“新型コロナ”と「風の谷のナウシカ」 その2 | Okinawa通信 ⇒ 伊都国つうしん
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2010年1月。30年以上住んだ東京から引越し、沖縄生活をスタート。
その沖縄に10年暮らし、『Okinawa通信』を書きました。が、さらに、
2019年10月末に、ここ、福岡市西区・糸島近くの「伊都国(いとこく)」の地に。


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伊都国つうしん 10

● 前回のつづき、です。


   BSスペシャル 「コロナ新時代への提言2」 という番組、
   生物学者・福岡伸一 (敬称略以下も) を進行役にして、
   歴史学者・藤原辰史 と 美学者・伊藤亜紗 の3人がリモートで語り合います。



 面白いなと思ったのは、

 福岡伸一が、宮崎駿の 「風の谷のナウシカ」 をとりあげ、
 そのナウシカが最後にとった行動の謎、
 を通してコロナ後の時代を考えようとしたこと。

 そのため前回はまず、漫画版「風の谷のナウシカ」の
 ストーリーをざっくり紹介しました。

 そして今回は、番組の内容について、です。


さて。

福岡伸一は、最初に 「ピュシス」 と 「ロゴス」 という2つの言葉をあげます。
いずれもギリシア語です。

「ピュシス」 は、「自然(動物としてのヒトも含めて)」。
「ロゴス」 は、「言葉・論理・虚構」。

人間は唯一ロゴスを持った動物であり、ロゴスを駆使してピュシスをコントロールする。
その過程で不必要なものは遠ざけたり排除したり、より効率性、完璧性を求める。

……… という、人間の “人間性” たる歴史・現状を前提に3人の話が始まります。



50分の番組はとても示唆に富む言葉がでてきますが、多くは紹介できないので、
私が印象に残った言葉、話だけですが、記してみます。



● なぜ人間は人間を排除するのか。

   自粛警察なるものが出現している現状 …… 歴史学者・藤原辰史は、ナチス時代の話をします。


   ナチスは、1933年動物保護法、1935年自然保護法という法律を制定し、
   自然との共生、自然農法の奨励をしている。

   しかしその後、アーリア人以外の人間とは共生できない人種主義に走る。


   他民族は汚れを持っている、だから共同体に入ってくると汚れる、として
   人間が人間に対する潔癖なクレンジングを始める。
   ユダヤ人を 「ガス殺」 したのは、いわば消毒なのだ。
   ある著名なナチス研究者は、「ナチスドイツは清潔なる帝国」 と言っている。


   潔癖主義は、感染する。

   潔癖主義にみんなが走ってしまう。そして自分たちの行動を狭めてしまう。






……… 「清潔」 を純に正当化する 「潔癖主義」 は、まさに 「感染する」。
    それは、ヒトの性(さが) なのか ……。





● 排除とは反対の、人のためにという 「利他性」 にも落とし穴が。


 自身、吃音(どもり) 持ちである美学者・ 伊藤美紗は、
 吃音は、まさに 「ロゴス」 と 「ピュシス」 とのぶつかり合いだと笑いながら話し、
 視覚障害者の例を出しながら、

    「一見いい感じの行動って、実は利他的ではない、のではないか?」
    コロナ禍の現状を、その面から捉えたいと語ります。


   一見、人のためを思っての行動は、
   実は自分の目線からの思いであって、「利他」 というより、
   ヒトを知らず知らずに、コントロールしていることになってはいないか。




   ナウシカは、とても聞き上手だと思う。
   みんなが敵だと思っている虫とすら、話をし聞いている。
   つまり尊重している、彼らには彼らの道理がありそれで生きていると思う。
   勝手に想像しない、思い込みで判断しない。

   つまり排除なき共生を可能にするもの、それが 「利他性」 なのではないだろうか。


   知らぬ間に他人をコントロールしがちになってしまう人間は、
   ロゴスによって、「引き算の時間」 を生きているからだ。

   「引き算の時間」 とは、将来の自分、一週間先、1年先、の予定に対して準備する時間、
   つまり現在、ヒトは、今の時間を生きているのではない、のではないか。


……… しかしコロナによって、その準備が反故になってしまった。狂ってしまった。

   「引き算の時間」 が生まれたのは、産業革命以降のことだろう。


予定にむかって準備するために知らず知らず、人をコントロールしている ……
いま、コロナ禍のとき、人間は時間の使い方をも、考え、変えるときと捉えるべきなのだろう。



● 「コロナ新時代」 へ。 「潔癖主義」 の暴走を止めることはできるのか。


福岡伸一は、「行き過ぎた消毒文化は、生きている生命体 (ピュシス) としての
          私たち(人類) に有害である」
          「潔癖主義が暴走しないようにするには、どうすればいいのか」

