最近、日本の企業の業績がどこもよろしくなく、給与も増えないことが多いので、独立して稼ぐことを考えている人が多いと思います。実は、このトレンド自体は、ブロックチェーン産業における最重要テーマの一つである、DAO(非中央集権型組織)を実現していく上で、追い風になっています。業界をゼロから立ち上げきている僕としては、この追い風は嬉しいことです。

しかし、本来、僕らが、組織を非中央集権化していく必要性があるのは、別に、企業の業績うんぬんではないのです。僕らが、本来、学び取るべきポイントは、「組織」自体が人を不幸にするということ。この点を理解することは、色々なアルトコインのプロジェクトの将来性を分析する上でも非常に重要です。なぜなら、そのアルトコイン自体の拡張性、持続性に大きく影響を与えるからですね。ビットコイン自体が、成功している一つの理由も、DAOとして完全に機能しているという点が挙げられます。インターネットの黎明期から世界第5位のサイトを維持しているウィキペディアの実力もまた組織が非中央集権化されているからです。ということで、今日は、この点を掘り下げて話をしていきたいと思います。

なぜ、「永続する組織」が存在しないのか?

まず、このことをきちんと理解してなくてはなりません。過去、企業に限らず、国家を含めて、様々な組織が、僕らの歴史上、登場しました。しかし、全て一定の時間が経過すると組織として崩壊しています。企業なら倒産するし、国家なら戦争で敗北する。その原因は、優れた後継者がいなかったり、新興の組織に壊滅させられたりと。組織が崩壊する理由は、大きく二つあると多くの識者は言います。内部要因と外部要因ですね。しかし、僕の目から見ればこれは完全に間違っています。組織の崩壊要因は、全ての場合において、内部要因です。つまり、中からすでに崩壊しているということ。外部要因は、大抵の場合、最後の押しの一押しの役をやっているだけで、本来は、中からすでに崩壊が始まっているのです。

それは、組織自体にそもそも永続性がないからなのですね。これは、自然界を見ると答えがすでに与えられています。自然界全体は、一切、「組織」を持たずに運営されている。完全に非中央集権型であるということです。各自、自分たちの子孫の繁栄を一生懸命目指す中で、全体の秩序が維持されています。そこで、人間が作る組織のように、管理する側とされる側、もしくは、支配する側とされる側というような関係性は一切存在していない。

政府という管理者を作って、法律によって悪人が悪さしないように取り締まることが正しいという考えている人間からすれば、これは不思議で仕方のない事実です。しかし、眼前たる事実としてそこにある。

実は、我々は、組織自体が「悪」であるということを理解できる段階にようやく意識レベルが到達しつつあるということです。ということで、いかに組織が、「悪」であるかについて、話を掘り下げて行きます。

組織の問題点が、最も如実に現れたソフトバンク後継者問題

組織の「悪」を理解する上で、最近のエピソードですぐ思い浮かぶのは、この「ソフトバンクの後継者問題」ですね。創業者である孫正義さんが、「最も有力者後継者」といわしめたニケシュ・アローラ氏が、ソフトバンクに参加してから、出ることになるまでの約2年間です。

From Wikipedia – ニケシュ・アローラ(Nikesh Arora、1968年2月9日 – )はアメリカ合衆国の実業家。パロアルトネットワークス最高経営責任者(CEO)。元ソフトバンクグループ代表取締役副社長兼ヤフー取締役会長。元Googleシニア・バイス・プレジデント兼チーフ・ビジネス・オフィサー(CBO)。1968年にインドのウッタル・プラデーシュ州ガーズィヤーバードで生まれ、1989年ワーラーナシーにあるバナーラス・ヒンドゥー大学(BHU)で電気工学々士を取得すると渡米。ボストンカレッジで理学修士号、ノースイースタン大学でMBAを取得するとともにCFAも取得。フィデリティ・インベストメンツとパトナム・インベストメンツで通信アナリストとして活躍すると1999年ドイツテレコムに入社。2000年にはT-Mobile Internationalの関連会社T-Motion PLCを設立しT-Mobile欧州事業の最高営業責任者(CMO)や取締役をつとめる。2004年Googleへ入社し欧州・中東・アフリカ市場の事業開発責任者となり、2009年からはシニア・バイス・プレジデント兼チーフ・ビジネス・オフィサー(CBO)として営業・マーケティング・提携戦略の最高責任者をつとめた。

