DENSHIMAN

Seminar on January 29, 2021 from 15:30 to 16:30

#01 はじまり

2015年の6月から始めたことだった。最初の作品は、使っている3Dプリンタの校正治具だった。デザインするに始め、いろいろな人のデザインを参考にした。気に入ったのものを見つけた後は、描いた。

https://www.thingiverse.com/thing:900641

最初は、英語でコメントを書くのが面倒で、なかなか進まない。だいたい英語で作品を説明するとか、発表するとか、普段の仕事では考えられない。しかしながら公表するのはSTLファイルぐらいだし、まずはやってみようと思った。かなり後に理解することだが、Thingiverseはアップロードが簡単で権利などもしっかり記述できる。

私の作ったものなど、誰も関心はないだろうと最初は思っていた。しかし、いくつかダウンロードされて、現在は399件ダウンロードされている。「へー、私のような素人作品でも、まあ使ってくれる人がいるのだな」率直に思い作品をいくつか追加していった。これが始まりだった。

#02 Sketchupとの出会い

使い始めは古く2006年ぐらいだったと思う。当時のパソコンの能力はとても低い。だけどSketchUpはスイスイ動いた。このソフトウェアを現在でも使い続けることになるとは驚きだ。その後、刊行されるマニュアルなど、すべて建築関係者の記述だったと記憶している。当時、日本語化もされてないソフトウェアだった。普通に日本語環境で動いた。グラフィックボードのスペックの高いものが要求されていて、動かないPCが多かった。SketchUpには「誰でも使える3Dソフトウェア」と宣伝されていて、建築以外の用途にも、対応できるのだが、なぜか日本では建築関係者御用達で、ほぼ終わっていた。

SketchUpは非常に簡単に使える。なぜだろうかと考える人は、あまりいないだろうから解説しておく。まずは、回転させて上下をぐるぐる回して視点を切り替えていくときを考えてみよう。このとき、作図したものに重力があるかのように計算されている。必ず、作図しているモノが水平面に対して平行を保つように設計されている。作図には視点の切り替えが多用される。1回限りなら、あまり関係ないだろうけど、何千回もやるんだ。その都度、水平を揃えるような手動操作を要求されると、どうだろう。手間だ。水平と垂直は、3D図面において、重要なポジションだ。重力オプションを切る方法は、表示画面の下に常に明記されているが、誰も見たことがないんじゃないだろうか。そして、一番重要なプッシュ操作だろう。私が、今でもSketchUpに依存している理由だ。カーソルをマウスで2D面を指定した後は、ドラック操作で普通に立体が起こせる。たった、これだけのことだけど、特許で保護されている。その他のソフトウェア会社が、この機能を使うときには、なんらかの技術交換をしないと、使うことができない。

詳しく、このときの動作を解説しよう。カーソルを2D面に近づけたときに、既に計算が終わっていて、3D空間上のポイントをPCは把握している。そして、2D面に対して、どの方向に面を押せば立体ができるかも計算が終わっている。よって、マウスをドラッグすれば、勝手に立体図形が描画されることになる。ユーザから見れば、何も考えずに2D面をドラッグしただけで描画は終わる。ユーザからの操作で考えるとワンタッチになる。この特許を迂回する方法を、少し考えてみて欲しい。できるかな。できたら、私までコッソリ教えて下さい。もしくは、現時点で、特許切れになっていれば、その他のメーカーは大喜びだろう。特許を迂回するために、他の3Dソフトウェアメーカーは、奔走することになる。だいたい、操作手順を増やす。マウスでポイントを指定した後、矢印を出して、数値を指定したり、ドラッグをさせたり、3ステップぐらいになるだろうか。たった1つの面に対して、3ステップを常に踏むことになるだろう。ということは、ワンタッチと比べ、全てにおいて3倍の操作を常に要求される。これが延々と続くことになるだろう。常に3倍働くなんて、私はお願いされてもしない。3Dソフトウェア業界の隠れた縮図だ。

