数々の名車を世に送り出してきた名門イタリアンブランド、チネリの新型エアロロード「PRESSURE」をインプレッション。現代のエアロダイナミクスに関するトレンドを盛り込んだ意欲作の実力に迫る。
様々なモダンアーティストやピストクルーのMASHとのコラボレーション、レッドフッククリテリウムへのサポートなどを通してストリートカルチャーとの関係を密にしてきたチネリ。他に類を見ないアバンギャルドなデザインのキャップやバーテープなどの印象が強く、前衛的なストリートブランドというイメージをチネリに対して持っている人も多いのではないだろうか。
しかし、チネリは元プロロードレーサーのチーノ・チネリ氏が興したバイク工房であり、デローザやコルナゴと並びイタリア御三家とも称される老舗中の老舗。1948年の創業以来レーシングブランドとして技術を磨き、革新的なプロダクトを生み出し続け、特に今も健在のSuper Corsaや、デビュー当時の五輪や世界選手権で活躍したLaserは名車としてレーシングバイクの歴史を語る上で欠かせない存在だ。
他にもコルク製のバーテープやスピナッチバー、ステム一体型ハンドルバー"RAM"を生み出したのもチネリ。斬新なアイデアを具現化するだけではなく、レーシングパーツとしての性能にもこだわり続けており、ハンドルバーはチポッリーニらチャンピオンたちが愛用してきたことも知られている。
ストリートカルチャーとの結びつきが強くなった今もチネリのロードに対する情熱は変わらず、2019年にはベルガモに拠点を構えるUCIコンチネンタルチームのコルパックのスポンサードを開始。現在トレック・セガフレードで活躍するジュリオ・チッコーネや、ジャパンカップ覇者のダヴィデ・ヴィレッラ(モビスター)を輩出したチームの活躍を支えている。
そんなコルパックの選手たちが2021年シーズンに使用するバイクが、チネリの新型エアロロード「PRESSURE(プレッシャー)」だ。昨シーズンまではSUPERSTARをレースに投入していたが、満を持して現代のトレンドを詰め込んだエアロマシンでレースを戦う。
PRESSUREのチュービングは翼断面の後端を切り落としたようなカムテールデザインを基本とする。とはいえ、涙滴型の後端を切り落とした典型的なカムテール形状やD型断面というよりは、前後幅が広く横には薄い翼断面に近い形状だ。トップチューブは空力性能に優れるという扁平型で、ヘッドチューブには段差を設け、空気の流れを意識していることが伝わる。
他にもフロントフォークとヘッドチューブのインテグレーテッドデザインや、前方投影面積を低減させるドロップドシートステー、リアタイヤを覆うようなシートチューブなども空力性能を向上させるための作りだ。
エアロデザインの中で大きなポイントは、シフトやブレーキのケーブル/ワイヤーがフル内装となっていることだろう。各社が様々な設計を採用している中、チネリがチョイスしたのはFSAが提案するACRシステム。フレームセットに付属するヴィジョンのMetron 5D ACRを利用し、ケーブルをフレーム内部に誘導する。
また、ディスクブレーキと電動コンポーネント専用フレームとされており、研ぎ澄まされたレーシングフレームとなっている。フレームに用いられるメイン素材は、T800をベースとしたコロンブス製のカーボン。重量はMサイズで990g(フレーム)、390g(フォーク)。タイヤクリアランスは最大30C。ボトムブラケットはPF86、ディスクブレーキはフラットマウント規格で160mmローターまで対応している。
PRESSUREはエアロロードの王道というフォルムとチネリらしいイタロカラーが整ったルックスを演出している。ボトムブラケットハンガー下には「PRESSURE」というステッカーが貼られている。これはロックの殿堂入りを果たしているザ・クラッシュの"ロンドン・コーリング"というアルバムのジャケットに由来するもの。一見したところではわからないような部分に遊び心を加えるところこそ、チネリがチネリたる所以だろう。
今回は内装システムを手掛けるFSAが作り上げた電動無線コンポーネントK-FORCE WEと、ヴィジョンのMetron 40SLホイールで組み上げたバイクを、藤野智一(なるしまフレンド)と福本元(ペダリスト)がインプレッション。伝統的なイタリアンチクリが送るエアロロードの実力や如何に。
― インプレッション
「バランスが整った優等生なエアロロード」藤野智一(なるしまフレンド)
チネリがエアロロードを初めてリリースしたということで気になっていました。他社と比較すると出遅れたのは事実ですが、実際に乗ってみた感想としてはバランスが取れている自転車ですね。長い下りでスムーズに加速していくフィーリングはまさにエアロロードという感じでした。