ニケシュ氏は、ソフトバンクに参加する前は、Googleの二人の創業者を覗く実質的なNo.2といえる存在でした。No.1は、現在、アルファベットグループを率いているCEOサンダー・ピチャイです。Googleのビジネスサイドの実質的なトップですね。彼を、有力な後継者がいないことに頭を抱えていた孫さんが、時間をかけて口説き、ソフトバンクグループに招聘しました。キャリアを見れば明らかに、孫さんが、彼に期待するのは自然なことです。僕も同じ経営者なのでわかりますが、ニケシュのような人材が手に入るのであれば、自分の給与を生活ギリギリレベルに落としてでも、自分が起こした会社の発展のために欲しいと思うほどの人材です。世界一流の経営者の一人と言える人材だからです。

なので、日本人の多くは、孫さんがニケシュに支払った高額報酬を羨んでいますが、日本経済の屋台骨ほどの会社と言える数万人の社員を抱えるソフトバンクグループを作り上げた孫さんからすれば、ソフトバンクを彼がいうよう300年続く会社にしたいという想いを実現する上で、不可欠と考えるのは自然なことです。

なので、孫さんはニケシュにソフトバンクグループの代表取締役副社長とヤフーの取締役会長というポジションまで用意した。実質的に後継者としての申し分ないポジションを用意したわけです。

しかし、たったの約2年で、実質的に彼をクビにするような形で出すことになる。ソフトバンクより圧倒的に格上のGoogleのNo.2のポジションを捨てて、ソフトバンクに人生を賭けたニケシュからしたら「おい。孫さん。何だよ、そりゃ。」というレベルの話です。

しかし、時系列でおうと、そこに「組織が悪である」ヒントが大いに隠されているのですね。

僕が最も納得が行ったのは、ニケシュの退任イベントの1年前に起きた、折り返し地点、孫さんが2015年6月に実施した「ソフトバンクの既存幹部の一斉解任」というイベントです。

ソフトバンク、幹部一斉解任で社内に波紋&不満噴出 孫社長の暴挙か

2014年10月にニケシュ氏がソフトバンクグループに参加してから8ヶ月後に起きた出来事です。そして、ニケシュ氏はその1年後にソフトバンクを出るはめになります。

孫さんは、この判断をニケシュ氏とじっくり相談した上で決めたことは間違いないでしょう。ソフトバンクグループを育て、かつニケシュ氏を後継者に考えていたのですから自然なことです。この判断の背景にあるのは、間違いなく、ソフトバンクグループの経営における「孫さんスタイル」からの脱却でしょう。僕の日本の組織にいたのでよくわかるのですが、日本的企業というのは、カリスマ経営者に対して、絶対的な服従と忠誠によって成長していくベンチャーが多い。100%と行っても過言ではない。これは、単一民族社会であるが故であり、多様性のあるアメリカ社会では絶対にまかり通らない経営モデルです。成功する前に経営者が訴えられているでしょう。孫さんは、創業期に社員に裏切られて大変な目にあったこともあり、自分に対して従順な人材を集めて成長してきた経緯が大いにある。

しかし、多様性溢れるシリコンバレーで鍛えられ、かつ、その環境で圧倒的な実績を積み上げてきたニケシュ氏からすればこれは違和感のある話です。自分が後継者になったところで、孫さんスタイルに完全にどっぷり使ってきているソフトバンク幹部がいる状態のままでは、ソフトバンクグループが次の成長ステージにいくことはできないと考えた。これはとても合理的な考え方です。全く感情論などではない。Google No.2のポジションを捨ててきているのだから、ソフトバンクグループをGoogleに超える会社にしたいと考えるニケシュ氏からすれば、この組織の「血の入れ替え」は必然と考える。

ところが、1978年に孫さんが創業して以来、孫さんの考え方、戦略の建て方、実行方法で成功し続けてきたことで、今に至る組織です。つまり、それが「ソフトバンクの成功の方程式である」と信じきっている社員が何万といるわけですから、その「孫さんスタイル」にどっぷり使っている組織が、ニケシュがGoogleで実践してきたより本質的なシリコンバレー流の「多様性のある経営スタイル」についていけるわけがない。

