毎週日曜日深夜0時10分よりNHK総合で4月28日から放送スタートするTVアニメ『進撃の巨人 Season3』Part.2(関西地方は毎週日曜日深夜0時45分から)。雑誌「アニメディア2018年12月号」では、Part.1制作後のタイミング(2018年10月中旬)に取材した荒木哲郎総監督と肥塚正史監督へのインタビューを掲載。Part.1 の振り返りや、Part.2への意気込みなどを語ってくれた。「超!アニメディア」ではPart.2放送開始前のおさらいとして、誌面では掲載しきれなかった部分も含めたインタビューロング版を掲載する。
前半の最大の山場はオルブド区攻防戦でした
──『Season3』のPart.1の放送が終了しました。2019年4月に放送がスタートするPart.2までブランクがありますが……、おふたりをはじめとする制作陣は、現在どのような状況なのでしょうか。
荒木 何かが片づいた感じはしてる?
肥塚 いや、片づいた感じも、「終わった」という感覚もまったくありませんね。ただ、毎日のようにこなしていたラッシュチェック(撮影されたムービーデータのチェック)が今はないので、バタバタとした感じは減っているかもしれません。
荒木 あと、机の上でする作業がようやくできるようになったかな。オンエアーしている時期は、どこかの現場から呼ばれてはそこに立ち会うというようなことが多くて、机についてする仕事がまったくできなかったので。
肥塚 ようやく腰を据えてデスクワークができるようになりましたね。そういう意味では少しホッとはしています。忙しさはあまり変わっていませんけど(笑)。でも、現場的には少し落ち着いていますよね。
荒木 そうそう。アニメーターのみなさんは、ちょっと一区切りという感じでしょう。
肥塚 その間に我々はいろいろと準備をしないと。
荒木 僕たちふたりに関しては、現在はオンエアー中とは違った忙しさを味わっているところです。
肥塚 そして、編集・音響の作業が始まると、またいつものバタバタした日常が戻ってきて……。
荒木 そう。つまり、2月くらいからまた本格的な作業が始まるという感じでしょう。
──Part.1は日曜日深夜0時35分からの放送(近畿地方は日曜深夜1時15分からの放送)だったということで、その日のNHKの最後を締める番組だったということが話題になっていました。
荒木 『進撃の巨人』が終わると、『みんなのうた』をはさんで「君が代」(その日のすべての番組が終わり、電波の送信を一時休止する前に流れる映像)が流れていたっていう。僕はその様子を見ていて「みんな、こんなに早く寝るんだな~」と思っていました(笑)。
肥塚 じつは僕は、結局リアルタイムでは一度も観られなかったんです。録画しておいて朝に観るという感じで。
荒木 僕は、子どもを寝かしつけて、こっそりと起きだして、リアルタイムで観て、また同じ寝床に戻るというのを何回かできました(笑)。でも途中からラッシュチェックが日曜日になったから、日曜に家で過ごせるほうが珍しくなってしまって、Part.1の終盤にはリアルタイム試聴は不可能になってしまいましたね。
──なるほど。さて『Season3』のスタート前に、おふたりがおっしゃっていたとおり、Part.1の対人戦のシーンは本当にすごかったですね。
荒木 ありがとうございます! リヴァイの立体起動シーンをコンテから作ったアクション作画監督の今井有文くんが、ファンの方の間でもヒーローになっていました。「変態的作画」という言われ方をされていたりして(笑)。もちろん褒め言葉としてなんだけど。
肥塚 その「変態的」という言い方は現場でもネタにしていました(笑)。
荒木 「また変態的作画が炸裂してるね」とか「やっちゃいますか、変態的作画を」とか言ったりしてね(笑)。
肥塚 それにしても、今回は今までにないくらいスタッフの仕事に対する反響が大きくて、僕らとしてもうれしかったですね。しかも視聴者の方々から応援メッセージが届くのと同時に、SNSで集まった有志の方々から現場に差し入れまで送られてきて。
荒木 そうそう。これまでも差し入れはあったんですけど、あんなにたくさんのカップラーメンやお菓子が届いたのは初めてだったね。有志のみなさんには、この場を借りてお礼を言いたいです。ありがとうございました!
肥塚 本当にありがとうございました。
──それだけ多くの人が感動したということですね。では、Part.1でとくに印象に残っているエピソードはありますか?
