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親戚の小学生の年度末テストがおかしすぎる 作者:唯乃なない
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5、総合テスト大問3

 「大問2」まで終わったところで、用紙二枚目の表が終わっていた。


「まだ、四分の一すら終わってないのか……ってか、どういうボリュームだよ」


 嘘だと言ってくれ。

 冗談抜きで俺の命に関わる。


「……これ、時間内に全部できたか?」


「時間が足りない時はできる問題からやれって言われたよ」


 なるほど。

 時間内にこなせない可能性のある量を与えて、効率よく問題を解く練習のつもりか!


「い、いや、やっぱりなんか違うような……」


 やっぱり、単純に先生たちがはしゃぎすぎてこんな量になってしまっただけに見える。

 でも、一部の心情を読み取る国語の問題以外、本文を読まなくても問題だけ解くということは十分可能だ。


 いや、やっぱり無理だ。

 こんなへんてこな物を見せられて、スルー無理だろ。

 いろいろハードル高過ぎるだろ、このテスト。


「そういえば、これ何時間のテスト?」


「さっきの科目ごとのテストを午前中にやった。午後はずっとこのテストだったよ」


 えげつないことをさらりと言う彼。

 これを午後ずっと。


 なんて拷問だ。


「よく我慢出来たな……」


 先生方、本当に大丈夫なんだろうか。

 本文・問題・文章・量、全てにおいて突っ込みどころがありすぎる。

 というか、突っ込みがないポイントがない。


「ま、まぁ、いいや、次の大問いこう」


 命が尽きる前に先に進めることにする。

 二枚目の用紙をぺらっとひっくり返す。


 すると、いきなり巨大ロボットの絵が目に入った。


「え……?」


 よく見ると、滑車とロープの先に複雑なアンカー機構で固定された巨大ロボットがぶらさがっている絵だ。


「え……あ、あぁ、滑車と重りの問題か。そういえば昔、こんなような問題を見た覚えがあるな」


 理科が本気出しやがった。


 たしかに重りは質量さえ定義されてればなんでもかまわないはずだ。

 しかし、巨大ロボットとは。しかも、まさかの3Dレンダリング。

 白黒コピーで細部は潰れてしまっているが、関節機構から頭のセンサ類まで相当精巧に細部まで描き込まれていることがわかる。

 見たことがないロボットだが、どこからこんな画像を持ってきたんだろう。


「あ……」


 巨大ロボットの足元の空白に小さく『作:6組 寺田父』と書かれている。

 趣味でモデリングしていたロボットとかじゃないかという気がする。


「でも、スペシャルサンクスに載ってない……」


 どうせなら載せてあげればいいのに。


「『ジル・ゼングラッハAZえーぜっと201』かっこええよな!」


 小学生がいきなり大きな声をあげた。

 たしかにロボットのデザインはいい。


「ジル……なに?」


「『ジル・ゼングラッハAZ201』! 僕は武井先生に一回聞いただけでちゃんと覚えたんやで!」


「あ、あぁ、このロボットの名前ね」


 子供って、時々すごい記憶力発揮するよな。

 やっぱり聞いたこと無い名前だ。

 寺田父のオリジナル作か。


「親御さんたちまで総力参加かよ……。そういえば武井がメールしてるとかなんとかいってたな」


 ちなみに、ロボットのインパクトに飲まれているが、横に小さくミカミカと思われる魔法少女の絵が入っている。

 こちらのクオリティは正直……言っちゃあ悪いが微妙だ。

 作は「一組 西田母」となっている。

 よかったな、「父」じゃなくて。

 お父さんがこれ書いてるとかなったら、結構その子供の立場きつくなるぞ。


「本当に一体どういう経緯でこのテスト作られたんだよ……」


 気になる事は多々ある。

 しかし、早いところ読み終えて、早々に小学生に帰宅してもらわなければならない。

 でなければ、俺が倒れる。


「次だ……次……」


 とりあえず、大問3の本文に目を向ける。


「長い……」


 疲れているのに……


 長すぎるので、とりあえず拾い読みしてみると、


・ロボットや宇宙戦艦が飛び立つ(ちなみに、ジル・ゼングラッハというような名称は書かれずに、単に『ロボット』と書かれている)