見た目からの印象通り直進安定性は高く、低速域から高速域まで安定していることを感じられるのですが、障害物をかわす時などの俊敏な動きにも対応してくれる身のこなしの軽さもありました。挙動という側面でもバランスの良さを感じ取れるバイクかなと思います。
スプリントの反応性もエアロロードらしく優れていますし、ずっと加速し続けられるんじゃないかと思うほどスピードの伸びは良いです。ただ自転車の剛性感としては全体的に硬すぎないんですよね。
特にヘッド周りとコンパクトなリアバックがパワーを受け止めてくれる感覚があります。ボリュームを持たせられたボトムブラケット周りに関しては、パワーを受け止める剛性を確保しながら、脚へのストレスを感じさせない硬さに調整されているような印象です。
ただリアバックがコンパクトな作りとなっているため、大きな衝撃は腰にドンっと伝わってきます。気になるのであれば、空気圧を落として乗ると良いでしょうね。今回、体重68kgの私がタイヤの空気圧を6気圧として乗ったので、5.5気圧まで落としても良さそうです。
エアロロードというと登坂している時の走行フィーリングに重さを感じるモデルが多いのですが、PRESSUREには当てはまらないですね。もちろん、オールラウンドモデル並みに軽快とまでは言いませんが、シャキシャキと登ってくれる軽快感はありました。
PRESSUREの良いところは、ペダリングのリズムを掴みやすいと言いますか、ペダリングのワンストロークごとに失速感が無く、流れるような感覚でペダルを踏み込めるところです。左右のペダリングそれぞれが次に繋がるような感じがあり、非常に気持ちよくスピードを乗せていくことができました。
バイクによってはある特定のペダリングをした時に気持ち良さが発揮されるものもありますが、PRESSUREはどんな踏み方をしても受け入れてくれるような印象があります。重いギアをシッティングで踏んでいっても、軽いギアで小刻みに回していっても同じように気持ちよく登れますね。
今回の試乗車にアセンブルされていたホイールが40mmハイトと際立ってディープではないモデルだったのにも関わらず巡航時の楽さは感じられるところです。このくらいのプロファイルのホイールであれば、オールラウンドに使える自転車になると思いますよ。
サイクリングでヒルクライムを楽しみつつ、ロングライドを満喫する人には十分の性能を持っています。軽量性にこだわらないのであれば、PRESSUREは良さそうです。全体的にバランスが整った優等生な印象を受けたバイクでした。
「エアロロードの王道をいく一台」福本元(ペダリスト)
恐らく多くの人が持っているエアロロードというイメージと大きく乖離しない自転車だと思います。エアロロードの王道を往くモデルであり、個人的には好きなバイクでした。
ストリート系のピストレースバイクを得意としているブランドだけあって、PRESSUREはピストバイクにブレーキをつけたような感覚が特徴的な、極めてダイレクト感の高いバイクですね。特にボトムブラケットからヘッドチューブまでは非常にボリュームがあって、それに見合う剛性の高さがあります。このセクションは本当にビクともしませんね、このフレームに剛性不足を感じる方はいないはずです。
高剛性がゆえにフレームが要求するパワーが非常に高いです。登り返しでスプリントを試してみて感じたのは、40km/hからの加速の場合は非常に大きなトルクを出せる方であれば気持ちよく加速できると思います。
そこで一般的なホビーサイクリストが踏み込んで行こうとすると、フレームに脚が負けてしまうので、長時間ハイパワーを維持するのが難しいと思います。登り返しだけではなく、長距離を走りきるとか、レースの最後まで残るということを考えるのであれば、ハイケイデンスでパワーを稼いだ方が良いでしょう。
ただ、フレームの剛性が高いだけに、セットされるMetron 5Dがスプリント時に撓むのがやや気になってしまいました。このハンドル自体は剛性が高いはずなので、フレームのフロントが硬いがゆえに、剛性が少し低くなるハンドル端部が動いたのでしょう。
他に際立つPRESSUREの特徴は、腰高なフィーリングであることですね。BBハイトが高いのか、サドルハイトはいつもの同じ数値に設定していたのですが、目線が気持ち高く感じました。マシンも傾きに対して機敏に反応するので、ヒラヒラと動く印象です。特に低速でのコーナーで顕著に感じます。乗りこなせてしまえば武器になると思いますが、慣れる必要がありますね。
このヒラヒラとしてる感覚も高速では身を潜め、直進安定感が顔を出します。乗るまではクリテリウムなどのテクニカルコースがマッチするスプリントマシンかなと思っていたのですが、高速域での巡航を維持する方が得意という印象です。なので、サーキットエンデューロでは光る物があると思いますよ。
ロードレースに関しては距離や走る場所によって求められる要素は様々なので難しいですが、28Cなど太めのタイヤに振動吸収性を担わせ、長距離や路面に対応させることで、カバーできるシチュエーションは広がるでしょう。