荒木 やっぱり、巨人になったロッド・レイスとのオルブド区攻防戦が描かれた46話ということになりますね。
肥塚 我々にとってはおよそ1年間にわたるドラマでしたからね。
荒木 この回は、通常の回の進行とは完全に分離して、昨年から制作を始めていたんです。それはまず、絵コンテを樋口真嗣さん(実写版『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の監督)に描いていただけることになったので……。
肥塚 まだ脚本もできていない、各話数の構成を組み立てている時期に、荒木さんが「オルブド区の攻防戦は樋口さんに絵コンテを頼みたい」「無茶だと思うんだけど、どうだろう?」とプロデューサー陣に言い始めたんですよね。それを受けたWIT STUDIOの和田丈嗣プロデューサーが、頑張って樋口さんにコンタクトをとって、交渉してくれて。その後に、我々も樋口さんに実際にお会いしてご相談したところ、快諾していただいたんです。
──なぜ46話の絵コンテを樋口さんに描いてもらいたいと思ったんですか?
荒木 それはもう、「“巨大不明生物”と戦う回なんだから、我々なんかよりそれがお得意な方がいらっしゃるでしょう」という発想です(笑)。一応、「進撃仲間」ということで面識もあったので、受けていただける可能性もあるんじゃないかと思っていました。まあ、それが実現するためには多くの人々に努力していただきましたけど。でも、樋口さんが受けてくださった結果、最高のコンテが出来上がりましたし、現場もより気合いが入ったんです。さらに、この回は最良の作画メンバーがそろってくれたのも大きかった。おかげで、『Season3』最大の山場である46話が、かなり手応えのある回に仕上がりました。
Part.1のMVPキャラはケニーとヒストリア
──46話は、ほかの回の何倍も時間をかけて作られたんですね。では、Part.1のMVPキャラを選ぶとしたら誰でしょう?
肥塚 僕は一番好きなヒストリアと言いたいところですが(笑)、でもPart.1に限るならケニーでしょう。
荒木 たしかにケニーは本当によかった。演じてくださった山路和弘さんの芝居があまりにもよくてね。
肥塚 演技の引き出しの多さに驚かされました。毎回「こういう演技でくるだろうな」と頭のなかで想定はしているんですけど、その想定を超えてくるんです。
──それでは、荒木総監督が選ぶMVPのキャラクターは?
荒木 肥塚さんが選ばないなら、僕がヒストリアにしましょう(笑)。Part.1で一番成長した人は彼女だと思うので。じつは僕、心のなかで彼女のことをまだ「クリスタ」と呼んでいるんです。周りのみんなはちゃんと「ヒストリア」と呼び方を変えているから、頑張って矯正してはいますが(笑)。でもたまに、打ち合わせで「クリスタ」と言っちゃうこともあるんですよね。
肥塚 ヒストリアといえば、Part.1では彼女のためだけの音楽も用意されていたんです。44話で彼女が巨人化した父ロッド・レイスを倒すシーンのための曲がほしいと、荒木さんが発注していたんですよね。
荒木 その曲が本当にすばらしくて、その場面がくるまで大切に温存していたんです。とにかく、ヒストリアのそのシーンは、それくらい大事だと思っていたんですよね。
──ヒストリアのそのシーン、本当に印象的でした。ところで、エレンとリヴァイの活躍ぶりは、どのように総括しますか?
荒木 エレンは、Part.1ではずっと悶々としていましたよね。序盤にさらわれて、中盤までほぼ出番がなくて、出て来たと思ったら口をふさがれていて、そして解放されたあともしばらくウジウジしていて……。でも、終盤にはある意味、吹っ切れたと思うんです。Part.2での爆発が予感されるような、いい流れになってきたかなという感じですね。
──Part.1の最終話である49話では、彼のヤンチャな感じが戻っていましたね。
肥塚 そうですね。最後のほうで自分の過去を知り、「これからシガンシナ区へ向かうぞ」と前を向いているところでPart.1が終了。ここで立ち直ったことが、次のPart.2にすごく生きてくると思います。
荒木 リヴァイに関して言うと、彼はケニーとの因縁めいた関係を通して、キャラクター的に深みを増したと思いますね。さらにリヴァイ班においては、みんなの教官、あるいはコーチ役として、新たな面をたくさん見せてくれました。
肥塚 じつはケニーがリヴァイの伯父にあたる存在だったということが終盤にわかりましたけど、血筋が明らかになったということは大きいですよね。これまでOADなどで描いてきたものと合わせて、「リヴァイはなぜあんなに強いのか」「どうして今の位置にいるのか」ということが、だいぶ掘り下げられてきたと思います。
荒木 そしてリヴァイは、47話の最後に自分の部下たちの前で初めて笑いましたよね。あれはいいシーンでした。
肥塚 僕は、ケニーが幼少期のリヴァイと初めて会ったときに、自分のことをアッカーマン姓で名乗らずに「ただのケニーだ」と言うのが好きで……。
荒木 47話が好きな肥塚さんだけど、とくにそのシーンが好きなんだよね。
肥塚 そうなんです。「あの場面は適当にやってはいけない!」と打ち合わせでも現場でも言い続けていました(笑)。
Part.2は巨人とのバトルが止まらない!