       ……… と、藤原辰史に尋ねます。


藤原は、潔癖主義の現状例として、

      屠殺のステップを外して、キレイな肉を実現する技術があることを話します。


 

                    細胞操作によって肉をつくる。
                    こんな世界になっているとは知らなかった。




      しかし人間は穢れと清潔さの両方を持つ存在。いわば、
      上水道を口に、下水道をお尻につなげる存在である。

      キレイすぎる生態・調和を夢見てしまうと、それは、
      ユートピアの反対、ディストピアの社会に陥ってしまう。

      人間と人間、人間と自然の共生は、むずかしいのは事実だが、
      思考停止にならず、対立を対立として受け止める、ようにすることだ。



……… “感染する潔癖主義” の暴走を止めるのは、結局、
     一人ひとりの意識の持ち方でしか解決できない、という問題なのは分かるのだが。。。
     コロナ後、それは止められるのか。



● ウィルスは、人類とともにある。

 …… とは、この新型コロナ問題が発生したあとに、よく言われることです。

 多くのウィルスは腸内細菌などに代表されるように、人間の体内に存在し調整役をしています。
 つまり共生しています。
 ウィルスの中のごく僅かが、新型コロアのように悪さをし大きな危険をもたらす。


 そしてこれからも新しいウィルスは出現するし、ウィルスに打ち勝つことは不可能だ、
 と福岡伸一は言います。そして、


    ロゴスの力で、アルゴリズムを駆使しても、ウィルスを完全に制圧することはできない。

    ロゴスの本質は、論理だ。
    論理により、効率性、生産性は、アルゴリズムにより達成される最適解を求める。
    まさに今の社会が、AIを使って求めようとしている方向にある。

    行き着く先は、完全に制御された暮らし、究極のロゴスの神殿だ。
    そしてそれは、ピュシスとしての我々の生命のあり方を損なうものだ。

    完全にコントロール可能だという文明を、
    ナウシカは本来のピュシスのあり方ではない、と破壊したのではないか。




 ……… 初めに提示した、ナウシカが“墓所”と呼ばれる残された文明の神殿、
         不老不死をも可能とされるような文明の神殿を、破壊した謎について、

    福岡伸一はそう語って、番組は終わります。




 

               残された文明、“墓所” の主とナウシカの対話。

               ナウシカの言葉に
               宮崎駿の宗教観が現れているのかもしれない。






 

               福岡によれば 「究極のロゴスの神殿」 の “墓所” は
               ナウシカによって破壊される。




この番組が語る 「提言」 は、

ロゴス (言葉・論理・虚構) があまりにも勝ちすぎて、
ピュシス (動物としての人間を含めた、自然) をコントロールし過ぎている世界。

コロナ新時代は、それを見つめ直す時代だ、

ということなのでしょうか、ね。



それにしても、ナウシカの言葉には仏教的な思想が感じられますね。

涅槃経で説かれている、
「草木国土悉皆成仏 (そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」 という、

まさに意識を持たないものや、生命を持たないもの、
すべてに仏性があって成仏する、というような ……… 

「もののけ姫」 も確か、そんな話だったような。



今回も、長々とおつき合い、ありがとうございました。




● 【200字小説】  第4回

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 子供時代。

 そのトンネルは真ん中あたりでちょっと曲がっていた。
 だからそこを過ぎると出口がぽっかり見えてホッとした。
 自転車で3分もあれば通り抜けるトンネルだけど、子供時代の自分はそう反応していた。
 ある日、そろそろ真ん中あたりだな、と思いながらペダルを踏んでいるのに
 なかなか出口が見えてこない。
 ええっもう5分は過ぎてるだろう!と恐怖で汗がふき出てきた。
 黒沢明の『夢』を見た夜、そんな夢を見た。


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