いいところばかりを紹介してきた。現在ではダメなところもある。ユーザの描画前に計算をしすぎてバグが出る。具体的には面をプッシュした後、完全な立体が生成されないことがある。何度かやり直せばできることもある。一般ユーザでは回避できないこともある。これがSketchUpの隠れたクセだ。メーカーは認めたがらないことだろう。たぶん、最初のソフトウェア設計者が既に居ない。一番、重要な描画エンジンを再設計するエンジニアが、もう居ないのだ。私はオペレーションで、このバグを回避できる。たぶん、世界中のSketchUpユーザの悩みのタネなんだろうが、私は私が使えればいい。CADソフトウェアのバグは悩ましい問題だ。オペレーションにより解決できるノウハウは公開されていることもあるけど、公開されないこともある。

もうひとつダメなところを紹介する。それは円弧だ。円を書くときに、24分割の直線で構成される。分割数は書く前に指定できる。私の場合は、24の倍数で決めている。半端な数値を指定すると、後々の修正がしにくいからだ。円弧が必ず直線で表されることになり、3Dプリント部品をつくるときに、この分割数が低いと粗い多角形がプリントされ問題になることがある。円を書くときに多角形としての認識が不足すると、後々の作図で問題が出る。古いソフトだなと思う。円を書くときに、必ず、XYZ軸に沿うように書くことだ。雑に円を書くとすぐ問題になる。円弧じゃなくて多角形なんだ。だから頂点がズレると問題になる。たぶん、ほとんどのSketchUpユーザは知ることはないかも知れない。予め、円弧の粗さをデザイン上から先に指定できるので、便利といえば便利だが、常に古いなと感じさせる。スペックのお粗末なPCでは、分割数を減らす意味があったのだ。デフォルトの24分割は多角形だけど丸に見せようとする苦肉の策だったのだ。ソフトウェアは常にハードウェアのスペックに制限されてきた。現在でも同じだ。

#03 STLファイル解読のやり方

古臭いハードウェアで動いていた旧式とも言える描画エンジンが、現在において注目されることになる。それは、STLファイルの成り立ちと関係がある。STLファイルは、三角形を基本とした直線で構成された立体を表すファイルである。丸はダメだけど、いっぱいある直線には、とても有効な描画エンジンだったわけだ。SketchUpはウェブのクライアントでもオフラインで動くほど、軽いソフトウェアだ。これは、CPUに負荷がかからない俊敏な描画エンジンという証明でもある。

現在は、クラウドで図面を書くことが主流になっている。CADソフトウェアの利権ばかり主張されているからだろう。一般ユーザから見れば、単なるソフトウェアだけど、クラウドが絡むと、図面データをすべて預けることになり、いいことばかりではないだろう。クラウドだと、どうしても通信時間が問題になってくる。長い距離を情報が伝わる時間は節約できない。ここでもSketchUpは、独自路線になっている。オフラインでCPUとメモリの最大パワーを直接使うことができる。メモリを増設した分、使い放題だ。おっと、話が脱線しそうだ。元に戻す。STLファイルをSketchUpで読む込むと、このように。なんだ不要な直線ばかりだと思ったら、一瞬でクリーニングされた。SketchUpは実にプラグインが豊富な基盤ソフトウェアだ。黎明期から、ずっとプラグインを無料で提供し続けている天才プログラマを引きつけている。プラグインが豊富なだけではない。提供されているほとんどのプラグインは暗号化されていない。古き良き時代のソフトウェアだからね。だから、Ruby言語で書かれたプラグインのソースコードが、そのまま読める。

素人プログラマでも、天才たちが書いたソースコードを直接、調べて修正して独自の機能を足すことができる。私は独自にプラグインを書いている。作図において、独自プラグインは非常に強力だ。SketchUpの元の操作性の良さを残しつつ、独自プラグインに強化されたSketchUpは、無敵とも思える能力を持つ。自分の欲しい機能に近い動きをするプラグインを探し出し、中身を洗いざらい私は調べる。例えば、 直線で構成された偽の円弧を円弧扱いにするプラグインが実在する。円弧扱いになった途端中心を割り出す別プラグインを起動すると、後は直径など改変し放題になる。バラバラになった直線はつながった。プラグインの連携は当然だ。それでは、実際のSTLファイルの読み込み改変手順を順に追ってみよう。ファイルメニューから、インポートを選ぶ。ファイルフォーマットはSTLとして、実際のSTLファイルを読んでみる。後は、クリーニングのプラグインを呼び出せば終わり。以上だ。他のソフトウェアと比べると、拍子抜けするほど単純でわかりやすい。その後は自由に改変できる。この自由さを、表現するのは難しい。

