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短編ギャグ 【お題:魔法少女】 魔法少女に定年はない

作者:唯乃なない

お題「魔法少女」でなんか書け!とムチャぶりされて書いた短編です。

アホなもん書いたな、と笑ってやってください。

「お久しぶり。半年ぶりかしら」

 ふわりと着地したプリティピンクが大人っぽい笑みで声をかけてきた。

「お久しぶりです!」

 私は最近魔法少女になったばかりのプリティホワイトだ。

 本名は本田美月みつき

 年は18歳、受験を控えた高校3年生だ。

「本田さん、この前は大丈夫だった?」

 プリティピンクこと、木下ゆみさんが心配そうに聞いてきた。

 この前携帯で交換したプロフィールで22歳のOLさんのようだ。

 OLで魔法少女ってどうなんだろうって思わなくもないが、当然言えない。

「大丈夫でした。念のため病院にも行ってみましたけど、特に異常なしっていわれました」

「よかった。今日は慎重に行きましょう」

 木下さんが優しそうな表情で言う。

 そう、実はこれが二回目の出撃だ。

 全開の記念すべき初出撃では、戦闘開始とともに敵の衝撃波に飲まれて気を失ってしまった。

 そんなわけで、他のメンバーともほとんど交流ができていない。

 どうやら、現実の魔法少女たちはテレビでやっているものみたいに「皆が同じクラスの生徒」というわけではないらしい。

 ラプーがあちらこちらの魔法少女の素質がある女の子とコンタクトして、契約が成立すると魔法少女になれるらしい。

 ラプーというのは、猫耳がついた風船に招き猫の顔を書き込んで申し訳程度に手足を生やしたような形状の生き物で、常に空中をふわふわと浮いている私達のマスコットキャラクターだ。

 いまも、木下さんのうしろでふわふわと空中を漂っている。

 そのラプーをながめていると、ラプーの後ろから黄色い光の塊が飛んできて私と木下さんの間に降り立った。

「寒い……底冷えがする。なんなのこの衣装。どう考えても30代が着る衣装じゃないわよ!」

 黄色の大きなリボンがついたウェディングドレスを思い起こさせるバトルコスチュームに身を包んだおばさ……プリティイエローが腕をさすりながら声を上げた。

 え、この人も魔法少女?

 ……少女?

「あ、山田さん」

 木下さんが山田さんに声をかけた。

 後から聞いたところによると、プリティイエローの本名は山田美香さんで年齢は37歳ということだ。

 バトルコスチュームは体型に合わせて伸び縮みするらしいのだが、デザインは最初に決めたままだそうだ。

 きっと魔法少女になったころは似合っていたのだろうがその年でその衣装は……い、言えない。

 その上、ウェディング衣装を基調としたバトルコスチュームなのに今だ独身らしい。

 うっかり聞いてしまった木下さんもかなり反応に困ったそうだ。

「もうほんと、いやになっちゃうわよねぇ。どうしてこんな寒い時にまで魔王が現れるのかしら」

 山田さんがおばさ……大人の女性らしい仕草で文句を言った。

 その山田さんから灰色の光が……薄暗くて弱々しい光の塊が飛んできた。

「プリティグレー到着しました!」

 弱々しい光とは対照的に、プリティグレーは明るい声を上げた。

 本名、小林ゆい。年齢は私より下の17歳だが、実戦経験は私よりもずっと豊富なようだ。

 小林さんはメンバーとの挨拶をして、私に話しかけてきた。

「本田さん、この前大丈夫でしたか?」

「は、はい、病院でも問題ないって……」

「ならいいですけど……本田さん、ずるいです!」

 藪から棒にいきなり非難を浴びた。

「は、はい?」

「なんで私の方が先輩なのに本田さんの方がいい色なんですか!? 私なんてグレーですよ、グレー! それも淡い色ならまだしも、まるっきりねずみ色ですよこの衣装!」

 プリティグレーの衣装はフリルがついたとてもかわいい造形の衣装だ。

 だが、全てが灰色という酷い配色が全てを台無しにしている。

「そう言われても……私が色を決めたわけじゃないんです」

「私も一緒です! あのまんまるお化け猫が決めたんです! いい色が余ってないんだと思って無理やり納得してましたけど、ちゃんといい色があるじゃないですか! なんで私がグレーで新人の本田さんがホワイトなんですか!?」