つまり、もし、孫さんが本当にニケシュ氏に後継者としてソフトバンクグループを任せるのであれば、ソフトバンクは一旦、業績も含めてヘコむ時期が必要になるわけです。新しいスタイルになれるためですね。しかし、これが何年になるかは全くわからない。30年近く孫さんの経営スタイルで成功してきた会社ですから、その凹みは2年や3年では済まないでしょう。

孫さんとしてはそれは、結果的に、非常に受け入れ難い現実に見えた。その結果が、ニケシュ氏を放出し、一度は解任した全幹部を復帰させ、元の自分の経営スタイルに戻すことになったわけですね。当時の日本のメディアではこのような視点の記事は一切出なかったですね。孫さんが情に厚い人だから新参者のニケシュ氏より古参幹部を選んだと考え人は、はっきりに言って、ヨミが甘いです。僕も経営者だったのでわかりますが、組織を生き残らせるために、血を流す覚悟は、創業者であれば常にあります。成功している創業者兼経営者ほど、その覚悟は強い。簡単に情に流されてしまうようなリーダーは、修羅場を乗り越えられない。当たり前のことです。

わかりますか?感の良い人であればわかると思いますが、この一連の出来事に、「悪人」が誰もいないということを。別に誰も悪いわけではありません。まず、理解すべきは、ニケシュ氏の判断は正しいし、何より、彼の実力は本物だということ。別に能力が低いからソフトバンクから放出されたわけではない。孫さんもそれがわかっているから、彼のためにわざわざ退職金として、68億円まで払った。

つまり、ニケシュは「組織の都合」によって出るにハメになったということです。

理解すべきは「組織という存在自体」に問題があるということ。ピラミッド型の永続的な組織は絶対に存在しえないということです。それは、孫さんは、やがて自分が引退した後のソフトバンクグループが、徐々に衰退することでその現実を知る。

アウンサン・スー・チーさんのケース

From wikipedia – アウンサンスーチー(1945年6月19日 – )は、ミャンマーにおける非暴力民主化運動の指導者、政治家。現在、国民民主連盟党首。2016年3月30日にティンチョーを大統領とする新政権が発足したことにともない、外相、大統領府相を兼任(当初は教育相と電力エネルギー相も兼任していた)、さらに新設の国家顧問にも就任した。同国における国家元首は大統領だが、アウンサンスーチーが事実上の首相と紹介されることもある。

彼女は、かつて、ミャンマー政府に対して行った民主化運動が原因で、ミャンマー政府に捉えられ投獄された経験もある人です。ミャンマーの民主化の流れを受けて、釈放され、その後、民主的な選挙活動を行い、ミャンマー政府の実質的なリーダーとなった。

今、その彼女がメディアで大きく叩かれています。原因は、これです。

スーチーを世界中が猛批判! なぜ「人権派の象徴」は「軍部を守る政治家」に変わり果てたのか

ミャンマー政府の軍部が、ミャンマーの少数民族に対して集団殺害行為を働いたことに対して、彼女が擁護する態度をとったのですね。かつて民主派、人権派の象徴だった彼女が、その真逆をいく行為を続けるミャンマー軍部側にたったことに、海外の民主的なメディアな猛烈な批判を浴びせたわけです。私もミャンマーで暮らした経験はないので、詳細はわかりませんが、原因は間違いなく、ニケシュ氏のケースと同じ「組織の都合」に彼女が振り回されているとみています。組織の都合は、実に強力で、自分の信念すら曲げることを強制してきます。これは、経営者である僕自身体験したことなのでよくわかります。実に恐ろしい存在です。

組織というのは、集団的な防衛本能を発揮させる。この本能は、お互いが経済的に依存関係が強い場合ほど発生します。この点は重要なことなので覚えておいてください。同じ船に乗っているのだから、助け合わないと死んでしまうだろうという力学が働くからです。だから、リーダーも含めて、自分たちが犯した過ちを正当化するという行為をします。もしくは、論理のすり替えですね。自分たちの抱える問題を無視して、別の全く異なる論点から自分たちの正当性を主張するなどの行為をする。