今回のテストバイクには40mmハイトのホイールが装着されていましたが、これは良いバランスだと思いましたね。これ以上ハイトが高くなると、信号待ちからの加速感が辛くなってしまいます。高速で巡航し続けられるならディープの方が良いんですが、サイクリングだとそうはいかないですからね。サイクリングするシチュエーションも見た目通り平坦が多めのコースがオススメです。
老舗のチネリが出してきたエアロロードという事もあり、個性は非常に際立っています。チネリらしいスピード感のあるバイクだと思うので、ハイスピード巡航での気持ち良さを味わってもらいたいです。
チネリ PRESSURE
フレーム:コロンブス カーボン モノコック T800
フォーク:コロンブス ディスク1-1/2”
シートポスト:エアロ ( 付属) / Carbon Rail Comp. /L 300 (XS) - L 350 (S-M-L-XL)
BBシェル:Press Fit 86,5 x 41 mm
タイヤクリアランス:700x30 mm
ブレーキ:フラットマウント、ローターサイズ160mmまで対応
スルーアクスル:フロントリア12x100mm - M12x120、12x142mm - M12x165
重量:990g(size M)、フォーク 390g(アンカット)
サイズ:XS (46) - S (49) - M (52) - L (55) - XL (58)
カラー:ロック ザ ホワイト
価格:380,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップページ
福本元(ペダリスト ピナレロショップ青山)
東京都港区に構えるペダリスト ピナレロショップ青山の店長。中学生からロードバイクを楽しみ、高校に上がるとともに競技生活をスタート。実業団レースでE1まで昇格し、富士ヒルクライムでゴールドを獲得したレーサー。その経験を活かし、ショップではスクールなども担当。接客のモットーは「要望を実現できる方法を考える」こと。
ペダリスト ピナレロショップ青山
CWレコメンドショップページ
ウェア協力:カステリ
text:Gakuto Fujiwara
photo:Kenta Onoguchi、Makoto AYANO
様々なモダンアーティストやピストクルーのMASHとのコラボレーション、レッドフッククリテリウムへのサポートなどを通してストリートカルチャーとの関係を密にしてきたチネリ。他に類を見ないアバンギャルドなデザインのキャップやバーテープなどの印象が強く、前衛的なストリートブランドというイメージをチネリに対して持っている人も多いのではないだろうか。
しかし、チネリは元プロロードレーサーのチーノ・チネリ氏が興したバイク工房であり、デローザやコルナゴと並びイタリア御三家とも称される老舗中の老舗。1948年の創業以来レーシングブランドとして技術を磨き、革新的なプロダクトを生み出し続け、特に今も健在のSuper Corsaや、デビュー当時の五輪や世界選手権で活躍したLaserは名車としてレーシングバイクの歴史を語る上で欠かせない存在だ。
他にもコルク製のバーテープやスピナッチバー、ステム一体型ハンドルバー"RAM"を生み出したのもチネリ。斬新なアイデアを具現化するだけではなく、レーシングパーツとしての性能にもこだわり続けており、ハンドルバーはチポッリーニらチャンピオンたちが愛用してきたことも知られている。
ストリートカルチャーとの結びつきが強くなった今もチネリのロードに対する情熱は変わらず、2019年にはベルガモに拠点を構えるUCIコンチネンタルチームのコルパックのスポンサードを開始。現在トレック・セガフレードで活躍するジュリオ・チッコーネや、ジャパンカップ覇者のダヴィデ・ヴィレッラ(モビスター)を輩出したチームの活躍を支えている。
そんなコルパックの選手たちが2021年シーズンに使用するバイクが、チネリの新型エアロロード「PRESSURE(プレッシャー)」だ。昨シーズンまではSUPERSTARをレースに投入していたが、満を持して現代のトレンドを詰め込んだエアロマシンでレースを戦う。
PRESSUREのチュービングは翼断面の後端を切り落としたようなカムテールデザインを基本とする。とはいえ、涙滴型の後端を切り落とした典型的なカムテール形状やD型断面というよりは、前後幅が広く横には薄い翼断面に近い形状だ。トップチューブは空力性能に優れるという扁平型で、ヘッドチューブには段差を設け、空気の流れを意識していることが伝わる。
他にもフロントフォークとヘッドチューブのインテグレーテッドデザインや、前方投影面積を低減させるドロップドシートステー、リアタイヤを覆うようなシートチューブなども空力性能を向上させるための作りだ。