「そ、そういわれても……」

 唯一年齢が近いメンバーなのに、初対面の印象はかなり悪いようだ。

 困った……。

 今度は右斜め上から青色の光が飛んでた。

「遅くなったわ」

 青い光を帯びた整った顔立ちの女性はプリティブルーの鈴木さん。

 下の名前はわからないが、年齢は二十代後半ぐらいだろう。

 バトルコスチュームの上に裾の長いシックなコートを着て、なにか袋を持っている。

「あの、鈴木さん、それじゃ衣装が見えないんじゃ……」

「大丈夫。私が発見したところによると、ピュアハートレインボーは皮膚から数センチ浮いたところで発生するからこの程度の服なら来ていても問題ないわ」

 表情を変えずにクールに言い放つ鈴木さん。

 他のメンバーのふわふわした衣装と違って大人っぽいコートを着ていることもあり、正直に言って見惚れてしまうぐらいに格好いい。

 前回一瞬見ただけでも脳裏にしっかり焼き付いてしまったくらいに。

 しかし私は知っている。

 三月前、ハローワークの前を落ち込んだ顔で歩いていた鈴木さんを。

 二月前、商店街の薬局で「これ割引品じゃないの!?」と大声で店員に怒鳴っていた鈴木さんを。

 一月前、スーパーで店員が半額シールを貼りに来るのを待ちながら足踏みしていた鈴木さんを。

 一週間前、辺りを見回して誰も見ていないのを確認してから自動販売機の下を覗きこんでいた鈴木さんを。

 格好良くて顔立ちが整ってるだけに町中で目についてしまうのだ。

 見たくなかった。そんな鈴木さんの生活。

 鈴木さんが持っている袋はよく見ればお買い物袋だった。

 袋からはみ出た食品パックに貼られている「特価98円」という値札が、戦闘前の緊張感を台無しにしている。

 でも、安心しました。まだ、ご飯は食べられる経済状態なんですね。

「とりあえず出席を取るわね。レッドとオレンジとブラックと……あとグリーンもいないのね。グリーンは7回連続で欠席じゃないの」

 そんな生活苦の鈴木さんがクールに点呼を取る。

 え、点呼取るの?

 それに出席率悪くない?

「しかたないですよ。もうあの人60歳を超えてるんですから」

 さらっととんでもない発言が木下さんから飛んだ。

 魔法少女ってなんなんだろう。

 風船猫に騙された。


 改めてはじめましての挨拶をしていると、突如空が暗くなった。

<<ハッハッハッ、今日こそ我が力に屈するがいい、プリティ戦士たちよ!>>

 暗黒魔王「ギガダークサタン」が禍々しい闇をバックにして空中に出現したのだ。

 人間ではないらしいが、一見したところ凶悪な顔を付きをした初老の男性に見える。

 「プリティ戦士たちよ」って真顔で言ってるけど、恥ずかしくないんだろうか。

 とても聞いてみたい。

「本田さん、あなたは不慣れだから一番後ろに下がって! 山田さんと木下さんが前衛で後衛に私と小林さんがつくわ! 前衛二人は攻撃の隙間を縫って直接攻撃を仕掛けて、後衛は遠距離攻撃で支援するわ!」

 鈴木さんが指揮を取って、プリティ戦士たちが魔王に近づいていく。

 何度も衝撃波や熱線のようなものが飛んでくるが、皆華麗に避けて行く。

 私に当たりそうになったものは鈴木さんが防いでくれた。

 魔王に近づいていくと、魔王の周囲の禍々しい闇が毒々しく揺らぎ始めた。

「な、なんなのあれ……」

 と、驚愕を表現しようとした瞬間、

「あんたのせいで、行き遅れたのよーーーーーーーーーーー!!」

 という山田さんの絶叫で私のセリフはかき消された。

「……え?」

「山田さん、今日は超絶とばしてますね……」

 私のすぐ前を飛んでいた小林さんがポツリと呟いた。

「ど、どういうことですか……?」

「今日は特別に飛ばしてるようですけど、いつものことなんです。鈴木さんが作戦を立てて、最初は全員その通りに行動するんです。でもそのうちイライラしてきた山田さんが切れちゃって自分勝手な行動をするんです。あんなふうに」

 見ると、山田さんがブーメラン状の武器を手に、三十代と思えない見事な動きで魔王を切り刻んでいく。

「山田さんだけでいいんじゃ……」

「新人のあなたでもやっぱりそう思うんですね。実は私もそう思ってたんです」

 そうこうしている間にも、魔王は山田さんに完全に翻弄されてローブのような衣類もズタボロに切り裂かれている。

 山田さんは……笑ってる!? 楽しんでる!?

「あの、山田さんが悪役に見えますけど」

「それもいつものことです。前回は本田さんは途中で気絶してましたもんね」

<<ぐ……さすがプリティ戦士の力! だが、これで終わりはしない! この世に人間の醜い感情があるかぎり、我は再び復活する……!!>>

 よそ見をしているうちに魔王が捨て台詞を言い始めていた。

「ちょっと待った! 次はいつごろ出てくるのか言ってから消えなさい! 合コンの予定が組めないじゃないの!」

 姿が薄くなりかけた魔王の首筋にブーメラン型武器をつきつけられながら、山田さんが問い詰めた。

<<ぐが……合コン……?>>

 魔王が苦しげな声でうめいた。

「さぁ、言ってから消えなさい! 言うまで死ぬことを許さない!」

 山田さんのブーメランが魔王の首にブーメランをぐっと押し付ける。

<<さ、再来月の中頃……>>

「それじゃわからないじゃない! 再来月……12月の何日!?」

<<中頃……>>

「まどろっこしぃ!」

 山田さんは空いた手でポシェットから手帳のようなものを取り出すと

「12月17日、土曜日の昼から午後7時までの間にしなさい! 仕事がある平日とか合コンがある18日に出てきたら、今度こそまじでぶっ殺す!!」

 とドスの利いた声を出した。

<<そのような保証は……できな……>>

「とどめを刺される前に指の骨から肋骨まで全部折られたいのね」

<<ぐが……努力する……>>

「交渉成立!」

 山田さんの右腕が素早く動き、魔王の首が掻き落とされた。

 魔王の本体と頭は同時に落下し始めたが、地面に到達する前に塵に返った。


「いいストレス解消になったわー。じゃ、12月の17日に集合ね」

 山田さんは意気揚々と帰っていった。

 後に残されたメンバーは倦怠感たっぷりの表情を浮かべ、一人二人と帰っていった。

 魔法少女なんて、なるんじゃなかった。



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