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    コミュニティのメンバー
    総勢100人で
    本を作る方法

    2019.12.13

100人で本を作ったら…

それはまぁ予測不能なことが起こります。コントロールできないし、できるわけがない。

だけど化学反応が起こって、想像を超えたモノが生まれる可能性がある。これは、そんな貴重な体験ができたと思えた本作りの話です。

まずは自己紹介から。

神田明神近くにある出版社にいたことがあり、そこからウェブメディアの世界へ。

今はさまざまな企業のオウンドメディア支援などを行っています。で、この半年は本業ではない本の制作も行っていました。

居心地の1丁目1番地』です。

この本は、「コルクラボ」というオンラインサロンのメンバーが中心になって制作していて、僕は編集長として関わりました。かなり特殊な作り方をしているので、主なところを書き出してみますね。

・総勢100人くらいが本の制作・広報に関わっている

・ライター、編集、デザイナー、みんな無償で作っている

・クラウンドファンディングで200万円以上を支援してもらった

・本が完成する前に735冊を届けられる状態になった

・オンラインサロンの内輪話だけど、一般の人にも届くような構成を目指した

あらためて無茶なことをやったなぁ、と思いますが、本作りの過程も「そんな方法で進めるの!?」と驚きの連続だったんですね。

コミュニティのプロジェクトで本作りをしたらどうなるのか、そんな実験的な試みでもあり、また関わったメンバーの8、9割が本作りの経験がないので、出版の常識にとらわれない発想が出てきやすかったのだと思います。

もちろんきれい事ばかりではなく、たくさんの衝突もありましたが…。100人以上で本を作ろう、なんて思う人は少ないかもしれませんが、試行錯誤だらけのなかでの発見をお伝えしていきます。

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◎『居心地の1丁目1番地』とは?

「居心地のいい居場所」をどうしたらつくれるのかをテーマに、コルクラボのメンバーが中心となって制作。2019年6月から本の制作がスタートした。現在、「コルクショップ」のほか、「BOOK LAB TOKYO」(渋谷)、「青山ブックセンター」(表参道)にて販売されている。

◎コルクラボとは?

コルクラボは、『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などの編集を担当する佐渡島庸平が手がける、オンラインコミュニティです。2017年1月から始まったコルクラボは、「コミュニティを学ぶコミュニティ」として、職種がバラバラなメンバーが集まり、会社や家族につぐ“第三のコミュニティ”を作っています。

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本作りの常識からほんの少し逸脱した8つのこと

コミュニティだからこそできた本作りの方法について、8つのポイントに絞ってみます。

①インタビュー記事が豪華

インタビューでは、東畑開人さん、古賀史健さん、たらればさん、乙武洋匡さん、前田高志さんらに話を伺うことができました。ここにコルクラボ主宰の佐渡島庸平さんのインタビューも加わるので、客観的に見ても豪華だなと。

インタビュー申請時の企画書には熱い気持ちをこめようと、かなり練りながら作成しました。このテーマで、なぜこの人にインタビューするのか、メンバー間で話しあってインタビュー対象者をピックアップ。熱意があるメンバーから意見をもらいながら、企画書を作成しました。元からコルクラボとつながりがある方もいましたが、取材OKをもらったときはお祭り騒ぎでした。

②本のタイトルをワークショップで考えた

本のタイトルは、コルクラボの30人ほどのメンバーでワークショップを行うことで、候補を出していきました。コルクラボに所属している現職コピーライターに仕切ってもらったのです。

ワークショップ中には、さまざまな問いが投げかけられました。「本をだれに届けたい?」「あなたにとってのコルクラボはどんな場所?」「このあと5年、10年で居場所問題はどうなる?」……。オンラインのコミュニケーションツールSlack上で500近い投稿がありました。みんなの熱量すごい。

そこからコピーライターが、13個のタイトル案を書き上げていきます。編集長として最終決断を行って、『居心地の1丁目1番地』にしましたが、たくさんの人の思いがこめられたタイトルになっています。

③複数人で記事を編集した

1記事に対して、最低2~3人は原稿を見るようにして、編集・ライティングのプロが1人は入る体制を組んでいきました。

気になった点があればどんどんコメントを入れてもらいます。これがめちゃくちゃよかった。

編集が1人だと気づけないことがあったりするので、「確かに!」と思える指摘がいくつもありました。

意見が多すぎて錯綜する場面もあったものの、読者目線が入りながらも、しっかりとした記事に仕上げることができたと感じています。

④文字起こしがスピーディーだった

細かい点かもしれませんが、驚き度が高かったのが文字起こしのスピーディーさ。2時間近くあったインタビュー音源を、5~6人で15~20分ずつ担当してもらって文字起こしを進めてもらいました。

すると中1~3日で仕上がってくるんですね。「インタビューおもしろかったー」なんて感想ももらえるのです。

⑤デザインがバラエティ豊か

本のデザインは、「前田デザイン室」に担当してもらいました。「前田デザイン室」は元任天堂の前田高志さんが率いるオンラインサロンです。

コミュニティ同士のコラボレーションで本を作るというおそらく前代未聞の試みでした。

本文のデザインは、初めは20%のラフ案で提出。そこからデザイン・原稿をブラッシュアップしていき、40%、60%、100%と精度を上げていく方法が前田さんから提案されました。

これは、「前田デザイン室」のメンバーで手掛けた雑誌『マエボン』でやっていた方法とのこと。これにより、デザイナーさんとのやり取りが何度も生まれるようになるんですね(実際はバタバタな進行になりましたが…)。

デザイナー20名以上とやり取りしながら進めていき、最終的には本としての統一感がありながらも、バラエティ豊かなデザインになっています。

パラパラするだけでも楽しい!

