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この記事は、Wikipediaやグーグルのページランクなどの事例を元に、「集合知」の概念がもたらす社会へのとてつもないインパクトについてまとめた書籍「群衆の知恵」の要点を踏まえて、僕が取り組んでいるブロックチェーンを利用したDAOを実現していく上での重要要素について、僕の見解をまとめたものです。
なので、「群衆の知恵」も読みつつ、この記事と、更に、組織の抱える潜在的な問題点についてまとめた「こちらの記事」と「こちらの記事」を一緒に読むとより理解ができると思います。
「群衆の知恵」は、素晴らしい良書です。これからの時代ますます重要になってくるでしょう。一読をススメます。
優れた集合知は、一人の天才より、精度の高い成果を出す
百聞は一見にしかずということで、「群衆の知恵」に出てくる優れた事例を二つ紹介します。
エピソード①:イギリスの牛の見本市で行われた雄牛の重さを正確に当てた個人投票
1906年、イギリスにある町、プリマスで開かれた牛の見本市で、ある丸々と肥えた雄牛の重さを当てるコンテストが開催された。少額をかけてコンテストに参加し、当たった人が賞品をもらえるというものだった。そして、この予想ゲームに800人が参加した。参加は自由だったので、食肉店など業界関係者もいれば、一般人も入っていた。そして、結果はというと、800人がそれぞれ投票した予測値の平均値は、1,197ポンド。実際の重さは、なんと1,198ポンドだった。1ポンドしか違わなかったのだ。
そして、もう一つ。このブログの読者には投資をやっている人が多いので、株式相場の事例の抜粋を紹介します。
エピソード②:スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発原因を正確に当てた株式相場
1986年1月28日11時38分、スペースシャトル・チャレンジャー号が、フロリダ州ケープカナベラルから発射された。74秒後、チャレンジャー号は、地表から16キロの上空で突如爆発した。
このニュースが流れた直後から、このチャレンジー発射に関わった主要企業四社の株式が下落を開始した。その4社とは、シャトルとメインのエンジンを担当したロックウェルインターナショナル社、地上支援はロッキード社、シャトルの外部燃料タンクは、マーティン・マリエッタ社、固体燃料ブースターは、モートン・サイコオール社という役割分担であった。
爆発から喪に服す間もなく、21分後、ロッキードの株価は5%ダウン、マーティン・マリエッタは3%ダウン、ロックウェルは6%ダウンとなった。その中、最も下落幅が大きかったのは、モートン・サイオコール社だ。モートン・サイオコール社は、その日は、取引停止扱いになるほど投げ売りが入った。結果、下落幅は12%に達した。一方、残り三社は、その後持ち直し、2%ダウンにとどまった。
そして、政府が原因究明のため立ち上げた専門家集団による調査委員会は、6ヶ月後、爆発事故の原因が、固体燃料ブースターであることが発表され、サイオコール社が責任を負うことが明確になった。
すごいですよね。少数の専門家が出す答えより、多数の個人の答えを平均化したもの方が精度が高いということです。これが、「集合知」のもつ威力です。
しかし、このような優れた「集合知」の力を引き出すには、きちんとノウハウが存在します。この二つのエピソードは、いずれも、このノウハウがしっかりと組み込まれた形で実施された結果予想ゲームだからこそ、優れた「集合知」が形成されたのです。
では、そのノウハウとは何か? この書籍では、膨大な量の事例を分析した結果、それが4つであることをつきとめます。
優れた集合知の形成に重要な「多様性」、「独立性」、「分散性」、「集約性」
まず、「多様性」です。今の日本のように同一民族社会は、200%優れた「集合知」を形成することは不可能です。ものの考え方や価値観がお互いに似通っているため、統計的な偏りが生じてしまうからです。文化、ライフスタイル、職業など、多種多様な人が、集合知l形成に関わることで、その精度が上がるということです。
次に、「独立性」。一人一人が、他者に依存せず、その意思決定を完全に独立した状態で行なっているという条件です。組織という存在は完全にこれを破壊する意思決定行為ですね。わかりますか?なぜなら、お互いに経済的に依存するからです。例えば、選挙における「票田」という概念も完全にこの「独立性」に反する考えです。組織的に投票するからです。個人の独立した意志がそこに反映されていないからですね。先ほどの二つのエピソードは、いずれも個人が、自分の金儲けのために、それぞれの意志で予想ゲームに参加しているため、一切、徒党を組んだ行為が発生していません。つまり、このようなゲームルール設計が、優れた集合知形成で必要ということですね。その点を踏まえると、日本人が好きな「合議制」は最悪な意思決定モデルであるということです。なぜか?お互いがお互いの顔色を伺う現象が伴うからです。つまり、自分で考え、自分で決めるというルールが合議制では全く働かなくなってしまうということです。
そして、「分散性」。地理的な意味も含めて、一箇所に集約された状態で、集合知を形成させるのではなく、なるべく、分散した状態、一言でいえば、世界中の人々がそれぞれ関わって意思決定する形が、優れた集合知を引き出すということです。この点は多様性にも通じることですね。地理的な差異は、文化や価値観の差異を生み出すからです。しかし、分散したままでは、最終的な集合知形成が行われません。