この素晴らしい作業環境は、2017年の時点では誰でも試すことができた。STLファイルのすべてを完全に復元するのは、できない場合もある。しかし、ほとんどのSTLファイルは不完全でも読み込むことができる。欠損したところは、修正すればいい。この技術を使って、Thingiverseにある幾多のSTLファイルを読む込むことが可能だ。STLファイルにプロテクトをかけることは無理だ。可読性を下げるような細工を行うメーカーもあるけど、実際にリバースエンジニアリングは可能だ。最近、使ったことがない3Dプリンタの パーツを参考ビデオとデータから復元してみた。問題なく動くだろう。リミックス元の作者はV9までアップデートしたけど、私が引き継いでもいいよ。オンラインで入手できる情報だけで完璧な作図が可能になっている。完全に分解した構造から、書き方を理解して再現していく。その途中がこんな感じだ。私が書く速度はプラグインがサポートするから、実に高速だ。書き終わった図面はデータ化され、次の作図に備えられる。ライブラリ化が始まり作図精度がどんどん高くなる。読む図面も多いけど、実際に書く量も桁違いだ。私に1時間ほど与えると、ちょっとしたものは書けてしまう。私の書く図面は誰かのコピーではなく、オリジナルになってしまう。手早いCADオペレータと、作図に困るところだけプラグインを開発できるプログラマが同じ人である確率は、ほぼゼロに近い。

#04 3Dプリンタの選び方

3Dプリンタの選定基準は何だろうか。値段、精度、速度、運用コスト、安定性などいろいろありすぎて迷うだろう。プリンタは、ハードウェアなので製造コストがかかる。ソフトウェアもコストはかかる。大量に販売すれば、コストはゼロに近くなる。3Dプリンタは、ハードウェアとソフトウェアの両方からの技術的挑戦が必要な精密機器だ。

まずは、箱にお金をかけているプリンタは除外される。他にお金をかけるところがあるだろう。液晶パネルに金かけているメーカーも問題外。プリンタはプリント性能重視だろう。見栄えは後回しでいい。プリンタのXYスライドメカを見よう。だいたい丸棒で、支えられているだろう。箱に金をかけたからだよ。丸棒だとたわむのでエクストルーダの位置が正確に決まらない。そのため精度がでない。だから、メーカーは短くしたがる。よって、底面積がせまくなる。だから、プリントサイズが小さくなる。あなたの使っているプリンタはメーカーのコスト妥協の産物だ。ソフトウェアもサードパーティに任せておけばいいというメーカーもいっぱいある。さぼっているんだよ。ハードウェアも、ソフトウェアも両方とも良いプリンターは稀だ。精度を出すために、頑丈そのものにしてしまうメーカーがある。

まあいいや、速度出るの? 重いものを動かすには力もいるし、慣性の法則があるから振動するし、あまりいいことがない。大きすぎるベッドは大きなものをプリントできそうで万能感があるけど、プリント時間はどうなるの? 24時間以上かかるプリント時間の間、安定してるの? 常に何かとトレードオフなんだ。自分の欲しいプリンタは、仕様を決めてないと選べない。だいたい、コストが一番だけど、メーカーは金のかけるところを間違っていることが多い。最後の質問。精度出るの? 精度確認してるの? だいたい答えられない。精度は当然、出ているのが普通で、確認などしたこともない人がほとんど。図面のものがそのままプリントされているって信じ込んでる。

現在、売られている3Dプリンタは、あまり大きなモノをプリントするもんじゃない。設計でいうと100ミリ角ぐらいが限界だ。この限界は、プリントした品物の精度の限界でもあった。ついにズレをごまかしできないぐらいのサイズになったからだ。ついでに書くと、単に長さを測定するだけではだめだ。正方形をプリントして、平行四辺形になる例がいっぱいある。高級機はすべて解決されているかというと、そうでもないところに私の指摘の根深さがある。私は、すべての問題点を 解決しています。ただし、細かい設定はあります。それは自分でチャレンジしましょう。すべての答えを予め知るのは怠惰につながる。私の手持ちのプリンタは、すべて校正しているから、バラバラにパーツをプリントしても組み立てできる。最後に校正してないプリンタは、ゴミ出力装置だ。そう思って間違いない。プリントするごとに精度を確認して、相性のいいパーツを組み合わせるなんて冗談だろう。組み立て精度を上げるのにプリントの都度、図面をいじるのでしょうか。個別に修正を入れた図面は、そのうち信用できなくなるよ。そもそも、校正する機能がない場合は、残念としか言いようがない。