装丁は、本のチーフデザイナーでもある安村シンさんに担当していただき、アートディレクションは前田さんで、以下の流れで進行していきました。

1.コルクラボ側から本のイメージを伝える

・やわらかくてあたたかみがある

・社会の中での孤独感や違和感がある

・思想書のような知的な雰囲気がある

2.前田さんがコンセプトをまとめる

・「居心地」の本

・知的、文化的、でもメジャー感

・力んでない、緊張感の反対

・コミュニティのコミュニティ=コルクラボが作った本

3.安村さんがいくつかのデザイン案を出していく

右下のイラスト「居心地くん」は、「前田デザイン室」のセキトさんが作成。

プロセスも公開されて、なぜこのデザインなのか把握できたのは、ものすごく刺激的でした。

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◎前田デザイン室とは?

元・任天堂デザイナー前田高志と共にクリエイティブを楽しむ集団。グラフィックデザイン、動画、Web、ライティングなどを手掛ける未経験者からプロまでの多様なメンバーで「おもろ!たのし!いいな!」の行動指針のもと、世の中に新しいクリエイティブを大量投下していく。

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⑥校正・校閲を30人体制で行った

校正・校閲はなんと30人体制! 統一表記表を2、3人でカッチリ決めてから、そこから校正・校閲チームに展開していきました。

Googleドキュメントの修正履歴・コメント機能を使って、原稿に対しての疑問や赤字をどんどん入れてもらいます。校正・校閲の経験がなくても参加OK。コルクラボ・前田デザイン室内で広く募集しました。

Googleドキュメントを使った方法は、前田デザイン室の赤松翔さんに、コミュニティで本を作った経験から、アドバイスをいただきました。

『NASU本 前田高志のデザイン』制作者たちの裏側 第5回 あかまつ しょう

⑦クラウドファンディングで200万円以上を支援してもらった

印刷代を含めた本の制作費を集めるため、クラウドファンディングを行いました。これが大成功! 期間は1ヵ月未満だったものの、最終的に200万円を超える支援額が集まりました。

本の制作と同時に、マーケティングも進行していきました(このあたりは、ほぼノータッチなのですが…)。

⑧本の完成と同時にSNSに感想があふれている状態に

クラウドファンディングで本を購入してくれた方が、「届いた!」「「読んだ!」という感想をたくさんあげてくれて、本の完成と同時にSNSでは感想ツイートがあふれている状態になっていました。これはうれしい現象でした。

初版1,000部を刷りましたがすぐに在庫僅少。しっかりと本が届いた状態になっているのは、とても恵まれているなと思いました。

コルクラボ本『居心地の1丁目1番地』感想まとめ

100人での本作りで気をつけておくべきこと

さて、ここまではうまくいったことをお伝えしてきましたが、それはまぁ大変なこともたくさんありました。

コミュニティで本作りをすることのツラさを日々実感…。気を付けるべきことはなにか、自戒を込めて3つに絞ってまとめてみますね。

①しつこいほど情報共有を行う

情報共有の方法は、最後まで苦戦しました。関わるメンバーが100人を超えていて、入れ替わりもあります。

記事制作だけでも、執筆・編集・デザイン・校正校閲などの作業があり、ほかにも印刷、クラファン、広報と、やるべきことが多岐にわたっています。

それぞれのルール整備や情報更新が必要になるので、情報共有は「もういいよ」と言われるくらい、しつこく行うべきだなと思います。

②それぞれの作業スタイルをつかむ

各メンバー、本業やプライベートの時間がありながらコミットしているため、合間を縫っての作業になります。

つまりフルコミットできるメンバーがほとんどない状態で、タフな作業をこなさないといけないのです。

そのため、各メンバーの作業スタイルをつかむ必要がある。稼働しやすい時間帯はいつか、今気になっていることはなにか、やるべきことの優先順位をどう考えているのか、このあたりを把握しておくとお互いのストレス軽減につながると感じています。

③ひたすら情報発信する

いま作業としてなにが足りないか、といった情報発信はもちろんなのですが、どんな思いで本作りをしているのかは、伝えていかないといけないなと感じました。

仕事だったら、そこまで伝える必要はないのですね。やるのが当たり前だから。でもコミュニティで本作りするときは、作業がツラかったら離脱だってできます。だから、「なぜこの本を作るのか?」を定期的に問われる状態になる。

自分の状況を知ってもらうことで、周りのメンバーがどのようなモチベーションなのかを教えてくれる場面もありました。

僕自身は情報発信が苦手なほうなので、もっとやるべきだったなという反省をこめてそう思います。

100人だから枠に収まらないモノが生まれる

あらためて、怒涛の日々でした…。どういう本にしたらいいのか、メンバーがどんな思いで動いているのか、こんなに話しながら本作りをしたことはないなと。

良いことばかりではなくて、膨大な時間がかかったし、議論が紛糾したことは一度や二度ではありません。

大勢の人が関われば関わるほど、大変な状況が生まれます。ただその一方で、クリエイティブの面では、枠に収まらないモノができるのではないかなと。

1人で考えて思い通りに作るのとは違って、自分でも予想ができないモノが生まれていくんですね。

100人それぞれの思いがこもっているから、少しずつ予想を超えていく。そしてみんなの思いが「本」という1つのモノに収斂していく。

本の作り方・届け方について、ほんのちょっと可能性を広げることができたのかなと思っています。

高林 勇秀

神田明神のすぐそばにある出版社にて、スポーツや育児といったジャンルの書籍・雑誌の編集業務を経験。その後、ハウツーサイトnanapiや仕事情報サイトの運営に従事し、現在はナイル株式会社にて企業のオウンドメディア支援・コンテンツ制作を行っている。コルクラボの本『居心地の1丁目1番地』編集長。娘が2人。

Twitter:https://twitter.com/takataka578

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