──『Season3』は、TVアニメ『進撃の巨人』では初めてPart.1とPart.2に分かれることになりました。「どの場面で分けるのか」ということで迷ったりはしなかったんですか?
荒木 迷いのようなものはまったくなかったです。むしろ明白だったと言っていいかもしれません(笑)。「Part.1のラストの場面はあそこしかない」というのは誰の目にも明らかで、そうなるとこれまでは原作4冊分で1クールというのが通常パターンだったんですが、『Season3』Part.1は1冊増えて5冊分になるということが決まりました。
──それでPart.1のラストは、調査兵団がウォール・マリア奪還作戦に出撃する場面となった、と。
荒木 はい。でも今、言ったように、今回は原作5冊分ということで、これまでよりも原作の内容を圧縮しなくてはならないわけです。その圧縮の仕方は少し迷ったかもしれませんね。まあ、その作業も想像以上にうまくいきましたし、もはや迷ったときのことは覚えていませんけど(笑)。
──それにしても、Part.1の最終話のラストに挿入されたPart.2の予告は、大変なことになっていましたね! エレンがリヴァイに殴られて、ミカサがリヴァイに斬りかかってる!?
荒木 僕らも「何があったんだろうな?」と思っております(笑)。
──なぜ予告に、あの衝撃的な場面を選んだのでしょうか?
荒木 Part.1の最終話は、調査兵団がウォール・マリア奪還作戦に出撃するところで終わりますが、それだと少々おとなしい。それで「スパイスを入れましょう」ということになったところで、原作の諫山創さんが「あの場面を使ったらどうですか」と提案してくださったんです。もし諫山さんが言ってくれなかったら、あの予告はやらなかったでしょうね(笑)。
──Part.2の注目キャラクターは?
荒木 僕はエルヴィンだと思います。今まで明かされていない彼の本質のようなものがあぶり出されるので。そこでは彼の人間味も、悲しみも感じていただけると思います。ぜひ楽しみにしていただきたいですね。
肥塚 僕はアルミンだと思います。まず、Part.1の49話で、彼がエレン、ミカサと話し合っているときに、思わずハッとする場面がありました。それは、調査兵団に入った理由が、自分とエレンとでは微妙にズレてきているとアルミンが感じたシーン。そのときのアルミンの小さな気づき、小さな引っかかりが、今後アルミンとエレンの関係性にどんな影響を及ぼしていくのか。そして、その小さな引っかかりからこの物語がどう進んでいくのかというのは、このあとの『進撃の巨人』の大きな見どころのひとつかなとも思うんです。
荒木 小さなズレが生じ始めているのに、一見同じ方向を見ている会話に聞こえるところが、諫山さんのセリフ作りのうまさですよね。そして、このときは小さなズレだったのが、のちに大きな違いに拡大してしまう……(笑)。
肥塚 少年にとっては小さい誤差だったのが、大人になっていくにつれて、その誤差が変わっていくというのが深いですよね。
──では、まだ時期尚早だとは思いますが、Part.2の見どころを教えてください。
荒木 Part.2は出だしからトップスピードで始まります。みなさんお待ちかねの対巨人の戦闘が満を持して繰り広げられる。そこからとどまることのないバトル! バトル! バトル! そして、ついに因縁の巨人たちとの戦いに決着がつきます。
肥塚 バトルに関して言うと、新しい武器も登場します。その武器、じつは49話で誰かが背負っていたりするんですけど……。
荒木 ちょっとだけ映っていましたね(笑)。その秘密兵器はPart.2でかなり印象的な登場の仕方をするので、期待していただきたいですね。
肥塚 とにかく、かつてないボリュームの戦闘がたくさん繰り広げられますし、我々はそれをいい形で表現するための準備を着々と進めています。
荒木 スタッフに関しては、かなりいい体制を組んでもらっているので、不安はまったくありませんね。ぜひ、楽しみに待っていてください。
──聞けば聞くほど、Part.2が待ち遠しくなってきました。でも、Part.2の放送開始が予定されているのは2019年4月ということで、まだしばらく先なんですよね。その間、私たち(ファン、視聴者)はどのように過ごせばいいんでしょう!?
荒木 う~ん……。『進撃の巨人』のBlu-rayかDVDを買って、観返してもらうくらいのことしか思いつかないです(笑)。
肥塚 よければ『Season1』から、どうぞ(笑)。
取材・文/石河新
〈TVアニメ『進撃の巨人』Season 3 作品情報〉
Part2、毎週日曜日深夜0時10分よりNHK総合で4月28日放送スタート
※関西地方は0時45分から放送
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