自分の買った3Dプリンタメーカーに相談しよう。たぶん、相談しても無視されるだろう。ハードウェアの調整だけでは、私の基準に達するのは難しいことも書いておく。ソフトウェアの助けなしで、精度を上げるのは無理なんだ。あまりに微妙すぎる調整だから、ハードウェアとソフトウェア両方が歩み寄り、精度を上げるように最初から3Dプリンタは設計しておかなけければならないことを痛感する。プリントしたものの精度が高いので、作図ミスも発見しやすい。この相乗効果は侮れない。私の作図の精度は、ここが原点だからね。まさか、プリンタの精度が作図の精度だったとは私が公開しないかぎり、誰もわからなかっただろう。

#05 誰にも参考にならないだろうと思う作図のやり方

図面を作図するには、訓練が必要だ。それも何度も何度も繰り返す必要がある。いい教材が必要になるだろう。アニメ攻殻機動隊の主人公(素子)が幼少期に機械で出来た義手を使うこなす訓練があった。それは片手で、彼女が鶴の折り紙をするシーンだった。それにインスピレーションを受けた。日本人のほとんどがよく知っている立体物の1つとして、折り紙は良い題材だと思う。これを図面化することにした。紙の厚みは、省略してゼロということで進めた。紙が重なり折り曲げたときの具合を再現しにくいためだ。2018年の私の作図の練習風景が未だにビデオで残っている。

SketchUpを持ってしても、なかなか折り紙の手順再現は難しい。別に書くこと自体が目的ではない。何度も何度も同じ作業を繰り返すことがCAD操作の習熟につながると思っている。実際、この書き方を考えるまで、いろいろな試行錯誤があり、操作を考え直す機会が多く合った。また、描いている途中に書き方をサッと切り替える機転も利くようになった。これを百回ぐらい繰り返しは、やっただろうか。そのうち、何も考えなくても勝手に腕が動き、手持ち無沙汰になったときに勝手に書くぐらいになった。CADに習熟するということは、このレベルまで達しないと習熟しているとは言えないと私は思っている。書き方をマニュアルで首っ引きで調べて、何とか書き上げるようなもんじゃないんだ。勝手に手が動き、鉛筆で画家が絵画をパッと書くぐらいの速度じゃないと意味ない。

3D作図は注意点が多すぎて、すぐに人智を超え始める。人間の集中力の限界を突破する鍵が、ここにあると、私はにらんでいる。高速な作図が雑な作図になることは、ないんだ。雑どころか正確な作図になる。書くこと自体を面倒な操作と思わなくなり、オペレーションに集中できるようになるからだろう。30分ほどで、使える程度の作図が量産できれば、作図自体に負荷を感じなくなると思われた。これが、私の早描きの始まりだった。周りのオペレータで、そんな人間がいれば、その人の操作を確認したほうがいい。そして、ビデオで撮影して、自分のものにしよう。

何人か特別に教えてみたら、2分間で書き終わる子もいたよ。ただし、私のビデオを延々と見てから練習したから、自分ですべての操作を考えたわけじゃない。オリジナル操作は全て私のコピーだ。たぶん、オリジナルをゼロから作り出すことは、無理だろう。私がオタクすぎるから、たまたま出来ただけ。他人に教えると、新しい操作法のヒントが貰えることがある。現在、私がCADの操作を教える動機になっている。日々、操作法は進化しなければならない。一度書けた。一度書いたことがある。そんなものは、何の勲章にもならない。くだらないプライドは捨てたほうがいい。

