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悪女ファウステリアの最期 作者:黒井雛
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【28】

「ファウステリア…?…無事バジリスクを討伐出来たのか?」


「っお待ちください!!」


 バジリスクが討伐された気配に目隠しを外そうとするリュークを、ファウステリアは高い声で制する。


「恐らくは仕留めましたが、万が一生きていたらリューク様の御身が危険です!!私がバジリスクの生死を検分致します。今暫く、目隠しをしたままお待ちください!!」


 ファウステリアの言葉に、リュークは素直に目隠しの結び目に当てた手を降ろす。

 ファウステリアはその様を横目で確かめると、自身は目隠しをとって、焼け焦げ煙を上げているバジリスクへと近づいて行った。

 間近で見たバジリスクは、予想に違わず完全に事切れており、ファステリアが近づいても何の反応もない。

 見開かれたまま白く濁ったその眼は、先程のようにバジリスクの感情を映し出すこともなく、ただぽっかりと見開かれている。

 当然ながらその眼が死の呪いを発動させることはない。

 ファウステリアの視線は、バジリスクの口元へと移動する。

 開かれた口には、ちょうど大型ナイフか小剣くらいの大きさの、鋭利な牙が生えていた。

 ファウステリアが無詠唱のまま、その根元に向けてささやかな氷魔法を展開すると、急激に冷やされた牙周辺の炭化しつつある肉は、凍りついたまま途中で折れ、地に落ちた。

 ファウステリアはあらかじめ用意していた布で落ちた牙を包むと、皮の鎧の下に纏った衣服の、膨らんだ袖の部分へと仕舞い込んだ。今日の為に予め用意した服だ。

 鈍いリュークは、ファウステリアが戦場にそんな装飾性が高い衣服を纏って出向くことに、何の疑念も抱いていなかった。愚かだとしか評しようがない。

 対人の戦場ならば、その武を示すために、装飾性が優れた防具が求められることもあるかもしれないが、今回の討伐対象は魔物であり、また武勇を競う兵もいない。そんな状況でファウステリアが衣服に装飾性を求めることに、なぜ疑いを抱かないのか。


(…まぁ、この国に女の兵士はいないしな)


 戦場でも装飾性を求めるその行動を女心故だと勘違いしても不思議ではない。それにしても、あまりな洞察力ではないかと内心嘲笑せざるえないが。

 こんな単純な男が王で、よくもまぁここまで国が持ったものだ。



「――リューク様。もう、目隠しをとって下さって大丈夫です。バジリスクは、確かに絶命しております。」


 そんな内心を微塵も出さずに、ファウステリアがそう報告した途端、リュークの顔は喜悦で緩んだ。


「…そうか!!よく、やった!!よくぞ、バジリスクを討伐してくれたっ!!よく、無事でいてくれた!!」


「リューク様…」


 ファウステリアは袖の膨らみを気付かれないように気をつけながら、目隠しを外したリュークの傍に駆け寄る。


「貴方様が無事で、本当に良かった…!!」


 そしてそのまま、感極まったように、リュークの体を抱きしめた。




 もしかしたら、通常のリュークならばこの時点で、ファウステリアが宿す殺気に気が付いたかもしれない。


 しかし、リュークは、未知の怪物を打倒したことで高揚していた。


 そしてファウステリアは、リュークにとって最愛の人。


 未知の敵を打倒し、最愛の人と命の無事を確かめる歓びに、通常ならば研ぎ澄まされているリュークの勘は鈍った。


 ファウステリアはその心の緩みを見逃さない。


「…リューク様がバジリスクに殺されてしまったらと、本当はとても不安でした…良かった…リューク様が無事で、本当に良かった…また、こうしてリューク様と抱き合えることが出来て、本当に…本当に…」


「ファウステリア…」


 ファウステリアはリュークの胸に顔を埋めながら啜り泣く真似をすると、リュークはその演技に簡単に騙されて、切なげにファウステリアを抱きしめながら、その頭部に優しく口づけを落とす。

 ファウステリアはそんなリュークの背後で、袖に仕込んだバジリスクの牙を引き抜くと、リュークの首元目掛けて、勢いよく突き立てた。

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