・たかし君とゆうき君も地上で会話してから飛び立つ

・女王が地上で飛び立っていく部隊を見つめる


 という、前回に引き続いた順当な内容のようだ。

 テストとしてはおかしいが、物語の流れ的には特にひねったところもない。


「ま、まぁ、とりあえず中身読むか……」


「早く読むんやで」


「はいはい……」


 とりあえず一行目から、できるだけ突っ込まないようにして読み進めていく。

 一行一行、微妙に突っ込みたい点はあるのだが、それをしていると読み終えるのが三日後になってしまう。


「あ……」


 しかし、引っかかりたくなかったのに、たかし君とゆうき君の会話シーンでひっかかってしまった。


「たしかにこの作戦の勝率は低い。だけど、ゆうきが犠牲にならなければ勝てないと決まったわけじゃないだろ!」

 たかし君とゆうき君は指を絡め合いました。

「その話は前済んだはずだ。俺はこの勝利にすべてを掛ける」


 あ、あれ、なんだこの地の文は。


「な、なんで指を絡めあってるんだ……?」


 不穏な雰囲気が漂ってくる。


 だめだ、ここだけはスルー出来ない。


「あのさ……この地の文を書いた清水先生って女の先生なんだよな?」


「うん」


 大問1の不自然な文章を見ると、どうやら南先生はセリフしか修正していない。

 つまり、この清水先生が書いた原文では、この地の文が象徴するセリフがついていたと推測される。


 たかし君とゆうき君が指を絡め合う話。


「まさか……」


 いや、ありえない。

 いくらふざけた先生であろうとも、まさかテストでそんなことをするわけがない。


 しかし、どうしても頭をよぎるのは、


「びーえる……?」


 ボーイズラブ?

 清水先生、腐女子?


 いや、そんな馬鹿な……。


 仮にそういう趣味があるとして、テストでその一線を越えるわけがない。

 しかし、その視線で点検すると、二人が手をつないでいたり、顔を近づけていたり、見つめ合っていたり、怪しい描写が山のように見つかってくる。

 特に危ない見つめ合うシーンは、南先生のアクロバティックな力技で「互いに決意表明をするシーン」に書き換えられているが、よく見ると不自然さが漂っている。


「そ、そういえば、南先生はどうして清水先生の文章が駄目だって言ってるのかな?」


「えーっと、『小学生には早すぎる』とか言ってた」


 小学生がさらりと返答した。


 あ、やばい。


 これ駄目なパターンだ。

 清水先生は100%黒だ。


 こうなると、最初の大問の二人がお弁当を分け合うシーンすらあやしく感じられてくる。

 いや、あやしいなんてもんじゃない。

 きっと100%黒だ。

 元のセリフではとても小学生に見せられない内容だったに違いない。


「南先生……ありがとう……」


 自然とそんな言葉が口をついて出てきた。


 今まで俺は、清水先生がまともなものを書いたのに、南先生がセリフ修正で斜め上なものを作ってしまったのだと思っていた。

 でも、真相は逆だったようだ。

 清水先生が作り上げたとても小学生には見せられないようなものを、南先生が魔法の指先でなんとか見れる形にしてくれていたのだ。


 よかった……よかった!!

 本気でよかった!

 南先生、ありがとう!

 本当にありがとう!

 あなたがいなければ、このテストはどうなっていたことか!


 8枚両面にわたってBL臭がするテストなんて、学校でどれだけの死傷者が出たことだろうか。

 俺だってそんなの嫌だ。

 それを思えば、この程度のはっちゃけストーリーのほうが百倍、いや千倍マシだ。

 南先生の功績は計り知れない。


「というか、清水先生……そんなものをテストに載せようとしてたの?」


 だ、大丈夫か?

 いや、冷静に考えて全然大丈夫じゃない。


 これもきっと舞台裏ではいろいろあったに違いない。

 やはり鍵はスペシャルサンクスの教頭先生だろうか。

 教頭先生がBL好きの清水先生に業を煮やして、執筆している清水先生を後ろから羽交い締めにして「清水先生は私が抑えます! 南先生、今のうちに!」「はい!」「教頭先生、なにを!? ダメ、書き換えないで! たかしとゆうきは……私の……私のモノだぁぁ!」とかそういうことがあったんだろう。