#06 なぜかネジを使わない人だらけ、なぜネジを作ろうとするのだろう

Thingiveseで、かなりの設計を見ている。気になったことが1つ。なんでこうも市販のネジを使わない設計だらけなんだろう。工作機械としての3Dプリンタは、あまり大したことがない。夢の機械のように言われて宣伝されている割には、雑な仕上げ面だったり、プリント品の強度が大したことがなかったりと、大騒ぎするほどじゃないよ。すべての機能を一体型にする3D設計はあるけど無理がある。ネジを使わず、工作するのは私にとっては、理解できないことだった。

パーツが大きくなると、分割したくなる。一部だけ交換可能にしたいことだってあるんだよ。だから、わざわざ ネジを使ってない設計を狙って、リミックスばかりしていたときがある。ネジって安いんだよ。特に、3Dプリンタで作るパーツに対して使うネジは、ほぼM3ネジで十分だろう。ネジの長さはいろいろある。私は、M3ネジの長さ6ミリから40ミリまで、市販されている種類は、すべて棚に並べてある。お金かかるって? それはないな。1万円もかかってない。工作の投資としては安い部類でしょ。必要なネジだけ買えばいいという考えもあるんだけど、個別に買うほど高い買い物になる。

工場見学をすることがあった。そこで、ネジの棚をつぶさに見る機会があった。仕事で使うネジはすべて揃っていた。工場だからね。はっきり言って羨ましかった。俺もそうしようと、使うネジを全種類、余分に買うことにした。自分としては思い切った決断だった。設計するときに、必ずネジの長さが問題になる。在庫にあるかどうか。設計のボトルネックになり、図面が書けなくなることがある。入手できるネジの長さは決まっているけど、全種類あると、どう設計しようが、面白いことに、ぴったりと合うネジがあるんだな。設計時にネジの長さを書かなくなった。長さの合うネジを組立時に選んで使えばいいからね。ネジの長さを自由にはできないが在庫でカバーできるわけだ。設計作業がすごく楽になった。ネジを図面に書くのが面倒でやめたぐらいだ。さらに、ネジの取り付け穴すら省略するワザまで覚えた。ネジもネジ穴も設計時に省略できる場合は書かない。組み立てする人間がわかればいいんだ。

後で知ったことだけど、これは業界では当たり前だった。設計を楽にするためだけに、ネジを全種類買う必要があるんだ。これはブレークスルーになる。素人がよく使うネジカッターは持っているんだけど切ったネジは、管理が面倒で再利用できなくなる。ネジを使わない設計が多かったのは、幼稚な設計にも原因があった。それは次回の話にしよう。金属パーツを混ぜることで、3Dプリンタを使った工作範囲は広がる。3Dプリンタで作るパーツは、組み立てするパーツとパーツの間のジョイント部分にすごく有効だ。そこを理解するだけでいい。

#07 幼稚な設計、パーツ1つだけ

Thingiveseにアップロードされている設計をザッと眺めると、金属パーツとの組み合わせが、苦手な人が多くいるように感じる。残念だけど、これは金属パーツに限ったことじゃなかった。プリントパーツの組み合わせも、そして、実際にプリントしたパーツの活用しているときも同じことだった。設計の初心者にありがちだけど、製作に困っているところだけ、たった1つだけ設計をすることが多い。設計が自由にできる3Dプリントパーツは、なんとか設計できても、その他既成パーツには、全く対応できてないって感じだ。設計は全体設計が出来て、個々のパーツの設計が続く。簡単に書くと既成パーツの図面化が下手なんだろう。ネジも既成パーツの1つで、ネジすら設計に取り込むことに失敗しているパターンだ。既成パーツのCADデータは、だんだんとネットでダウンロードできるようになっている。ところが、その図面の品質が悪いことが多すぎる。素人設計者にとって、高すぎる壁になっている。

既成パーツの図面化は、かなりのテクニックを要する。メーカーの図面が設計時と製作時に違っていたりする。ロットによって、位置が違ったり、使っているCADに対応してないデータ形式だったりと、素人が対応できるもんじゃない。STLファイル化しているモータのデータが時々、Thingiveseにアップロードされているけど、笑ってしまう精度だったりする。だいたい、穴の位置なんて、どうやって推測するんだろう。それもSTLファイルから。私は簡単なんだけど、一般的にできるわけないじゃん。譲って、全体設計までは、しなくても、設計した3Dパーツが使われるところを想定した図面になっているだろうか。ほとんど、そんな余分なことをしている設計者がいないと思われる。私がリミックスしまくって、修正しまくっている経験から導き出した。