だから、最後の4つ目、「集約性」が重要であるということです。株価を決める行為も、ゲームルール自体が、「集約性」を持っていますね。雄牛の重さを当てる予想コンテストも同じです。選挙も同じです。何を決めるかのアジェンダが明確になっており、そのアジェンダを決める際に投票行為も含めて、各自の答えを集約するゲームルールがそこに組み込まれている必要があるということです。
だから、日本人が大好きな、会議室に集まって、ひたすら合議して、決まったか決まってないかよくわからないけど、時間切れだからなんとなく解散するという行為を繰り返している日本企業の経営スタイルは、優れた集合知形成から考えると、恐ろしく愚かな意思決定方法であるということです。衰退していくのは必然ですね。
結局、こういう行為を続けていくとやがて歯車が狂いはじめ、業績が悪化し、倒産の危機を迎えるわけです。結果、果断のできる胆力のあるリーダーに、ドラスティックな経営をしてもらって立て直してもらう羽目になる。ゴーン氏に舵取りをお願いした日産はこの典型と言えます。
日本人が、嫌いつつも結果的にカリスマ経営者を好む傾向にあるのは、これが組織運営の根底にあるからです。つまり、そもそも自分たちで優れた集合知を形成するノウハウを持っていないから、結局、強力なリーダーに全てを委ねることになる。しかし、リーダーは個人ですから、集合知の基礎から考えれば容易に想像できることで、判断が正しいときもあれば、そうでないときもある。だから、多くのその人で働く人は、リーダーに対して徐々に不満を覚える。判断に当たり外れがあるからです。一人の人間なのだから当然です。彼の判断は「集合知」には基づいていない。今回のゴーン氏も、本人の拝金主義も合間って、やがて、日産の幹部の不満が頂点に達し、追い出されることになった。
しかし、僕の目から見れば、原因は、そのリーダーにあるのではなく、そのような優れた集合知を作り上げることができていない部下も上司も関係もない人類全体にあるということです。
参考までに、実際、この4つの性質を踏まえて、この「群衆の知恵」の中でも、取り分けて注目されている「予測ゲーム」を実際にプロダクト化しているブロックチェーンプロジェクトが、Augurです。僕のAugurのトークンREPの投資評価については、「こちらの記事」にまとめています。
ビットコインをモデルに、4つの要件を満たすDAOを如何にデザインするかを考える
ですから、DAOを構築する上で、この4つの要素を満たすルール設計やプラットフォーム設計が非常に重要になってくるということです。勘の良い人であればすぐにわかると思いますが、参加者が日本人だけで構成されるDAOには、イノベーションとしての価値はゼロであるということです。参加者に多様性がないのだから、優れた集合知を形成できるわけがない。
例えば、ビットコインにこ4つの要素を当てはめてみれば、その、優れた集合知をポイントが具体的にイメージできます。ビットコインが扱っている問題は「信用」の問題です。何が経済取引の仲介媒体として信用できるのか。そのメカニズムを中央集権的ではなく非中央集権的に構築することを実現したい。それを実現する上で、まず、ビットコインは、完全にP2Pで設計されているため、「排他性」が存在しません。出入りが自由です。だから、必然的にビットコインに関わる人々には「多様性」が形成される。
そして、PoWによるマイニング報酬や、供給制限による既存のインフレ型の金融資産に対して相対的に高い経済価値をもたらすようにデザインされている点など、全て個人の経済的なインセンティブを行動動機の起点において設計されているため、いやがおうにも「独立性」が働く。
分散性は、多様性の場合と同じP2Pネットワークになっている点で満たされますね。そして、集約性は、シンプルで、「ビットコインの今の最適価格を決める」という株価や為替と同じメカニズムです。
これらの要件がみたっているDAOは、優れた集合知を形成することができるため、一人のリーダーに判断を全て委ねてしまうことによる政策失敗のリスクや、または構成メンバーに行動規範の偏りがあったり、メンバー同士が徒党を組んでいるため互いに経済的な依存関係が強く生まれてしまっていることにより、意思決定に歪みが生じるということがなくなり、結果、システムとしての持続性が非常に高くなるということです。
たとえば、栄枯盛衰の激しいインターネット業界で、ウィキペディアがインターネットの黎明期から変わらず、世界で唯一のオンライン百科事典かつ世界第5位のサイトの地位を維持し続けているのは、ウィキペディアのDAOがかなり完成度が高いという現れでもあります。競合を圧倒しているということです。完成度が極めて高いため、競合すら出てきてないですね。ウィキペディアがインセンティブ経済を持たず、ボランティア経済だけでこれを達成していることは、実は、僕が進める「奉仕経済」の観点を踏まえると、ビットコインより更に一方先を言っているのですが、この点は、また、別の機会に触れたいと思います。
話は少し話それましたが、それは要するに、DAOには、もはや「組織」という要素は一切排除されたものであるということです。
僕は、各アルトコインを分析する際にも、この視点を必ず見ています。成長のためには一時的に中央集権的に進めていく必要性がある時期もありますが、超長期的な視点で、いかに、このDAOとしての完成を目指すための布石を打って行っているかを精密に見ているということです。この打ち手の甘いプロジェクトは、短期的には成功しても、やがて、この点で優れた打ち手を打ってくる競合に完全敗北するということです。なので、僕のアルトコイン分析の評価軸における「トークンエコノミー 」の分析視点に常に「ガバナンス(DAO)」を組み入れているのは、そのためです。詳しくは「こちらの記事」を参考にしてください。
最後に、「群衆の知恵」の書籍リンクを再度貼っておきます。仮想通貨に投資している人は、ぜひ、読んだ方がいい一冊だと思います。
以上、みなさんの参考になれば幸いです。