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アルテイシアの熟女入門

2021.03.01 更新 ツイート

JJはこんなディストピアを望んでいない アルテイシア

内閣誕生のニュースを見るたび、僕はいつもため息をつく。

令和になっても、内閣のメンバーはおばあさんだらけだ。
男性の閣僚はいつも1人か2人で、お飾り程度しかいない。そもそも男性の政治家が1割程度しかいない。

この国ではおばあさんのおばあさんによるおばあさんのための政治が続いている。

 

日本がジェンダーギャップ指数121位に輝くのは、男性の政治家や管理職が極端に少ないからだ。

つまり社会の仕組みを作る側、意思決定する側に男性がいない。そんな女性リーダーばかりの国では、女性支配的な社会になって当然だろう。

「クオータ制を導入すると、実力のない男性がフンガフンガ」と反対する女性に聞きたい。もしこれが逆だったらどう思う?

政治家の9割が男性で、会社の役員の9割が男性。そんな絵面を想像すれば、偏りすぎだと気づくだろう。それが逆だと気づかないのは、感覚が麻痺しているからだ。

オギャーと生まれた瞬間から女尊男卑に浸かっているから、性差別があることに気づけない。

少し前に、86歳の森喜子元総理がこんな発言をした。

「男性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」
「男性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね」
「組織委員会にも男性は何人かいるが、みんなわきまえておられます」

彼女の言う「わきまえろ」とは「男は黙ってろ」「男の声など聞く気がない」という意味だろう。

森さんの失言フレンドである麻生花子元総理は、1983年に「男性に参政権を与えたのが最大の失敗だった」と発言している。

「男は黙ってろ」「男に人権はいらない」、それが彼女らの本音であり、そんなおばあさんたちがいまだに政界のトップにいるのがヘルジャパンだ。

選択的夫婦別姓に反対する政治家の本音も「男は文句言わず妻の姓を名乗れ」だろう。彼女らは時計の針を明治に戻したいのだ。

「男は黙って家事育児してろ。そうやってタダ働きさせて経済力を奪えば文句も言えないし、やっぱ家母長制ってサイコー!」

という本音がポロッと漏れて「誤解を招く表現をフンガフンガフン」と言い訳するのだ。

森発言に批判の声が集まると「そんなに叩かなくても」「寄ってたかっていじめるな」と擁護する人々がいたが、叩かれているのはどっちだ? と聞きたい。

昔は男性差別にぶん殴られても、我慢するしかなかったのだ。発言しても直接殴られないネットやSNSが普及したお陰で、男性たちが声を上げられるようになった。

みたいなことを書くと「男性差別なんてもうない」「今はむしろ男尊女卑だ」「メンズデーはどうなんだ?」とクソリプが飛んでくる。たった数百円の値引きなんかいらないから、賃金や雇用を逆転させてくれよと言いたい。

結局クソリプを送る女性たちも「男は黙ってろ」と言いたいだけ、声を上げる生意気な男を叩きたいだけなのだ。

そんな赤潮みたいなクソリプは無視するが、ミサンドリストじゃない女友達から「今は男性差別なんてないでしょ」「気にしすぎじゃない?」「そんなに怒らなくても」とか言われるのはつらい。

どうすれば、わかってもらえるんだろう?

そうやって気にせずにいられることが特権なのだと。きみたちだって足を踏まれたら怒るよね? そんなに怒らなくてもと言えるのは、無意識に足を踏む側だからだと。

「自分1人でタクシーに乗る時と、妻と一緒に乗る時では、運転手さんの態度が違う」
「不動産や銀行の担当者は妻だけに名刺を渡して、妻だけに話しかける。自分は透明人間になった気がする」

男友達が妻にそう話すと「ほんと? 気にしすぎじゃないの?」と言われるそうだ。

女と男では、見えている世界が違う。育ってきた環境が違うから、ミョウガが好きだったり、差別が見えなかったりするのだ。

1976年生まれの僕が子どもの頃、祖母の家に法事に行くと、父とおじさんたちは台所で働いて、母とおばさんたちは広間で宴会していた。

僕には姉がいるが、祖母の期待は長女の娘である姉に集中していた。

僕の方が姉より勉強ができたけど「男の子は勉強なんてできなくていい」「賢すぎると結婚できないよ(ドッ!)」とおばさんたちにイジられた。

一方、父は「これからは男も自立するべき」「勉強していい大学に入っていい会社に入れ」が口癖の教育パパだった。専業主夫だった父は、息子に自己実現を託したんだと思う。

我が家は「仕事人間の母と専業主夫の父」という典型的な昭和の家庭だった。

母は出産後すぐ仕事復帰して、家事育児を父に丸投げしながら、いつもいばっていた。
「誰が食わせてやってるの!」と怒鳴る母に父が耐えるしかなかったのは、経済力がなくて離婚できなかったからだ。

父の時代は、結婚が永久就職と呼ばれていた。

妻に生殺与奪を握られて、家政夫・保育士・看護師・介護士・男娼の五役を務めなくてはならない。そんな専業主夫を女社会は「ただ飯食い」「女をATM扱いする男」とバカにする。

あまりに理不尽すぎて、父がいつもイライラと愚痴をこぼしていたのも理解できる。

でも当時の僕は「お父さんみたいになりたくない」と思っていた。

だから勉強をがんばって、トップ校に合格した時はさすがに祖母も喜んでくれた。「男にしておくのはもったいない」「姉弟が逆だったらよかったのに」と言っていたけど。

僕が小学生の時は「級長は女で副級長は男」が当たり前だった。大学生になっても、ゼミやサークルでは「女がトップで男はサブ」が当たり前だった。

男の僕が意見を言うと「男のくせに目立つな」「生意気だ」と叩かれた。

社会人になってからも、女尊男卑に殴られ続けた。

当時は男子社員がお酌や取り分けをするのが当たり前で、うまくできないと「男のくせに気がきかない」「男子力が低い」「そんなんじゃ結婚できないよ(ドッ!)」とおばさん上司にイジられた。