最近は、ダメな図面を見ても何も感じない。私が修正を入れなかった図面が今までないからだ。私がリミックスしたデータは、なんらかのデザイン上の問題点を抱えていた。ようは、個別の3Dパーツの設計だけで、ギブアップ直前って感じだ。パーツをプリントしてから、後は組み立ててなんとか当たりを見て、不具合があれば、その都度、図面を修正して、長いプリント時間待ち、失敗すればやり直しと、私もたどった道だ。この設計パターンは破綻する。

#08 千分の1ミリのチャレンジの始まり

既存パーツのライブラリ化が、ある程度進んだときに、私はふと思う。PCの上だけで、仮想で、設計全部ができないだろうかと。2017年からのチャレンジになる。あくまで、空想のもので、どんなものが必要になるか、どんな訓練が必要なのか、そんなものは全くわからなかった。とにかく、やってみたかった。だってかっこいいじゃん。動機はそんなもんだった。図面の精度は、0.1ミリじゃ足りない。円弧でパーツを配置すると、0.1ミリじゃだめだ。0.01ミリでも、半端な数値が出てきた。0.001ミリだとある程度使えた。もっと細かくという心の声があったけど、なんせ数値が細かくなるに従い、位置を指定するためにテンキーを押す回数が途端に増えた。よって、ここまでだった。

これが、千分の1ミリ設計の始まりだった。3Dプリントパーツの千分の1ミリ設計も、やったことがないのに今から思えば無茶なことだ。図面にある既存のパーツも、3Dプリントパーツもすべて、XYZ軸が千分の1ミリの軸にピタリと揃う瞬間を目指して、私の挑戦が始まった。 最初のうちは、簡単に設計ができそうな気がしたんだ。CADプログラムは、設計者の能力を補完する。賢くしてくれるわけじゃなかった。あくまで、設計者の頭の中をきれいに表現できるだけだ。何でもできるという素人丸出しの全能感だった。設計の勉強の仕方は、本を読めばいいだろうって、そんなものはあまり意味がなかった。設計の教科書はあるけど、私の望むようなテキストは存在しない。

試行錯誤で3年がたった。2019年に私の夢をかけた設計が始まる。毎日、夜遅くまでひたすら図面を書き続ける。自作スクリプトや、自作ライブラリがある程度、完成しつつあったからだ。私は狂気に取り憑かれていたのかも知れない。嫁さんは、私が恐ろしい顔をしてパソコンをにらんでいる私を見てゾッとしただろう。その時、大問題が起きる。

いくら見直そうが、千分の1ミリに揃わない図面ができてしまった。また、やっちまったぜ。例年この問題が出るんだ。作業をいくらやっても、もぐらたたきのように数値がズレていくんだ。まさしく泥沼だった。設計時間を大幅にオーバーして、ズレを許容しつつ、最終組立して、ロボットを完成させた。設計は千分の1ミリだから、0.1ミリずれようが無理やり組み立て出来ないことはない。プリンタの精度もそんなもんだったし、設計も0.1ミリのズレは問題ないと言えば問題ない。あれ、千分の1ミリ設計をやってんだったよな私は。しばらく、最終組立で0.1ミリのズレを許容することになる。現物の設計に、まったく作図技術が追いついてなかった。

これはかなりのストレスだった。これが、ずっとずっと続く。ストレスも最大で、図面が一時的に書けなくなった。書けないもんだから、何故か足を掻きむしった。ズボンを履いていたら、職場の人には気が付かれなかった。常に両足は血だらけだった。気がついたら掻いていた。ひどいもんだ。嫁さんだけは、このことを知っている。私がひどい足をしていたから。2020年まで、図面はところどころズレたままで、技術的に何も進歩が無いかのように時間が過ぎた。