エアロデザインの中で大きなポイントは、シフトやブレーキのケーブル/ワイヤーがフル内装となっていることだろう。各社が様々な設計を採用している中、チネリがチョイスしたのはFSAが提案するACRシステム。フレームセットに付属するヴィジョンのMetron 5D ACRを利用し、ケーブルをフレーム内部に誘導する。
また、ディスクブレーキと電動コンポーネント専用フレームとされており、研ぎ澄まされたレーシングフレームとなっている。フレームに用いられるメイン素材は、T800をベースとしたコロンブス製のカーボン。重量はMサイズで990g(フレーム)、390g(フォーク)。タイヤクリアランスは最大30C。ボトムブラケットはPF86、ディスクブレーキはフラットマウント規格で160mmローターまで対応している。
PRESSUREはエアロロードの王道というフォルムとチネリらしいイタロカラーが整ったルックスを演出している。ボトムブラケットハンガー下には「PRESSURE」というステッカーが貼られている。これはロックの殿堂入りを果たしているザ・クラッシュの"ロンドン・コーリング"というアルバムのジャケットに由来するもの。一見したところではわからないような部分に遊び心を加えるところこそ、チネリがチネリたる所以だろう。
今回は内装システムを手掛けるFSAが作り上げた電動無線コンポーネントK-FORCE WEと、ヴィジョンのMetron 40SLホイールで組み上げたバイクを、藤野智一(なるしまフレンド)と福本元(ペダリスト)がインプレッション。伝統的なイタリアンチクリが送るエアロロードの実力や如何に。
― インプレッション
「バランスが整った優等生なエアロロード」藤野智一(なるしまフレンド)
チネリがエアロロードを初めてリリースしたということで気になっていました。他社と比較すると出遅れたのは事実ですが、実際に乗ってみた感想としてはバランスが取れている自転車ですね。長い下りでスムーズに加速していくフィーリングはまさにエアロロードという感じでした。
見た目からの印象通り直進安定性は高く、低速域から高速域まで安定していることを感じられるのですが、障害物をかわす時などの俊敏な動きにも対応してくれる身のこなしの軽さもありました。挙動という側面でもバランスの良さを感じ取れるバイクかなと思います。
スプリントの反応性もエアロロードらしく優れていますし、ずっと加速し続けられるんじゃないかと思うほどスピードの伸びは良いです。ただ自転車の剛性感としては全体的に硬すぎないんですよね。
特にヘッド周りとコンパクトなリアバックがパワーを受け止めてくれる感覚があります。ボリュームを持たせられたボトムブラケット周りに関しては、パワーを受け止める剛性を確保しながら、脚へのストレスを感じさせない硬さに調整されているような印象です。
ただリアバックがコンパクトな作りとなっているため、大きな衝撃は腰にドンっと伝わってきます。気になるのであれば、空気圧を落として乗ると良いでしょうね。今回、体重68kgの私がタイヤの空気圧を6気圧として乗ったので、5.5気圧まで落としても良さそうです。
エアロロードというと登坂している時の走行フィーリングに重さを感じるモデルが多いのですが、PRESSUREには当てはまらないですね。もちろん、オールラウンドモデル並みに軽快とまでは言いませんが、シャキシャキと登ってくれる軽快感はありました。
PRESSUREの良いところは、ペダリングのリズムを掴みやすいと言いますか、ペダリングのワンストロークごとに失速感が無く、流れるような感覚でペダルを踏み込めるところです。左右のペダリングそれぞれが次に繋がるような感じがあり、非常に気持ちよくスピードを乗せていくことができました。
バイクによってはある特定のペダリングをした時に気持ち良さが発揮されるものもありますが、PRESSUREはどんな踏み方をしても受け入れてくれるような印象があります。重いギアをシッティングで踏んでいっても、軽いギアで小刻みに回していっても同じように気持ちよく登れますね。
今回の試乗車にアセンブルされていたホイールが40mmハイトと際立ってディープではないモデルだったのにも関わらず巡航時の楽さは感じられるところです。このくらいのプロファイルのホイールであれば、オールラウンドに使える自転車になると思いますよ。
サイクリングでヒルクライムを楽しみつつ、ロングライドを満喫する人には十分の性能を持っています。軽量性にこだわらないのであれば、PRESSUREは良さそうです。全体的にバランスが整った優等生な印象を受けたバイクでした。
「エアロロードの王道をいく一台」福本元(ペダリスト)
恐らく多くの人が持っているエアロロードというイメージと大きく乖離しない自転車だと思います。エアロロードの王道を往くモデルであり、個人的には好きなバイクでした。
