飛んだメロン
だれにでも好きなものはあります。かわいいおうちにすんでいるじろうくんはお母さんがきのう買ってくれたものをしっていました。
たまにしか食べれないそれは、まるでほうせきみたいにきらきらとかがやいて見えます。
れいぞうこからお母さんがとりだしたそれは、おさらにどんと大きなからだをのせました。
とても大好きな食べ物。じろうくんは、そのくだものが出てくると飛び上がりたくなるくらいはしゃいでしまいます。
お母さんがほうちょうでくだものを切っていきます。
じゅわりと溢れたあまくておいしいかじゅう。かすかなあまいかおり。いますぐにでも食べたくなります。
お母さんのまわりをくるくるまわりながら、じろうくんはわくわくした気持ちをおさえることができません。
「おとうさんにはないしょ」
「うん!」
はやく食べたくてじろうくんはそわそわとおちつかないまま、お母さんがスプーンでたねをきれいにとってくれるのをまちました。
「いいこに待てたかしら?」
「もちろんだよ、お母さん」
「手はあらったの?」
「あっ、わすれてた」
「あらあら、きちんと手をあらわないこにはあげれないわ」
「まって、まって。ぼくいいこだもん」
ぱたぱたと手をあらいにじろうくんはいそいではしります。きちんと手をあらったじろうくんを「えらいわね」とお母さんが頭をなでてくれました。
じろうくんは大きなこえで「いただきます」というと、とってもおいしそうなメロンをぱくりと食べました。
みずみずしいメロンは、とってもおいしくてじろうくんはえがおを浮かべました。
おいしい、おいしいメロン。とってもおいしいすてきなメロン。
食べおわってから、じろうくんはおなかがいたくなりました。お母さんは心配して、お薬をじろうくんに飲ませます。食べすぎたのかな、とおもいながらじろうくんはベッドでよこになりました。
つきつき。
ずぎずき。
ずきんずきん。
なんだかどんどんいたくなります。じろうくんはきもちがわるくなってきました。
「うっ、うぅうう」
おなかをぐるぐる、ぐりぐり、かきまわされているみたいです。からだの中をなにかがずりずり、あるきまわっているようでした。
「うえぇぇええぇえ」
べちゃり。ぐちゃり、なにかへんな音がしました。みどりいろのくだものと、きいろのえきたいをじろうくんはきだします。
「いたい、いたいよぉ」
からだの中をつきやぶるみたいになにかがうごいています。じろうくんはいたくてなきました。なみだといっしょに、ころころとまあるいものがおちました。それはじろうくんのかわいいおめめです。
あまりにもいたくてじろうくんはさけびました。いたくていたくて、からだがちぎれてしまいそうです。
口からぼとりとおちたなにかがうごきます。それはきせいちゅうとよばれるものでした。あまくておいしいメロンのたねにかくれてすみつく虫です。
ほうちょうでたねをきると、おいしいしるをもとめて出てきます。ぱっくりわれたメロンの中をうごきまわって、おいしいえいようをほしがるのです。
なきさけぶじろうくんのからだからとびだした虫は、ちいさな子どもを食べました。あまりにもいたそうになく子どもにしんぱいになって、おへやをのぞいたお母さんはその場でたおれてしまいました。
うぞうぞとうごく虫は、お母さんのからだからも出てきます。
たくさんえいようをおなかいっぱい食べた虫は、くるりとまるくなりました。ころころとゆかをころがって、まどからぽーんととびだしました。
まちのいろんなところから、ぽーんぽーんとみどりいろのたまがころがります。ぞろぞろとみどりいろのたまをまもるように、てあしをうごかした虫はきれいな、あみ目をつくりました。
ぽーんぽーんととびはねて、空たかくみどりいろのボールが飛びます。
となりのまちの子どもは、空をとぶみどりいろのボールをみつけました。
「メロンが空をとんでる!」
おいしいけれど、お母さんが「たかいから」と言ってあまり買ってくれないくだものです。
「お母さん、メロン食べたいよ」
「はいはい、ひさしぶりにみんなで食べようかしら」
「うん」
もうおなかがすいてきます。なかよくお母さんと手をつなぎながら、子どもはきょうのデザートがとても楽しみになりました。