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(百久利)ほな 捨てられたんは天海のおやじさんと一平の方やったっちゅうことですか!?(千之助)ああ。
そやのに おやじさんは自分が追い出した言うてたんか…。
ええかっこしいやな。(漆原)あほ。
一平のこと思て そない言うたんや。
お母ちゃん大好きやった一平のこと思て自分が悪役買うて出はったんや。
(徳利)ほな もし お母ちゃんに会うたら一平は ほんまのこと知ってまうやないですか。
(夕)はよ出てってんか!
何すんねん!
(千代)何で…ほんまのお母ちゃんのくせに…お母ちゃんのくせに!
あんたには関係ないこっちゃ!何でや!
(一平)ハハハハハ! ハハハハハ!
ハハハハハハ!
ハハハハハハ!
(天晴)千さん 分かってて行かしたんやな。そのこと知ってる人ほかにも いてはりますのか?
1人だけな…。
(かめ)お家さん?何してはりますの?
(ハナ)もうじき あの2人戻ってくる頃やろ。
きっと疲れ果てて帰ってきます。
何か精のつくもん食べさしたろ思てな。
(かめ)せやったら わてがやりますさかい。
わてに やらしたって。
こんなことしか してあげられへん。
♪「オレンジのクレヨンで描いた太陽だけじゃ」
♪「まだ何か足りない気がした」
♪「これは夢じゃない(夢みたい)」
♪「傷つけば痛い(嘘じゃない)」
♪「どんな今日も愛したいのにな」
♪「笑顔をあきらめたくないよ」
♪「転んでも ただでは起きない」
♪「そう 強くなれる」
♪「かさぶたが消えたなら」
♪「聞いてくれるといいな」
♪「泣き笑いのエピソードを」
♪~
ほなな。
・ちょっこと寄っていけへん?・今日は もう しんどい。
・そやな。
堪忍な。
うちが お母ちゃんに会いに行こやなんて言うてしもたばっかりに。
俺の方こそ 悪かったな。
痛かったやろ。
あんたよりはマシや。
襲名 受けることにするわ。
おやじのこと さんざんボロクソ言うてしもてたさかいな。
・罪滅ぼしや。
ほな してやったりやわ。
まんまとな。
♪~
そして その翌日一平君が 2代目 天海天海を襲名することが発表されました。
(シズ)へえ 岡安でございます。つないどくれやす。
(宗助)お~ ここや ここ。 載ってるで。
へえ 岡安でございます。
襲名のお席だすな。
へえ もちろん ご用意さしてもらいます。
(節子)早速 予約の電話や。すごいなあ。
(玉)旦さん 後で読んどくれやす。何で後でやねん。
旦さん…。何で わし 後やねん。
まだ読んでへんねん。
(徳利)鶴亀家庭劇 座長 天海一平いよいよ この度の公演におきまして父 天海天海の名を襲名することと相成りました~!
(拍手と太鼓の音)
おおきに おおきに。 さあさあ 皆さん…。
その日から 一平君は時間の許す限りごひいき筋の方々へ挨拶回りをすることになりました。
(鶴蔵)ああ 来た来た。 彼が2代目です。
初めまして 天海一平です。
(市倉)君のお父上はほんまに ええ役者やった。
あんたも その名に恥じぬようしっかり精進しますのやで。
はい。 私ともども劇団の者たちのこともどうか ごひいきのほどよろしゅうお頼申します。
よう ここまで 頑張りなはったな 2代目。
私一人の力やあれしまへん。
劇団のみんなの支えあってのことです。
精いっぱい応援さしてもらいますよってにな。
あっ 千代。
いよいよ襲名興行の初日を明日に控えみんなの稽古にも力が入ります。
入り過ぎて…。
(小山田)おい もっぺん言うてみい 小僧。誰が手ぇ抜いてるいうんじゃ。 おう!
俺らにとったらずっと夢みてきた悲願なんや!
分かってるわ!もっと ちゃんとやってくれ!
(百久利)落ち着き 落ち着き。(ルリ子)私らがいつ どうでもいいって言った?(香里)気合いが空回りして足引っ張ってんのはあんたの方ちゃうの。(小山田)そうや 言うとおりや。
(言い争う声)
そこまでや!
今度の襲名 成功させるにはみんなで力合わせなあかん。
ちょっとのことで もめんのはもうやめようや。 このとおりや。
(小山田)いや 座長…。
(徳利)あの 俺が悪かったわ。 堪忍。
(小山田)いやいや わしもな大人気なかった。 申し訳ない。
ほな もっぺん 頭から。(小山田)おう!
一平 今晩 お家さんが岡安で ごはんでも どないて。
明日 初日やで。 今日は やめとくわ。
うちも途中まで一緒に帰るわ。
お母ちゃんのことがあってどないなるかて思てたけどかえって しっかりしたなあ 一平のやつ。
あれやったら 明日の襲名も大丈夫そうやな。ああ ほんまですね。
ほな お先。 千代ちゃん お疲れ。お疲れさんだす。
(ハナ)ほうか…。
フフ…やっぱし わては 袖にされてしもたか。
一平のやつ 何や けったいで…。
ちょっと 昔話 してもええか。
初代 天海はんのことや。
(マッチを擦る音)
♪~
(天海)一平 飯食わな死ぬど。
お母ちゃんに会いたい。
(天海)俺かて 会いたいわ。
お邪魔しまっせ。ああ お家さん。
あんたら どうせな~んにも食べてへんのやろ。
おいなりさん 作って持ってきたで。えらい すまんなて…飯なんか食うてられるか!
お父ちゃん!(天海)何やねん。
ああ? 先前から お前ここにおるやない…。
何してんねん。
(一斗缶に台本を投げ入れる音)
そないなことが…。
千代 あんたしかおれへん。
♪~
何してんねんな!
あんた 役者辞めるつもりなんやな。
ごひいきさんに挨拶回りしてる時もあんた 自分のことやのうて一座のことばっかり頼んでたな。
自分が辞めたあともうちらがやってけるように根回ししてたんやろ。
考え過ぎや。
いつまでそない嘘くさい顔で笑てんねん。
あんた 言うたやんか。
たとえ つらいことがあってもまた顔上げて生きていこて思えるような芝居を作るんやて。
10年後も 50年後も忘れられへんような新しい喜劇を作るんやて。
うちらを その気にさしといて自分だけ「一抜けた」なんて許されへん。
あんた以外誰が家庭劇まとめられんねんな。
かなわんなあ 千代には。
堪忍。
もう あかんねん。
俺は ずっと おやじのこと憎み続けてきたんや。
何が芸の肥やしやて。
お母ちゃんのこと捨てといてどんだけ ええ役者になっても絶対に俺は認めへんて…何べんも罵ったわ。
せやのに俺のために嘘ついてたんやって…。
今更 そないなこと言われてどないしたらええっちゅうねん…。
せやから 俺は 天海天海の名前を永久に葬り去ってやんねん。
派手に幕引きしたんねん。
襲名公演が 2代目 天海天海の最初で最後の芝居っちゅうのも面白いがな。
いっこも 面白ない。
お家さんがな昔のこと 話 してくれはった。
天海さんもな あんたのお母ちゃんに出ていかれたあと何もかんも嫌になって役者辞めようとしはったんやて。
あの おやじが?
きっと それだけお母ちゃんのこと好きやったんやと思う。
けど…天海さんは 役者を辞めはれへんかった。
何でか分かるか?