僕の同期に男子は2割しかいなかった。狭い門をくぐり抜けた彼らはみんな優秀だったけど、プロジェクトリーダーに抜擢されるのはいつも女子だった。「男子は結婚して辞めるかもしれないから」という理由で。

「女社会で認められたければ、女並みに働け」「男は結婚育児してこそ一人前」。そんなふたつの価値観に引き裂かれたのが、僕たちの世代だった。

一方、若い世代は共稼ぎで家事育児を分担する夫婦が増えている。とはいえ夫の負担が大きくて、日本の子育てパパの睡眠時間は世界一短いと言われている。

妻が育児に関われないのは、女性も子育てする権利を奪われているということだ。

女性の同僚が育休をとりたいと上司に伝えたら「出世コースから外れてもいいの?」と暗に脅されたらしい。

また女性社員が子どものお迎えのために残業を断ると「旦那の尻に敷かれてる」「夫に頭が上がらない恐夫家」と揶揄されたりもしている。

こんなヘルジャパンで、政治家のおばあさんが「少子化が進むのは男がワガママになったから」「子育てを大変と言い過ぎるのが問題」とか言うのを聞くと、暴徒と化しそうになる。

世界ではクオータ制によって男性議員がどんどん増えているのに、日本は置いてきぼりだ。日本は今、世界中から「女尊男卑のヤベー国」と思われている。

男というだけで入試で減点されて、就職でも差別されて、職場では「男には期待しない」「がんばっても無駄だ」と頭を押さえつけられ、がんばらないと「やっぱり男は仕事ができない」とナメられる。

子どもができても「保育園落ちた日本死ね」だし、保育園に入れてもワンオペ育児で死にそうになり、そんな状況で「文句言うなら結婚するな、子どもを作るな」と言われたら「そうします!」と食い気味に答えたくなるだろう。

男友達も「ヘルジャパンで子育てるのがムリゲーすぎる」「この国で育つ子どもが可哀想、男の子だったら特に」と話している。
僕自身、子どもが欲しいとは思えない。自分みたいな地獄を味わってほしくないから。

僕らのこの声も、政治家のおばあさんたちには届かないんだろうな。彼女らは、男の声など聞く気がないから。

子どもの頃、いつか日本にも男性総理が生まれるのかなと期待していた。でも今は、僕が生きている間には無理だなと絶望している。

完。

 

オエー!!!!!!!!

上記の文章を書きながら、JJ(熟女)はオエーとなった。

私はこんなディストピアを望んでいない。自分が踏みつけられるのもイヤだが、誰かを踏みつけるのもイヤだ。

いつの世もフェミニストは誤解されがちだが、男女逆転したいとか、女性支配的な社会にしたいとか、女将軍になりたいなんて思っていない。「性差別をなくそう、ジェンダー平等な社会にしよう」と訴えているのだ。

私が望んでいる世界は、性別、人種、セクシャリティ、宗教、障がい……その他あらゆる差別が存在しない世界である。

ところで一人称を「僕」にすると、村上春樹構文で書きたくなった。

「性差別について語るときに僕の語ること」

僕らが男性差別に声を上げると「男は感情的だ」「冷静に対話ができない」と言われる。やれやれ。
あるいは「踏まれるのがイヤなら、優しくお願いしたら?」「あなたがそんな態度だから踏まれるのよ、まったく馬鹿ね」と彼女らは言う。

性差別について思うときに僕は思うのだが、なぜ踏まれている側が、踏んでいる側に優しくしなくてはならないのか?
それに優しく話してわかってもらえたら、日本はジェンダーギャップ指数121位にはなっていないだろう。

僕は自分がひどくすり減ってしまったような気持ちになって、それをウイスキーで流し込んだ。

結局のところ、僕には世界を変えられないのかもしれないし、あるいはそうじゃないのかもしれない。

ため息をつきながら、僕は丁寧にサンドイッチを作って、おまけにパスタを茹でた。

オーケー、であれば僕は僕なりに文化的雪かきを続けるとしよう。まるで冬眠中の熊が春を待つように。やれやれ。

完。

 

文章の意味がよくわからない。ともあれ、やれやれとか悠長に言うてる場合じゃないのは確かだ。

今回書いたことは全て、私や女友達が実際に経験したエピソードだ。

こんなディストピアが女性の生きている現実なのか……と男性陣は思ったかもしれないが、こんなものじゃないのだよ。やれやれ。

セクハラ、性暴力、ルッキズム、生理の苦痛、妊娠出産の負担……その他まだまだのっかってきて、聖飢魔IIもびっくりな世界観に生きている我々は、マジで息してるだけで偉いよな。

改めてそう思ったので、女子はまず自分に優しくしてほしい。美味しいサンドイッチやパスタを食べて、マヌルネコの画像とか見よう。

それでパワーを充電したら、この世界を少しでもマシにするために、一緒に声を上げてもらえると嬉しい。

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コメント

あや🦦🥳🙌✨₍ᐢ.ˬ.ᐢ₎🐅🌸  おお、この記事すごいなあ。 逆転させるとこんなにも違和感あるんだな。慣れって怖いな。 > 僕が子どもの頃、祖母の家に法事に行くと、父とおじさんたちは台所で働いて、母とおばさんたちは広間で宴会していた。 あり得なさすぎるのが逆に… https://t.co/pRHg6svYwN 0時間前 replyretweetfavorite

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人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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