実は、そこに晒されたもう一人のリーダーがいます。もう一つの事例をお話しましょう。

バラク・オバマ元アメリカ大統領のケース

バラク・フセイン・オバマ2世(1961年8月4日 – )は、アメリカ合衆国の政治家である。民主党所属。上院議員(1期)、イリノイ州上院議員(3期)、第44代アメリカ合衆国大統領を歴任した。アフリカ系としてアメリカ合衆国史上3人目となる民選上院議員(イリノイ州選出、2005年 – 2008年。また、非白人、アフリカ系、20世紀後半生まれ、ハワイ州出身者、イスラム教徒を親に持つ子として、アメリカ合衆国史上初となる大統領である。2009年10月に現職アメリカ合衆国大統領としてノーベル平和賞を受賞した。

オバマ氏が、アメリカの歴代大統領の中でも大変優れた人物であることは誰でも知るところです。しかしながら、彼もまた「組織の都合」ないしは「組織の集団的防衛本能」に振り回され、信念を曲げることを強いられた人です。

詳しくは、映画「エドワード・スノーデン」を見ると良いでしょう。そこできちんと描かれています。なぜなら、オバマ氏は、2008年の大統領選時に、前任のブッシュ政権が、テロ対策の一貫として強化したアメリカ市民に対するインターネットを通じた監視行為を批判し、これをやめさせることを選挙公約の一つに掲げていたのですが、「組織の都合」に飲み込まれ、全く手を打つことができず、最後は、エドワード・スノーデンに暴露され、その際に、彼はスノーデン氏のことを「あいつは、ハッカーだ」と言い放ったのですね。詳しくは映画をみてもらえればわかります。

これが「組織」という存在がもつ恐ろしさなのです。

多くの人が味わう組織の不幸

僕は、組織の中で働いたこともあれば、自分で、組織を起こして率いた経験もあるので、両方の立場で考えることができるのですが、以前、このブログでも取り上げた実質的なフラッシュメモリーの発明者である元東芝の舛岡氏のように、組織内のイノベーターは、多くの場合、「社内政治」で潰されるということは多々あることです。

これがなぜ起きるのか? イノベーターではない、自ら市場を生み出すことができないサラリーマンにとっては、世紀の発明となるフラッシュメモリの可能性などどうでもよく、自分が一円でも高い給料、レベルの高いポジションに、1日でも早く、そして少しでもリスク低く到達できることしか考えてないからですね。いわゆるポリティカル・アニマルというやつですね。しかし、本人がイノベーターではないので、このようなことを求めるのは、ある意味自然なのです。万人がイノベーターの能力を持っているわけではないですからね。ですから、舛岡氏のような人材を生殺しにし、社内政治に明け暮れる人材ばかりを幹部登用した東芝という組織はやがてブラック企業化し、不正会計問題を引き起こすわけです。

別のパターンでいえば、いわゆる「ブラック企業」に就職してしまった人は言わずもがなですし、相性の悪い上司についてしまった部下の人は不幸ですし、斜陽産業に就職した人、ないしはグローバル競争に負けている企業に就職した人は、働いても働いても儲からない会社に就職したわけですから、毎晩、徹夜させられ、過労状態に陥る。無理もないですね。

しかも、そういう会社ほど、上司はイライラしているから部下に当たり散らすのは当たり前です。そして、その部下は、毎晩、ストレスを発散するために飲屋街に消えていく。

こういう中、意志の強い人は、気持ちを切り替えて、必死に努力して、その組織から出て、より環境の良い組織、または独立するなどして、この組織がもつ負のスパイラルを自ら断って生きる選択肢をとっていきます。このブログもそのような生き方を支援するために運営しています。しかし、不幸かな、中には、結果的に、この「組織の都合」と「組織の集団的な防衛本能」に迎合していき、何が正しいかの判断ができなくなり、自ら与えられた不幸と同じ不幸を今度は別の人に与えることをやってしまっている人が多々いる。

ブロックチェーンが作り上げようとしているDAOとは、このような問題点の解決を目指していることをしっかりと理解してください。その点を見誤っていると本当にスケールするブロックチェーン・プロジェクトが何であるかも見えなくなるからです。投資の視点として極めて重要ということですね。

そして、DAOの鍵は優れた「集合知」の形成にあります。詳しくは「こちらの記事」にまとめています。

一人でも多くの人が、「組織が悪である」ことを理解する助けになれば幸いです。