米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士
1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。
極めて特異な経過をたどった運動は不可解なことだらけ
次に現在問題になっている「不正署名」、よりはっきり言うならば、他人が承諾なく書き写した「偽造署名」についてですが、これはもう「言語道断」以外の何物でもありません。
地方自治法第76 条に定めるリコール(解職請求)制度は、国民の自由選挙で選ばれた代表を、国民の意志で解職するという民主主義の根幹にかかわる制度です。今回の愛知県知事リコール運動では、不正署名(偽造署名)の有無にかかわらず、リコールは成立しませんでしたが、だからと言って不正署名(偽造署名)の提出を許せば、「民意の偽造」が幾らでもできてしまいます。そうやって偽造された民意が、何回か重なって増幅されれば、やがてそれが、実際の選挙の結果や解職運動の結果を左右する事態もありうるでしょう。
そのような事態を防ぐために地方自治法は、
地方自治法
第74条の4
2項
条例の制定若しくは改廃の請求者の署名を偽造し若しくはその数を増減した者又は署名簿その他の条例の制定若しくは改廃の請求に必要な関係書類を抑留、毀壊若しくは奪取した者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
第81条
1項
選挙権を有する者は、…以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
2項
…第七十四条の二から第七十四条の四までの規定は前項の規定による請求者の署名について、第七十六条第二項及び第三項の規定は前項の請求について準用する。
と、決して軽くない刑事罰を定めています。
従ってこの「不正署名」は、是が非でも厳正に調査され、上記罰則に該当するものは罰せられなければいけないものだといえます。
問題は、「誰がこの不正署名を行った犯人か(誰が指示したのか。誰に責任があるのか)」なのですが、それは既に開始されている捜査の中で解明されるべきことですので、現時点でこれを論じることは自重させていただきたいと思います。
ただ、誰が犯人かという問題は捜査に委ねるとしても、今般の愛知県知事リコール運動についての報道や、高須氏やボランティアとして参加した人たちのツイートを振り返ると、この運動には以下のような極めて特異な特徴・経過があることが分かります。
①集めた署名は、おそらくその場でチェック・集計されることはなく「手付かずで保管」に回された(参照)。
②保管に回された署名は、途中でチェック・集計されることなく保管場所を秘匿されたまま保管され続け、提出直前に集計された(参照、参照、参照)。
③提出時まで書式のチェックがなされることはなく、選管に出して初めて書式の不備が指摘された(参照)。
④このためボランティアが書式の不備を手書きで補正する為に集められた(参照)。この時多くのボランティアは、初めて署名に触れ、その中の数名が偽造署名に気が付き、マスコミに告発する事態となった(参照)。
⑤ところがこれを受けて高須氏、リコールの会事務局は、マスコミに告発したボランティアを刑事告訴した(参照、参照)。
⑥さらに高須氏は、未だ全県の13%程度の有権者がいる自治体で期間が終わっていなかったにもかかわらずリコール運動の終了を宣言し(参照)、署名簿が返還された場合は溶解処分すると打ち出した(参照)
これらの特徴は、それ自体、高須氏を代表とするリコールの会が、そもそも最初からリコールを成立させる気がなかったか、そうでないならそうしなければならない理由があったからだとしか思えないものですので、以下、それぞれについて論じます。
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