米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士
1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。
極めて特異な経過をたどった運動は不可解なことだらけ
2019年8月1日から開催された愛知トリエンナーレ「表現の不自由展」において、昭和天皇陛下のコラージュ写真が燃やされる映像が展示されたことを契機に、美容外科医で、「保守的」な政治活動で知られる高須克弥氏と、名古屋市長の河村たかし氏が主導して2020年8月25日から行われた大村秀章愛知県知事のリコール(解職請求)運動は(参照)、10月25日に大半の地域で運動期間が終了し署名簿が提出された後、11月6日に愛知県選挙管理委員から43万5231筆を受け取ったと発表されたものの(参照)、翌11月7日には全県の13%程度の有権者がいる自治体ではまだ運動期間が続いていたにもかかわらず、高須氏が突如中止を宣言。12月4日にはボランティアの参加者から多数の不正署名があったとの告発がなされ(参照)、これを受けて署名の調査を行っていた愛知県選挙管理委員会が、2月1日、全署名の83.2%、36万2187筆の署名に不正が疑われるとの調査結果を発表し(参照)、2月15日には被疑者不詳のまま愛知県警に告発状が提出され(参照)、2月24日には容疑者不詳のまま強制捜査がなされる(参照)という極めて異例な事態となっています。
この間、報道機関から佐賀県においてアルバイトを使って名簿の書き写し作業が行われて1000万円超の給与が支払われたことや(参照)、大会を主導した「お辞め下さい大村秀章愛知県知事 愛知100万人リコールの会」事務局幹部の発注書を警察が押収したことの報道もなされるなか(参照、参照)、自ら「最高責任者」を自認していた(参照)高須克弥氏、大会を主導した「お辞め下さい大村秀章愛知県知事 愛知100万人リコールの会(以下「リコールの会」と言います)」事務局長田中孝博氏(元日本維新の会愛知県第5選挙区支部長=現在は辞任=)が田中智之弁護士と共に記者会見をし(参照)、それぞれ自らの関与を否定したものの具体的な説明はほぼなく(参照)、混沌とした事態となっています。
これは日本の民主主義を揺るがす大事件だと思いますので、この特異で不可解なリコール署名問題について論じたいと思います。
まず確認しておきたいのは、このリコールで集まった真正な署名は、7万3044筆に過ぎなかったということです。“不正騒動”に目を奪われて、当初報道された「43万筆の署名」という印象になってしまっていますが、愛知県選挙管理委員会の調査結果に従えば、不正な83.2%を差し引いた有効な署名は、7万3044筆です。愛知県の令和2年9月1日現在の有権者数は613万2684人ですからこれは、有権者数の1.2%に過ぎません。
これがリコール成立に必要な有権者の14.1 %、86万6586人にまったく届かなかったのはもちろんですが、「日本と日本人への侮辱」が理由(参照)であるとされたリコール運動に対し、積極的に賛同した人は1.2%に過ぎなかったという事実は、再度確認されるべきだと思います。
私事になってしまいますが、私は有権者数30万人ほどの新潟5区で選挙活動を行ってきたなかで、自身で名簿集めをしています。最も名簿が集まったのは、自民党公認候補で選挙活動を行った2009年ですが、この時は3万人、有権者の10%の名簿が集まりました。
一定の賛同が得られる運動で組織的に名簿集めを行えば、この程度の数を集めることは可能です。逆に言うと、今般のリコールの会の運動は、大々的に喧伝(けんでん)された割に、広い賛同を得たものでも、組織的なものでもなかったのです。
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