#09 角パイプの魔術師の始まり

3Dプリンタを手に入れると、何でも作ろうという気になる。全部、この技術で作ろうという気持ちになる。これは、フィラメントの無駄だろう。3Dプリントするには時間がかかり、プリント時に失敗する確率も高い。時間だけが過ぎていくことも多い。3Dプリンタの隠れた罠は、設計しないと自分の思うものが作れないということだ。設計の沼がちらりと見える。現在の3Dプリンタの性能だと、100ミリ角ぐらいが限界だと4章で述べた。実用的な限界だと、もっと小さなものになる。小さなものじゃないと、プリント時間がかかりすぎて、製作に手間がかかりすぎる。私は、長さが必要なところは10ミリのアルミ角パイプを多用している。これは、合理的な設計だ。さらに、面が必要になればレーザー加工機でアクリル板を貼り付ける。常に合理的な設計を考えよう。

角パイプを使った設計は、6年ほど前に開発済みだった。しばらく、この技術は極秘だった。6年経過して、もういいだろうと、2020年夏に世界中に向けて公開した。 角パイプを使った設計は、自由度が高く、3Dプリンタの可能性を感じさせるだろう。コロナ禍で、病んだ世界に私からの小さなプレゼントのつもりだ。技術公開しなさいという圧力があったわけじゃない。負荷がかかって、壊れることもある。プリントパーツを交換すれば修理は効くし、角パイプはそのまま再利用できる。刻んで短くなりすぎたアルミの角パイプは溶かせばリサイクルできる。私は角パイプを1mの長さだと、110円で買える。材木より安いぐらいだ。いまのところ、勘のいいロボットオタクしか気がついてないかも知れない。モノづくりを、かなり変える技術だと私は思っている。私は、自動で角パイプの長さを測りカットするマシンを作っている。残念だけど、まだ未完成だ。どこかのメーカーとコラボしてもいいよ。

面白いことに、角パイプは回転する軸としても使うことができる。丸棒だと動作中に回り止めネジが外れて、軸と一緒に共回りして動かなくなることがある。そんな不具合がなくなる。実際に設計している。角パイプに対応した変形軸受も3Dプリントできるから高価なベアリングは要らない。 Thingiveseにて公開している。強度が足りない場合は、15ミリ角パイプを使えばいいだろう。もっと強度が必要ならば20ミリを使えばいい。設計のスケールアップも実際に設計して公開している。あまりに自由度が高くて、激安でメカが作れるため、世界中のロボット教材メーカーが商売に困ることになる気もするけど自由にしていい。商売にすればいい。ライセンスも不要だし、許可も要らない。結構なビジネスチャンスになるだろう。私の設計したパーツが世界中のロボット競技大会で実際に見られるだろう。それをネットで見るのが楽しみだ。

願わくば、小学生が私の技術で、突然勝ち上がって欲しい。高校生のライバルなんて、泣かせてしまえ。今後も角パイプを使ったロボット設計は、次々と公開していくから注目して欲しい。私の設計速度は迅速で、楽勝で図面を書き続けるだろう。ストレスがないのだろう。今の私の足はきれいなままだ。

#10 無謀な作図チャレンジ

2020年の3月コロナ禍で暇になった。何もやることがない。家の外に出かけられない。だからというわけじゃないけど、今まで積み残したものを片付けていくことにした。作った作品をThingiveseにアップロードしまくった。そのうち、ついにネタが尽きた。何も作るものが思い浮かばない。そこで、他人のデザインのリミックスを思い立った。他人のデザインのダメ出しをすることになる。反感をもらうこともあるかも知れないけど、とにかくやってみた。するとだ。思わぬことに感謝されたのだ。変な感じだった。調子にのった私は、違和感を感じたデザインを見つけて、片っ端から修正していった。 Thingiveseはアップロードされたデザインを検証して修正する奇特な人が今までいなかったのだ。

これはイケると感じた私は、さらに無謀なことをやり始める。自分だけのオリジナルコンテストを開催する。これが、私の1000件デザインコンテストの始まりだった。他人のSTLファイルを見て、修正する特殊技術がいくつも生まれた。その技術は、急速に進化する。そのうち修正する技術がついに頂点に達する。苦労していた千分の1ミリの作図ミスを直す技術をついに発見する。すげーよ。私の的確な作図技術は、こうして完成することになった。そんな訳で、特にデザインコンテストを続ける理由もなくなった。最近、作図をサボっている理由だな。調子にのってるから惰性で、これからも自主的にコンテストを続けるだろう。3Dプリンタを活かした設計は新しい技術なので、誰も正解を教えてくれる人がいない。私はすごい教材と環境を手に入れたのだ。世界中のSTLファイルがすべて教材になって、技術的に再現できないことは、もうないだろう。私の設計が的確すぎて、他人になぜこの設計にしたのか説明するのが、もう面倒になった。もう、誰も追いつけないだろうと思いつつ私は、加速度が付いた状態で作図を続ける。

