疾患ではなく、それを定義する診断基準もない」と指摘。また、「ブレインフォグはCOVID-19だけでなく、さまざまな炎症性疾患や神経変性疾患、がん化学療法で使われる薬剤の使用などにも関連して生じる」と説明している。
Goldstein氏は、COVID-19患者のブレインフォグを巨核球の存在で説明できるかどうかについて、「その可能性はある」との見方を示している。しかし、「炎症や血液中の酸素の量の減少、脳卒中、血流の低下など、巨核球以外にもさまざまな要因が考えられる」とも話している。
▼外部リンク
・Assessing Brain Capillaries in Coronavirus Disease 2019
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