ストリート系のピストレースバイクを得意としているブランドだけあって、PRESSUREはピストバイクにブレーキをつけたような感覚が特徴的な、極めてダイレクト感の高いバイクですね。特にボトムブラケットからヘッドチューブまでは非常にボリュームがあって、それに見合う剛性の高さがあります。このセクションは本当にビクともしませんね、このフレームに剛性不足を感じる方はいないはずです。
高剛性がゆえにフレームが要求するパワーが非常に高いです。登り返しでスプリントを試してみて感じたのは、40km/hからの加速の場合は非常に大きなトルクを出せる方であれば気持ちよく加速できると思います。
そこで一般的なホビーサイクリストが踏み込んで行こうとすると、フレームに脚が負けてしまうので、長時間ハイパワーを維持するのが難しいと思います。登り返しだけではなく、長距離を走りきるとか、レースの最後まで残るということを考えるのであれば、ハイケイデンスでパワーを稼いだ方が良いでしょう。
ただ、フレームの剛性が高いだけに、セットされるMetron 5Dがスプリント時に撓むのがやや気になってしまいました。このハンドル自体は剛性が高いはずなので、フレームのフロントが硬いがゆえに、剛性が少し低くなるハンドル端部が動いたのでしょう。
他に際立つPRESSUREの特徴は、腰高なフィーリングであることですね。BBハイトが高いのか、サドルハイトはいつもの同じ数値に設定していたのですが、目線が気持ち高く感じました。マシンも傾きに対して機敏に反応するので、ヒラヒラと動く印象です。特に低速でのコーナーで顕著に感じます。乗りこなせてしまえば武器になると思いますが、慣れる必要がありますね。
このヒラヒラとしてる感覚も高速では身を潜め、直進安定感が顔を出します。乗るまではクリテリウムなどのテクニカルコースがマッチするスプリントマシンかなと思っていたのですが、高速域での巡航を維持する方が得意という印象です。なので、サーキットエンデューロでは光る物があると思いますよ。
ロードレースに関しては距離や走る場所によって求められる要素は様々なので難しいですが、28Cなど太めのタイヤに振動吸収性を担わせ、長距離や路面に対応させることで、カバーできるシチュエーションは広がるでしょう。
今回のテストバイクには40mmハイトのホイールが装着されていましたが、これは良いバランスだと思いましたね。これ以上ハイトが高くなると、信号待ちからの加速感が辛くなってしまいます。高速で巡航し続けられるならディープの方が良いんですが、サイクリングだとそうはいかないですからね。サイクリングするシチュエーションも見た目通り平坦が多めのコースがオススメです。
老舗のチネリが出してきたエアロロードという事もあり、個性は非常に際立っています。チネリらしいスピード感のあるバイクだと思うので、ハイスピード巡航での気持ち良さを味わってもらいたいです。
チネリ PRESSURE
フレーム:コロンブス カーボン モノコック T800
フォーク:コロンブス ディスク1-1/2”
シートポスト:エアロ ( 付属) / Carbon Rail Comp. /L 300 (XS) - L 350 (S-M-L-XL)
BBシェル:Press Fit 86,5 x 41 mm
タイヤクリアランス:700x30 mm
ブレーキ:フラットマウント、ローターサイズ160mmまで対応
スルーアクスル:フロントリア12x100mm - M12x120、12x142mm - M12x165
重量:990g(size M)、フォーク 390g(アンカット)
サイズ:XS (46) - S (49) - M (52) - L (55) - XL (58)
カラー:ロック ザ ホワイト
価格:380,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド神宮店
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福本元(ペダリスト ピナレロショップ青山)
東京都港区に構えるペダリスト ピナレロショップ青山の店長。中学生からロードバイクを楽しみ、高校に上がるとともに競技生活をスタート。実業団レースでE1まで昇格し、富士ヒルクライムでゴールドを獲得したレーサー。その経験を活かし、ショップではスクールなども担当。接客のモットーは「要望を実現できる方法を考える」こと。
ペダリスト ピナレロショップ青山
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text:Gakuto Fujiwara
photo:Kenta Onoguchi、Makoto AYANO
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