今までの苦労は、ついに報われた。現在、私の過去30日間のThingiveseのダウンロード数は5Kに達している。最近、あまりアップロードしてないのに、この数を保っている。的確な設計、現実的な設計、実現可能なモデルが求められている。

#11 なぜ皆さんはSG90が、そんなに好きなんだろう

Thingiverseにアップロードした作品のうち、変にダウンロード数が上がりやすいコンテンツがある。それはSG90という小さなサーボモータに関するものだ。私から見ると、なんということもないデザインがある。Thingiverseには、模型好きのSG90ファンがいっぱいいるようだ。だったら、SG90に関するデザインを全て書き起こしてやろうという自分勝手プロジェクトをスタートさせた。

これが、後々1000件デザインコンテストにつながることになる。あらゆるSG90サーボモータの取り付け方法に対応するマウントの設計を見直した。ここで問題となるのは、サーボモータの雛形だ。ネットにある情報は、かなりいい加減でサイズが杜撰だった。取り付け穴の直径など1ミリ単位で振れている。私は、2年ほど前から SG90サーボの雛形を持っていいたが、設計のたびに不具合があり、マスターとも言えるライブラリを更新してなかった。モータマウントを設計後ズレを確認するたびに修正を重ねることになる。実に面倒くさい。マスターの雛形が違うと、プリントの公差も読めないし、取り付けそのものができないこともある。

そして、一番面倒なのは、過去にSG90を使った設計の図面を全部、修正する気の遠くなるようなメンテナンス作業だった。これを楽にする技術が生まれるきっかけになる。かなり後の話で、そのときの私の手作業は減らなかった。 このコンテストの最初の作品が、これだ。このシリーズは、アルファベット順に、現在SG90-Mまで続いている。この中で、一番特徴的なのは、SG90-Eだろう。このデザインは、相当悩んだ。SG90サーボモータの軸のギアは、とても小さな山で、これをなんとか3Dプリンタで作ろうというオタクたちに挑戦した私の威信作だからだ。見てもらえば分かる。ギアの生成方法そのものが全く違っている。世界中で誰も実現できなかったことに私が見事な技術解答をした作品だからだ。何の反応もないけど、これは私が今年一番の技術革新だと思っている。この技術をその後、使いまわしている。どこに使ったか忘れたぐらいだもん。この技術によりSG90サーボモータを3Dプリンタパーツでうまく使えるようになった。正に技術革新だ。誰も経緯を知らなかっただろうし、私の小さな一里塚なので、特別に紹介させてもらうことにした。

#12 Thingiveseに投稿するときの心得

いよいよ、長い長い私の3Dプリンタのオタク話も最後になった。私の技術的な背景を理解してもらえただろうか。3Dプリンタの設計については、かなりのオタクだと認識してもらえたと思う。最後は、Thingiverseについてだ。新規ユーザ登録も簡単で、バイナリファイルをアップロードし放題のダウンロードし放題というある意味、驚異のサイトとして君臨することだろう。2段階認証が無く、いい加減だけど、なんとかスパムの標的にはなってないようだ。私はダウンロード数にはこだわっている。しかし、これを偽装するユーザがいるのは、なんだかなぁと思うことがある。

私は、かなりがんばっている。でも月間5K止まりだ。これを軽く超える人気コンテンツを探したことがある。お笑いのようなデザインが100Kダウンロードだったりする。どうみても偽装だろう。個人の趣味だろうと思う。でも私は尊敬できない。さて、長い話は一旦終わろう。ときどき素敵なデザインができたら、Thingiverseへこれからもアップロードすることにする。世界中のオタクとの技術的なやりとりは面白い。変なデザインを見かけたら、私が直すから気にせずアップロードすることだ。あっという間に訂正されてしまうこと間違いない。オリジナルより、より良く改変してしんぜよう。おしまい。

@imaicom