 頭痛が痛くなる。


「…………はぁ」


 そういえば、この頭痛が痛くなるテストで彼は何点取ったのだろう。


「あれ、点数は?」


「最後」


 とりあえず清水先生のことは頭のなかから追い出して、最後の用紙のスタッフリストの下に書かれた点数欄に目をやる。


『国語 83点

算数 97点

理科 81点

社会 73点

心意気 ∞点』


「す、すげぇ……こんな前代未聞なテストでまともな点とってるじゃんか、お前! え、でも心意気って……何?」


「道徳」


 小学生が簡潔に答えてくる。


「あ、あぁ……道徳ね。しかし、無限ってなんだよ……武井やりすぎ」


 で、道徳の問題はどういうのがあるのだろうか。

 用紙を巻き戻して、先ほどの大問に戻る。


『この場にあなたが居合わせた場合、あなたは”人として”どう行動しますか。率直な意見を述べなさい』


 たかし君とゆうき君の会話のシーンに対して、意見を求められている。


「な、なんかこの問、妙に重くない……?」


 道徳ってこういうんだけっけ……?

 もはや記憶が無いのでなんとも言えない。


 人としてどう行動するか?

 大問1から引き続いてゆうき君が特攻しようとしているわけだ。

 となれば、普通に考えて『必死で止める』といったところだろうか。


 解答欄に視線を向ける。


『解答:ゆうき君を殴り倒して、僕が行きます』


「お……」


 あ、やばい、ちょっと目頭に変なものがこみ上げてきた。


 ちょ、ちょ、やばいやばい。


「お、お前、熱いんだな……」


「当たり前やで!」


 こみ上げてくるものを抑えながら聞くと、小学生はひっくり返りそうな勢いで胸を反らせた。


 解答欄には『Excellent!!』という文字がメチャクチャ勢いよく赤ペンで入れられていて、更に花丸が3つついてる。

 あぁ……これはたしかに武井なら無限点入れるだろう。


「いやぁ……まっすぐ育ったな……」


 彼に聞こえないように小さくコメントして続きを読み始める。


 すると、すぐにまた引っかかった。


「僕は宇宙飛行士になるのが夢だったんだ」

 たかし君がこれから飛び立とうとしている空を眺めながら言いました。


「これ……笑うところ?」


 宇宙飛行士どころか、人類が到達したことのないところまで生身で来ちゃってるんですけど。

 この一文はまじめに書かれたのか、それとも笑いをとろうとして書かれたのか、まずそこがわからない。


「とっくに叶ったじゃないか。俺達はどこへでも行けるぜ」

 ゆうき君が顔を近づけてきました。

「ああ、そうだね。今は地球とこの星を守り通すことが夢だよ」


 しかも、顔を近づけ合っているし。

 清水先生……


 さらに読んでいくとセリフの羅列が永遠と続いていく。

 途中で何故か二人で昔話をしだす。


「子供の頃の昔話とかどうでもいいだろ! っていうか、今も子供だろ! ああ、もう! もう!」


 飛ばす。容赦なく、飛ばす。


 数十行飛ばしたところで、ようやく昔話が終わる。


「たかし、俺がいなくなった後は頼んだぞ」

「僕は炎の男にも速度で負けてしまった。こんな僕では地球とこの星を守りきれない。だから、そんな無謀なことはよすんだ!」」

「お前の強みはその右腕だろ。速度で負けたくらいで気にするな。大丈夫、お前ならなんとかできるさ」


 右腕が強み……?

 俺は武井の算数の問題を全部読んだが、そんな設定初めて聞いた。


「あ、これが劇場版のオリジナル設定ってやつ? だから、これはテストだって……」


 頭をゆっくり振って、問題文に目を通す。


 もう、いまさら引っかかる点はない。


 国語は接続詞問題がメインでとても普通。


 算数はたかし君と四天王の一人である「闇の少女」が激しい確率戦闘を繰り広げている。

 修行パートだ。


 理科はミカミカが星空を観測している。

 どうでもいいけど、地球以外から星空観測したら条件が全然違うんじゃないだろうか。


 そして社会だけがマイペースに参勤交代の問題を出している。


「……よし、次の大問に行こうか」


「兄ちゃん、読むの結構遅いね」


 小学生が少し不満そうに言ってきた。


「我慢してくれよ。いちいちツッコミどころがあるもんだから、スラスラ読めないんだよ……」


「まだまだやで!」


 少年は腕を組んで見下すようなポーズを取る。

 冗談なのだろうが、かなり疲れているものでちょっとだけカチンと来る。


「お、大人になってからもう一度読んでみろよ……絶対にひっくり返るからな」


 時計を見るとすでにかなり遅い。


「…………」


 半分あきらめの境地で次の大問に視線を移した。


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